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パリ最新情報「肌にも環境にもやさしいミルクの服、パリで新発売へ」 Posted on 2022/09/16 Design Stories  

 
ファッション大国フランス、酪農大国フランス、この二つを組み合わせた理想的なプロジェクトが始まろうとしている。

どちらも世界に誇れる産業ではあるが、世界一の称号の裏には「廃棄物」という深刻な問題を抱えていた。
特に牛乳はフランスの食品廃棄物の9%を占めており、賞味期限切れなどの理由で年間約7千トンも無駄になっているという。
 

パリ最新情報「肌にも環境にもやさしいミルクの服、パリで新発売へ」



 
フランス人若手デザイナーのモッシ・トラオレさんは、古い牛乳から取り出した繊維で新たな服を制作する。
繊維自体は北フランスにある欧州革新テキスタイルセンター(Ceti)で作られており、「消費に適さない牛乳を価値あるもの」として10年前から研究が進められていた。

このプロセスは、羊毛に含まれるタンパク質が牛乳の成分であるカゼイン(牛乳のタンパク質)と構造が酷似していることから始まっている。
原料を乾燥させて白い粉末にし、さらに加工して紡糸したものを「ミルクファイバー」と呼び、それを元に衣服を完成させる。

ただこれは新しいアイデアではなく、1930年代にはすでにイタリアで始まっていた。
ミルクファイバーは抗菌性、帯電防止性、低刺激性などの特性を持ち、第二次世界大戦中にはウールに代わって負傷者用の衣服によく使用されたという。
しかしこの方法は大量の化学物質と電気代がかかるのが問題だったため、戦後は安価な合成繊維に置き換えられていた。
 

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パリ最新情報「肌にも環境にもやさしいミルクの服、パリで新発売へ」

※モッシ・トラオレさん(写真左)

 
2000年代に入ると再びイタリア・ドイツにおいてミルクファイバーの生産が再開され、特にここ数年ではイタリアのアパレル業界で注力されている。
デザイナーのモッシ・トラオレさんは、「フランスはオートクチュールの国なのに、この分野では遅れを取っている」とし、欧州革新テキスタイルセンターとタッグを組み、2020年からフランス産の牛乳を原料としたレディースファッションの制作に取り掛かった。

利点は廃棄物対策にも有効であるほか、畜産農家に副収入を与え、若い人たちが農場を継ぐ原動力にもなるということだ。
タッグを組んだセンターは「このプロジェクトには社会的な側面もある」と述べており、フランスにおけるミルクファイバーの将来性に大きな期待を寄せる。

ミルクでできた服の特徴は以下の通りである。
・シルクの代替素材としても開発されたため、シルクの様な風合いと光沢がある
・リサイクル可能で、吸湿性がよく、低アレルギー性と耐火性に優れる
・シルクよりは安価であるが、コットンよりは高価
・着用感がソフト
 



パリ最新情報「肌にも環境にもやさしいミルクの服、パリで新発売へ」

 
なおミルクの服は、パリのプランタンデパートとモッシさんのオンラインストアで9月中旬より発売されている。
いずれも国内初の試みだということで、欧州革新テキスタイルセンターは9月28日に報道関係者を集め、顧客の反応やさらなるプロジェクトの進捗状況を発表する予定だ。

捨てられる運命にあった牛乳を再利用することは、肌や環境にやさしいだけでなく、天災やインフレで苦しむ酪農家をも救う。
同センターは2023年から繊維産業が盛んなオー・ド・フランス(パリ近郊)でミルクファイバー事業を活性化させるほか、酪農家の多いノルマンディー地方にも広げていく方針だという。
またミルクファイバーは化学製品がまったく使われていないため、繊維かぶれを起こしてしまう人や赤ちゃんにも理想的な素材とのこと。

フランスでは、地球温暖化への危機感からエコ素材の需要が高まっている。
こうした代替繊維の再投入は合理的でもあり、猛暑に生きるフランス人には特に響くだろう。
そのため将来的には「ミルク包帯」や「ミルク下着」など、さまざまな分野でミルクファイバーが登場するのかもしれない。(せ)
 

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