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パリ最新情報「フランスのチーズ消費に変化が起きる?!」 Posted on 2021/11/04 Design Stories  

フランス人の食事風景を見ていて興味深いと思うのは、フランス語でフロマージュ(fromage)と呼ばれるチーズの重要さだ。

毎日、なくてはならないもののように登場し、食事の中でもハイライトを浴びるような位置を占めるチーズ。
食べ方も大事で、メイン料理の後、デザートの前というように必ず順番を守る。フランス人にとってチーズは「締め」というような感覚だろうか。

そしてチーズと一緒に飲む赤ワインもお気に入りのもの、自分史上最高のものを選ぶ。
「バカンス中に恋しくなるもの」の1位もチーズであるし、フランス人のチーズ消費量は1人当たり年間20.4kgにも及ぶ、との調査結果も出ているほどだ。

パリ最新情報「フランスのチーズ消費に変化が起きる?!」



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そんなチーズ愛にあふれたフランスで、ある変化が起きた。
フランス国内で、今年カマンベールチーズの売り上げがイタリア産のモッツァレラチーズに初めて追い抜かれてしまったのだ。
つまり、フランスではモッツァレラが一番売れたということになる。(エメンタールなどハードチーズは除く)

ノーマンカマンベールチーズ製造業者連合(SNFC)によると、今年の初めから9月11日まで、フランス国内で29,230トンのカマンベールが販売されたのに対し、モッツァレラチーズ33,170トンと上回った。

10月にはフランス各紙がこのニュースを取り上げ、通信社La Dépêcheは「カマンベールはもはやチーズの王様ではなくなった」、LCI紙は「チーズ革命」、La Provence紙は「チーズ王国にとって最悪のニュース」などど一斉に伝えた。

これは決してモッツァレラチーズやイタリアを卑下する内容ではないのだが、この事実は「世界一チーズを食べる国」フランスにとってかなりショックだったようだ。

たかがチーズ、と言うことなかれ、議論好きのフランス人には「カマンベールかモッツァレラか」というタイトルで一時間も話し込んでしまうような内容である。
日本に置き換えたら、国産米の売上が外国産に負けてしまった、となるだろうか。

パリ最新情報「フランスのチーズ消費に変化が起きる?!」



ではなぜ、フランスの食卓でこれほどモッツァレラチーズが登場するようになったのか?
その答えは、「扱いやすさ」「料理バリエーションの多さ」にあるようだ。
モッツァレラチーズはアペリティフ、サラダ、ピザなどさまざまな料理に使われ、「食後のフロマージュ」としてのプレートチーズより用途が広い。

「私たちはレストランや伝統的な家庭料理でカマンベールを消費していますが、モッツァレラチーズはより多くの作りやすい、トレンディな料理によく合います」と仏フィガロ紙も言及している。

ピザはフランス人も大好きな食べ物で、その手軽さから子供の誕生会やカジュアルなビストロなどで人気がある。

そしてモッツァレラチーズは、コロナ禍の平日夜の「時短料理」としても大活躍。
多くの人が自炊を余儀なくされた2020年には、前年比+21.2%のピークを記録したという。

自炊がメインだった昨年は、料理のバリエーションに気をまわした一年であった。
このような結果も一時的なものかと思いきや、実はそうではない。
カマンベールチーズの売上高が毎年3%前後で減少しているのに対し、モッツァレラチーズは年間平均5%の増加。

やはり若いフランス家庭を中心にどんどん「食卓のインターナショナル化」が進んでいるようだ。
ノーマンカマンベールチーズ製造業者連合の会長、ファブリス・コリアー氏はこの事態を憂慮し、「私たちはカマンベールチーズ業界の将来を非常に心配しています」とコメントしている。

パリ最新情報「フランスのチーズ消費に変化が起きる?!」



とはいっても、これは消費量の違い、という結果であって、「どちらが好きか嫌いか」という話題ではない。
チーズ大国のフランスにあって、いちばん愛されてきたカマンベールチーズ。
知らず知らずのうちにモッツァレラチーズに1位の座を許してしまったことは、フランス人にとっても青天の霹靂だったらしい。

チーズの消費動向でフランス社会のありようも知れてしまう、というのは中々に興味深い。
どちらも甲乙つけ難いほど美味しいが、やはりカマンベールチーズには自国の王者に返り咲いてほしい、と思ってしまった。(大)

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