どの地区にも独自の魂が宿っているパリ。なかでも6区、サンジェルマン・デ・プレ地区の魂は、カフェ・ド・フロールやレ・ドゥ・マゴといった老舗カフェにあることは間違いない。
 

※レ・ドゥ・マゴ（Les Deux Magots）

 
そんな歴史を証明するように、老舗カフェのレ・ドゥ・マゴでは今、創立140周年を記念した無料の写真展「サンジェルマン・デ・プレ、140年のクリエイティブマインド」が開催されている。
今回の写真展では、1813年から現在に至るまで、レ・ドゥ・マゴおよびサンジェルマン・デ・プレ地区が長年にわたって保ち続けてきた雰囲気と、そのスピリッツに焦点が当たっている。
 

※店内がギャラリーに。レ・ドゥ・マゴの創業は1884年。

 
サンジェルマン・デ・プレ教会を中心としたこの地区の歴史は非常に古い。
しかし19世紀末、レ・ドゥ・マゴとカフェ・ド・フロールの老舗2店舗がオープンした時代は、エッフェル塔が完成したりオペラ・バスティーユが落成するなど、パリが華々しい変化を遂げた時代だった。
のちに起こる第二次世界大戦中では、サンジェルマン・デ・プレ地区は戦禍の影響をほとんど受けなかったという。そのためパリの文化人たちはここに避難し、小さな芸術コミュニティを形成していった。
 

※地区の中心にある、サンジェルマン・デ・プレ教会。

 
戦争からの避難所となっていたサンジェルマン・デ・プレ地区のカフェはやがて、作家サミュエル・ベケット、ジャン・コクトーらの活躍で脚光を浴びる。
多くのカフェが独自の文学サークルや文学賞を設立するようになり、一部の店舗は「文学カフェ」として名を馳せていった。
なお140周年を迎えたレ・ドゥ・マゴは、現在も「作家の月曜日」と題した文学イベントを月に一度、開催している。こうした活動が盛んに行われるのも、サンジェルマン・デ・プレ地区の特徴だと言えるだろうか。
 

※同地区には今も多くの書店・古本屋がある。

 
上下ブラックのスーツ、ウエストコートに白いエプロンといったウェイターたちの衣装も、オープン当初から変わっていない。
レ・ドゥ・マゴに勤務するウェイターの一人は、「ここで働くことを誇りに思っている」としながら、「トレーの上でカチャカチャと音を立てるスプーンやコーヒーマシンなど、あらゆる音が特別な雰囲気を醸し出している」と語った。
サンジェルマン・デ・プレ地区ではこうして、ウェイターたちの凛とした着こなし・伝統的なサービスが、2024年の今も息づいている。
 

 
1970年代に入ると、サンジェルマン・デ・プレ地区は世界中から観光客を引き付け、徐々に「モードの街」へと変化していく。小さな商店は高級ブティックに変わり、不動産価格も高騰した。
しかし同地区の老舗カフェは、「すべてを革新することなく、すべてが融合し、常に動き続ける」としている。
実際にこの場所では新旧カフェ、ブラッスリー、ブティックが立ち並んでおり、働く人々との特別なつながりを物語っている。モードとアンティークが隣り合っている風景もまた、サンジェルマン・デ・プレ地区の魅力だと言えるだろう。
 

※若い世代が経営するビストロも、サンジェルマン・デ・プレ地区の魅力と伝統に寄り添う。

※女性客で賑わうサロン・ド・テ。

 
サンジェルマン・デ・プレ地区の老舗カフェは、当初のバースタイルから文学カフェ、音楽カフェ、そして世界中から人々が訪れる場所へと、独自の進化を遂げてきた。
商店主や地域住民らで構成される、サンジェルマン・デ・プレ委員会はこうした事実を踏まえた上で、「私たちは再現不可能な過去を尊重しながら、この不思議な場所の精神を守ろうとしているのです」と述べている。（コ）