欧州最新情報

パリ最新情報「フランスで続発する誘拐事件。仮想通貨長者、新たな標的に」 Posted on 2025/05/16 Design Stories  

 
2025年に入ってから、フランスでは、暗号資産(仮想通貨)関連の富裕層や、その家族を標的にした誘拐事件が相次いで発生している。仮想通貨の特性を悪用した新たな手口の犯罪として、いまのフランスで大きな関心を集めている。

事実、この手の誘拐事件は5月に入ってからすでに2件目だ。つい先日の5月13日には、パリ市内でも同様の事件が発生している。仮想通貨企業CEOの娘とその幼児が、道路で複数の犯人によって襲撃を受け、車で連れ去られそうになったのだ。幸い、通行人や近隣住民の助けにより事件は未遂に終わったが、犯行グループは現在も逃走中だという。犯行の一部始終を捉えた映像はメディアで公開され、全国的に広く知れわたる結果となった。
 

パリ最新情報「フランスで続発する誘拐事件。仮想通貨長者、新たな標的に」

https://x.com/franceinfo/status/1922243100761563572?s=51
※franceinfo 公式X



 
さらにさかのぼると、5月初旬にも仮想通貨起業家の父親が誘拐される事件が起きている。父親は、身代金要求時に指を切断されるなどの暴行を受けた。交渉後に無事救出されたというが、犯人側が要求した身代金は最大で700万ユーロ(約11億円)にも上ったそうだ。

また1月にも、仮想通貨企業の創業者夫妻が誘拐される事件があった。この際も指の切断をともなう暴力的な犯行で、一部の身代金が支払われた後に警察が介入し、最終的には犯行に関わった10人が逮捕されている。いずれの事件も手口が似通っているとのことで、フランス当局は国外を含む共犯者(指示役)の特定に向けて、いまも捜査を続けている。
 



 
ではなぜ、仮想通貨の資産家が狙われるのか。実はこうした事件は、隣国ベルギーやカナダでも2024年ごろから報告されているが、フランスではとくに件数が多く、深刻化している。
その理由は複数あって、まずは仮想通貨の「匿名性」と「即時性」が挙げられるという。仮想通貨は取引の追跡が難しく、送金も一瞬で完了するほか、国境を越えて簡単に資産を移動できる。こうした特徴は犯罪組織にとって非常に都合がよく、資産家を格好のターゲットにしてしまう。

加えて、「セキュリティの脆弱性」も大きな問題だ。多くの仮想通貨資産家は高額な資産を持ちながら、SNSやメディアに顔をさらしており、防犯意識が十分とは言いがたい。パリ警察本部刑事部長のファブリス・ガルドン氏は、こうした脆弱性に加え、近年パリの高級ブティックや宝石店がセキュリティを大幅に強化したことで、犯行グループが「次の標的」として仮想通貨業界に目を向けはじめた可能性を指摘している。つまり、かつてはフランス発祥の高級ブティックがターゲットになっていたが、いまやその矛先が変わり、仮想通貨の資産家へと向かっているのだ。
 

パリ最新情報「フランスで続発する誘拐事件。仮想通貨長者、新たな標的に」



 
フランスで仮想通貨に関心を持ち、実際に投資している人は、決して多くはないが、一定数存在する。なかでも目立つのは、30〜40代のテック業界出身者たち。SNSとの親和性が高く、日常的にデジタルツールを使いこなしているのが特徴だ。ただ相次ぐ誘拐事件を受け、フランスのルタイヨ内務大臣は、16日にも仮想通貨関連の関係者を省に招き、安全対策について話し合う方針を明らかにしている。今後は彼らのセキュリティ強化や、SNSやメディアでの露出を避けるなど、具体的な保護措置が取られることになりそうだ。

1月の誘拐事件で被害にあったデビッド・バルラン氏は、「現在のフランスで成功するとは、暗号資産業界であれ他の分野であれ、背中に標的を貼るようなものだ」と、後のインタビューで語っている。そんな業界からは、フランス司法の緩さをあらためて指摘する声も。ちなみに1月の事件では、指示役のうち1人が服役中に刑務所内から指示を出していたことが発覚し、逮捕されている。

こうした一連の事件は、デジタル社会の陰に潜むリスクを浮き彫りにした。今回は誘拐時の映像が公開されたことで大きな注目を集めたが、これからは自由な経済活動と安全な暮らしの両立が、ますます求められることになりそうだ。(大)
 

自分流×帝京大学