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パリ最新情報「仏年金改革案:フランス国民の怒れる声。デモ参加者の数は近年で最大に」 Posted on 2023/01/21 Design Stories  

 
1月19日(木)、フランス国内は大荒れとなった。
仏内務省の発表によれば、全国で約112万人が何らかのデモに参加したということだ。
これは当初の見込みであった75万人よりもはるかに多く、パリだけで約8万人の民衆が街頭に立ったと発表されている。

今回のストライキ・デモは、政府の新・年金改革案に対して仏国民が猛反発したことにより起こった。
1995年のジュペ案(同年金改革案、パリだけで49万人の動員数)よりは少ないものの、2019年末の第一期・年金改革案発表時より人数が上回っており、近年では最大規模の抗議活動となっている。
 

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※パリではほとんどの鉄道・地下鉄が減便またはラッシュアワー時のみの運行になった。自動運転の地下鉄1番線・14番線だけが通常通りの運行だったが、目立った混雑は見られなかった。



 
首都パリでは交通ストライキのほか、19日午前中から大規模なデモが発生していた。
中でも規模が最も大きかったのが、パリ11区・レピュブリック広場の抗議デモである。
集まった人々は肉眼で確認できるだけでも数万人。
彼らは12区のナシオン広場に向かう数キロの距離を、反対の声を大きく上げながら歩いていた。
 

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参加者は概ね40代〜50代の人々であったが、20代前半とみられる若者も少なくなかった。
これは、新・年金改革案が新入社員にとっても不利な結果を招くからだろうと推測する。(例えば車掌などの職種においては、2023年9月1日以降に採用された者は、従来あった特別制度がなくなる。現行では52歳での年金受給開始が認められていた)
 

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パリ最新情報「仏年金改革案:フランス国民の怒れる声。デモ参加者の数は近年で最大に」

 
今回は参加者が多いことだけでなく、その熱量も2019年よりはるかに大きいと感じた。
フランス国鉄社員、スポーツインストラクター、教師、会計士、自営業など人々の業種も多岐にわたる。

デモに参加したRATP(パリ交通公団)の整備員は、「我々がストライキを起こすことでRATPバッシングが強まるのは分かっている。しかし最近では若い人が定着せず、入ってもすぐに辞めてしまう。身体はすでに働き過ぎでボロボロだ。政府は職場で死ねというのか」と仏紙Le Parisienのインタビューで怒りを露わにしていた。
 

パリ最新情報「仏年金改革案:フランス国民の怒れる声。デモ参加者の数は近年で最大に」

 
中には人生で初めてデモに参加したというパリ市民もいた。
その姿には大きな”怒り”を感じているとしか言いようがない。
高すぎる生活費やフランスの不安定な社会情勢が多々影響しているためだ。
それ故に「老後を楽しむ余裕などこの国にはない」「民衆のパワーを示す時だ」と、やや革命的な内容が書かれたプラカードも目立った。
 

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※「70歳の消防士」とフランスらしい皮肉が描かれたパネル。



 
人口の多いパリではもちろん、デモに参加しなかった人の方が圧倒的に多い。
しかし道行くパリジャンからは「慣れ」とも「同意」とも言える表情が見て取れた。
フランスのスト・デモは毎月のようにどこかで開催されている。
ここまで大規模なストライキは2019年末以来だが、パリ市民にとってはその時の教訓が生かされていると言えるだろう。

過去の「ゼロメトロ・ストライキ」やロックダウン時の混乱は、パリの代替輸送事業を活発化させた。
これは1月19日にも効果を発揮したようで、当日には電動キックボード・自転車のレンタル、カーシェアリング件数がパリ市内で急増したということだ。
レンタルに必要なアプリのダウンロード総数に至っては、フランス国内で最高記録を樹立している。
 

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一方で政府の反応はというと、やはり「織り込み済み」といった様子が窺える。
仏首相エリザベット・ボルヌ氏は、「国民の意見を訊くことは民主主義に不可欠です。議論と説得を続けましょう」と19日のTwitterで述べている。
またオリビエ・デュソップ労働大臣は仏TV番組にて、「年金改革案で懸念が出るのは当然であり、我々はそれに応えていく」と述べるなど、今回の年金改革案に揺るぎない姿勢を見せていた。
 



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仏労働組合は、1月31日(火)に再びデモを行うことを発表している。
パリ市内では引き続きレピュブリック広場などで開催される予定だが、現場では火薬の匂いが充満しており、今後は過激派が紛れ込む可能性もゼロではないため、パリを訪れる人はこの地域を避けることが望ましい。(大)
 

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