欧州最新情報

ロンドン最新情報「E U離脱後のG7で、世界にイギリスの存在感を印象付けたエリザベス女王のユーモア」 Posted on 2021/06/14 Design Stories  

 
イギリス南西部コーンウォールで開かれていたG7(先進7カ国首脳会議)が、13日に閉幕した。
開催地は、前回2019年のフランス・ビアリッツと同様、風光明媚な海辺のリゾート地であるカービス・ベイだ。
初日の11日には、巨大なドーム型の温室で生物多様性や環境について学べる植物園「エデン・プロジェクト」で歓迎式典が行われた。
イギリス王室からはエリザベス女王、チャールズ皇太子夫妻、ウィリアム王子夫妻が出席し、各国首脳夫妻を迎えて「ソフト外交」を繰り広げた。



ウィリアム王子夫妻がG7に出席するのは初めてで、4月のフィリップ殿下逝去を受けて、上級王室メンバーの仲間入りを示したものとみられている。
また、長年にわたって環境保護のチャリティー活動に取り組んでいるチャールズ皇太子は式典出席者に対する演説を行い、世界が一致団結して気候変動の解決に取り組むよう訴えた。
しかし圧倒的な注目を集めたのは、白地に華やかな花柄プリントのドレスで登場した女王だ。
ケーキ入刀を求められると、「特別だから」とセレモニー用の剣を借りて自らケーキを切った。
また、40分間のパーティーの後、ソーシャルディスタンスを保ちながら行われた記念撮影では、女王がしっかりとした声で「楽しんでいるように見える方がいいのかしら」と述べ、ボリス・ジョンソン首相があわてたような口調で「もちろん。そして、見た目とは違って、私たちは実際に楽しんでいますし」と応じたことが、内外で大きな話題を呼んだ。
フィリップ殿下の葬儀以来の最も大きな公務で、女王はイギリス的ユーモアを発揮し、周囲を和ませる言動で、健在ぶりを印象づけた。
そして、イギリス内外で分断を生んだE U離脱後初めてのG7で、世界にイギリスの存在感をアピールすることにも貢献した。
 

ロンドン最新情報「E U離脱後のG7で、世界にイギリスの存在感を印象付けたエリザベス女王のユーモア」

 
12日には、ウィンザー城で、95歳になった女王の誕生日祝賀セレモニーが行われた。
女王の実際の誕生日は4月21日だが、公式の誕生日は6月の第二土曜日。
これは、18世紀、11月生まれのジョージ2世が、天候のよい6月に式典を行うようになったことから生まれた伝統だ。
通常はロンドン中心部で馬車に乗った女王と騎兵隊によるマーチが行われ、女王がバッキンガム宮殿のバルコニーに他の王族とともに姿を現すが、今年は昨年に続き、ウィンザー城で規模を縮小して行われた。
女王は13日、同じウィンザー城で、G7を終えたバイデン大統領夫妻をお茶会に招いた。
女王が即位以来、現職のアメリカ大統領と会ったのは13人目だ。
トランプ前大統領夫妻は2018年、やはり女王にウィンザー城でのアフタヌーンティーに招かれ、翌年の訪英時にもバッキングガム宮殿での晩餐会でもてなしを受けた。
もちろん女王は、熾烈な選挙戦の末にトランプ氏を破ったバイデン大統領と夫人も、同様に歓待した。
今日付の「デイリーメール」紙ウェブ版によれば、バイデン大統領はその後の取材に対し、「女王と長い間話した」と言い、「無礼だとお思いにならないと思いますが、私の母を思い出しました。外見も優しさも」と語った。
 

ロンドン最新情報「E U離脱後のG7で、世界にイギリスの存在感を印象付けたエリザベス女王のユーモア」



華やかな外交の裏で、イギリス国内では、先週から女王と政治の関係をめぐって議論が巻き起こっている。
オックスフォード大学モードリンカレッジの大学院生が、大英帝国による植民地支配と女王の関連を指摘する声に基づいて、投票により談話室に飾られていた女王の肖像写真を撤去した。これについてウィリアムソン教育相が「完全な愚行」と糾弾し、「女王は国家の長であり、イギリスの最良の部分の象徴である。長年の治世にわたり、寛容、インクルーシブであること、敬意というイギリスの価値観を世界に広める役割を果たしてきた」と批判。
これに対して同カレッジのダイナ・ローズ学長は、言論の自由と学生の決断を尊重する立場を示すとともに、「カレッジと女王陛下の関係についての事実を述べれば、談話室は大学院生の自治管理下にあり、2013年頃に学生たちが女王の写真を購入して飾っていました。そして最近撤去しました。これらの決断は学生たちのもので、カレッジのものではありません」と説明。
さらに、「写真は安全に保管されています」と付け加えている。しかし、イギリスの保守系メディアの多くは肖像の撤去を大きな見出しの記事で扱い、非難した。
 

ロンドン最新情報「E U離脱後のG7で、世界にイギリスの存在感を印象付けたエリザベス女王のユーモア」

 
作家・俳優のデビッド・ミッチェル氏は左派系の高級紙「ガーディアン」ウェブ版(13日付)に寄稿し、保守党政権が女王を政治的に利用し、ブレグジット後のイギリスの国家としての統一性を推し進めようとする結果、さらに分断を生んでいるとして、「学生の性急な決断以上に、真の女王への侮辱だ」と批判している。
イギリスにおける女王の位置づけは「王は君臨すれども統治せず」という言葉に集約される。そもそもイギリスの議会政治の発祥は、ドイツ出身で英語を話さなかったジョージ1世が国王に即位したのを受けて、1721年にウォルポール初代首相による内閣が組織されたことで、このとき「王は君臨すれども統治せず」という原則も生まれた。
今回のG7と英米の外交、そして国内での議論は、逆に言えば「統治せずとも君臨」している女王の立場を改めて印象づける機会となった。(清)
 

自分流×帝京大学
地球カレッジ