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パリ最新情報「卵子凍結の保険適用化で産むタイミングに選択肢、フランスの不妊治療」 Posted on 2022/02/19 Design Stories  

パリ最新情報「卵子凍結の保険適用化で産むタイミングに選択肢、フランスの不妊治療」

 
日本では、2022年4月から不妊治療への保険適用が開始されることが話題だ。
フランスでは、1994年から生殖補助医療(Assistance médicale à la procréation、略してAMP)に関して、社会保険で費用が支援されてきた。
フランスでは「不妊治療」というよりも、「生殖補助医療」という呼ばれ方が一般的だ。

例えば、体外受精であれば、43歳の誕生日までの間に、4回まではかかる費用がほぼ100%社会保険でカバーされる。
4回の数え方としては、採卵、受精、移植までの1サイクルを完了した場合のみ、1回として数える。
よって、採卵ができなかった場合や、受精しても育たなかった場合はカウントされない。
一度にたくさん採卵できて、その後、受精卵*を複数回に分けて子宮に戻したとしても、まとめて1サイクルとみなされる。
また、出産を経れば、そのカウンターはゼロに戻るので、第2子を希望する際は、また4回のチャンスがあるのだ。
 



 
現時点でも、大変恵まれた環境といえるが、更なる法律が2021年9月28日に制定された。
それは、未婚女性、同性カップルを含む、全ての女性への生殖補助医療が、保険適用になるというものだ。
それまでは、異性カップルの不妊治療のみが保険対象だった。
大きな違いは、健康な未婚女性の受精前の卵子を、凍結保存できるようになった点だろう。
異性カップルの不妊治療では、卵子凍結は受精卵*を凍結させることが多い。
また、女性の卵子単体の凍結となると、以前は基礎疾患や、ガン治療のためなど、妊娠リスクを抱えた場合のみに限られていた。

卵子は老化するといわれている。
今までも、キャリアに集中するために、若いうちに自費で卵子を冷凍保存するという女性はいた。
だが、これからのフランス女性は、疾患を抱えていなくとも保険適用で、妊娠するタイミングをある程度、コントロールできるようになったのだ。
AFP通信の取材によると、法律が制定された2021年、年内には1000件程度の要望があると事前に予想されていたが、実際は3500件を超えたそうで、反響の大きさを感じる。パリの東50キロに位置するモー市(Meaux)の病院では、新規患者の10%が単身女性になったと、ル・パリジャン誌が報じている。
 

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だが一方で、一般的にはあまり認知されていないという現実もある。
筆者が周囲の人に尋ねてみたところ、30代半ばの女性がほんの数人、知っていた程度で、多くの人の反応は「疾患がなければ、未婚女性の卵子の保存は保険適用外」という認識だった。
この新たな法律を知っていた女性のひとり、アンナさんに話を聞くことができた。

アンナさんは企業勤めの36歳、職場では中堅として活躍し、そろそろ管理職という雰囲気がある。
彼女の周囲の友人たちもキャリア志向で、妊娠、出産をためらっている人が少なくないという。
この女性の社会進出が進んだフランスにおいても、産みづらいという感覚を持つ人がいたのかと、正直驚いた。
彼女の仕事の話を聞いていると、その情熱は日本で産み時を悩む女性たちと変わらない。
年齢的な焦りもあるが、キャリアに空白期間ができるのも怖い、そもそも仕事が忙しくて出会いもないという。
今までは不妊治療の支援が手厚くとも、未婚の自分には関係なかった、とアンナさん。
これからは、彼女のようなパートナーがいない人でも、保険適用で卵子を凍結し、将来の妊娠に備えることができる。
 



 
彼女の友人の中には、法律制定より前に自費で卵子を凍結し、キャリアが一段落したところで、精子提供を受けて出産に踏み切った人もいるという。ひとりで育てていくそうだが、フランスは単親家庭に対しての保護も手厚いので不安は少なそうだ。
アンナさんは、卵子の凍結ができたからといって、単純に出産を先延ばしにできるものとも考えていない。
未受精卵は、受精卵よりも解凍後の生存率が低いともいわれている。
自分がやるかどうかは別にしても、ひとつの選択肢が増えるということは、将来への安心材料にもなり、非常にありがたいと話していた。

子どもを望む全ての人に、フランスの生殖補助医療の門戸は開かれた。
*受精卵とは分割前の卵子を指し、正しくは「胚盤胞」だが、便宜上「受精卵」とした。
(ウ)
 

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