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パリ・アート情報「パリの穴場ミュージアム、『ザッキン美術館』へ。入場無料!」 Posted on 2025/05/29 Design Stories  

 
パリ6区、リュクサンブール公園から歩いてすぐのところに、緑あふれる穴場的な美術館がある。20世紀に活躍した彫刻家、オシップ・ザッキンの自宅兼アトリエを舞台にした「ザッキン美術館(Musée Zadkine)」だ。
彼の手がけた彫刻と、美しく整えられた小さな庭が調和するこの美術館。常設展であればいつでも無料で入場できるというから、アートが根づくパリの懐の深さを、あらためて感じさせられる。
 

パリ・アート情報「パリの穴場ミュージアム、『ザッキン美術館』へ。入場無料!」

※パリ6区、ザッキン美術館



 
ザッキン美術館は、老舗デパートのル・ボンマルシェからもそう遠くない場所にあるが、公共交通機関であれば地下鉄4番線、12番線、RERのB線などでアクセスできる。かつて「芸術の街」として知られたモンパルナスに位置し、パリが芸術の中心地であった時代の空気を、21世紀の今もそのままに伝えている。
 

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※彫刻や銅像が数多く残るモンパルナス地区

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※ザッキン美術館の入り口



 
街に点在する彫刻に導かれるように歩いていくと、やがてザッキン美術館の入り口にたどり着く。邸宅美術館というだけあって、誰かの家にお邪魔するようなちょっとした緊張感が心地よくもあるこの場所。そんな中で目に飛び込んできたのは、あたたかかな木や花崗岩の彫刻だった。「人間の頭」と呼ばれる第一展示室には、アフリカの原始アートなどから影響を受けた、数々の彫刻作品が美しく並んでいる。
 

パリ・アート情報「パリの穴場ミュージアム、『ザッキン美術館』へ。入場無料!」

 
第一次世界大戦の混乱期を経て、ロシア(現在のベラルーシ)からパリへやってきたザッキン。かつてモンパルナスで起きた芸術運動「エコール・ド・パリ」の中心人物だったザッキンは、この場所で、モディリアーニや藤田嗣治らと深いつながりがあったという。地区ごとに異なる表情を見せるパリだが、こうして外国人アーティストに門戸を開き、快く迎え入れている姿は、今も昔もほとんど変わらないのではないだろうか。
 

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ザッキン美術館は小ぶりながら、どの部屋も日当たりが本当に良い。窓の外には緑ゆたかな中庭が広がっていて、この美術館の魅力をいっそう引き立てている。ザッキンはおそらく、自然と作品の調和を何よりも大切にしていた芸術家だったのだろう。当時は人も建物も今より少なかったと想像するが、彼はここに広がる木々と葉と、そして土のリズムに合わせながら彫刻に向き合っていたのかもしれない。
 

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※敷地内にあるアトリエ



 
この場所はまた、ザッキン夫妻にとって人生の終の棲家でもあった。二人がこの世を去ったあと、自宅は作品とともにパリ市へ寄贈されている。美術館として生まれ変わったのは今からおよそ40年前、1982年のこと。現在わたしたちが目にする中庭は、ザッキンの作品世界から着想を得た、ランドスケープデザイナーのジル・クレマンによって設計された。
 

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1995年からはアトリエの一般公開にともない、年に数回の企画展をはじめ、アーティストによる書籍の発表会や朗読会、コンサートなど、さまざまな文化イベントが開催されている。しかし特筆すべきは、ザッキン美術館が視覚に障がいを持つ人々にも開かれていることだろう。これは、「誰もが彫刻に触れてほしい」というザッキン自身の願いを反映したもの。館内では触覚ガイドツアーなども実施されており、アート作品が誰にとっても「触れられる」ものであることを教えてくれる。パリの散歩がてらに、ふらりと立ち寄りたくなる素敵な美術館だ。(大)

Musée Zadkine(ザッキン美術館)
100 bis, rue d’Assas 75006 Paris
https://www.zadkine.paris.fr/en
 

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