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パリ最新情報「パリのセーヌ川、大統領も市長も“泳ぐ”と表明、五輪の直前に」 Posted on 2024/03/03 Design Stories  

 
2月29日、フランスのマクロン大統領は、7月から開催されるオリンピックを前に「セーヌ川で泳ぐ」と明言した。
大統領は同日に行われていたオリンピック選手村の落成式に出席していた。
いつ泳ぐかについては言及されなかったが、セーヌ川の水質改善が進んでいることをアピールする目的があると見られている。
 

パリ最新情報「パリのセーヌ川、大統領も市長も“泳ぐ”と表明、五輪の直前に」

※1923年から遊泳禁止となっているセーヌ川。



 
オリンピック開催まで5ヶ月を切った今、セーヌ川の浄化作業がこれまで以上に急ピッチで進められている。
というのは2023年8月、パリ五輪テスト大会を兼ね、予定されていたオープンウォーターのワールドカップ(W杯)がセーヌ川の水質を理由に中止されてしまったからだ。
フランス政府とパリ自治体は2016年以来、セーヌ川とその主な支流であるマルヌ川を再び泳げるようにするために多くのプロジェクトを立ち上げてきた。
インフラ整備のために投資された金額は14億ユーロ(約2100億円)にもなる。
しかしオープンウォーターW杯のキャンセルで、パリ市およびパリ五輪の主催者は深刻な挫折を味わうことになった。

古く複雑なパリの排水システムと、繰り返す河川の氾濫のおかげで、セーヌ川の浄化作業は「いばらの道」だと言われている。
水質改善を図ったパリ市長時代のジャック・シラク氏(元大統領)も「セーヌ川で泳いでみせる」と宣言していたのだが、浄化作業は困難をきわめた上に莫大な資金と時間を要した。
結局シラク氏は志半ばで、1995年に市長の座を退いてしまう。

それから30年、今度はアンヌ・イダルゴ現パリ市長が「泳げるセーヌ川」の実現を図ることになった。
先月の2月にはオリンピックの開幕を前に、自らが泳ぐことを宣言している。
イダルゴ市長はマクロン大統領にも参加を呼びかけていたため、今回はそれが実現した形となった。
 

パリ最新情報「パリのセーヌ川、大統領も市長も“泳ぐ”と表明、五輪の直前に」



 
五輪招致時のアピールポイントにもなっていた「泳げるセーヌ川」だが、現地フランス人の反応は意外にも冷ややかだ。
調査では、およそ70%のフランス人がセーヌ川で泳ぐことに対して「悪いイメージ」を持っているという。
(54%がどちらかといえば悪いイメージ、16%が非常に悪いイメージ。2021年Ifop調べ)
理由は「汚染されている」が最も多く、フランス人が泳ぎたいと思う川のリストでは最下位だった。
大多数がセーヌ川を「パリの象徴」だと考えているのにも関わらずだ。

実際、90年以降は環境規制などで水質は改善しているのだが、パリの人々は何年、何十年と噂されている「泳げるセーヌ川」に辟易としているのかもしれない。
また別の調査では、フランス人の56%がオリンピック開催に向けたフランスの準備に疑問を抱いていることも明らかになっている。
確かに今回のオリンピックでは、セーヌ川関連のほかにも、宿泊費の異常な高騰や2倍と設定される公共交通機関など、パリならではの問題が次々と明るみになっている。
政界の要人たちがセーヌ川で泳ぐことを宣言しても、市民とのあいだには温度差が残るといった状態だ。
 

パリ最新情報「パリのセーヌ川、大統領も市長も“泳ぐ”と表明、五輪の直前に」



 
マクロン大統領、パリ市長、パリ五輪委員会は「セーヌ川の浄化は五輪の最も重要な成果の一つになり得る」としてきた。
これがもし成功すれば、パリ首都圏では2025年にセーヌ川沿い3カ所での遊泳が可能となる。
しかし、現地市民の疑いが晴れるにはもう少しの時間がかかりそうだ。(や)
 

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