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退屈日記「もしも東京に夜間外出禁止令が発動されたら」 Posted on 2020/11/26 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、今日は午後、少し遠くまで走った。
マラドーナさんが亡くなられたので、(しかもぼくより年下だったことに衝撃)、これはますます、健康でいなきゃ、と自分に言い聞かせながら、暮れなずむパリ市内を黙々と走った。
広場で休憩していると、レストラン経営者のティボから電話が入った。
やあ、どうしたの、と訊いたら、1月20日までレストランを閉め続ける体力がない、お前にお別れするために電話した、と言った。
「え? 政府が補償するって言ってるのに?」
「去年の今頃の売り上げをベースに計算するんだけど、覚えてるか? 去年の今頃って黄色いベスト運動でパリは壊滅的だったろ? うちの店、被害にあって閉めてた。だから、去年の今頃売り上げゼロ。このまま先行き見えない経営を続けるわけにはいかない。じゃあな」
と電話はあっけなく切れた。
やれやれ。

退屈日記「もしも東京に夜間外出禁止令が発動されたら」



家に戻ると、今度は都内で寿司屋を経営する知人からLINEが入っていた。
「辻さん、せっかく応援くださったのに、店をいったん閉めることにしました。再出発の目途が経ったら、またご連絡させて頂きます」
ティボに続いて、僅か小一時間の間に、こんな悲しい知らせが二件も、コロナの野郎、と腹が立って仕方なかった。
昨日、「緊急事態宣言も視野に入っている」という西村経済再生担当相の記事が目に留まった。
思い出されるのは第一波の時の緊急事態宣言で、あの時、休校も行われただけど、少し混乱が起き、国民の不満は大きかった。
初めての経験だろうから日本の政府を単純に批判出来ないけど、その後、欧州では子供と子供の間では感染がほぼないことがわかり、現在ロックダウン中だが、フランスでは学校は通常再開されているし、学校からクラスターなどは出ていない。
子供の感染は、結局家庭内感染によるケースがほとんどとされている。



西村さんや政府がどのような緊急事態宣言を念頭に置かれてるいのか分からないけれど、第三波と言われる今回の場合、気になるのは重症者の数が増えていることかもしれない。
病床のひっ迫も、第一、第二波を経験しある程度経験を積んだはずの病院側が再びひっ迫していることには注意が必要。
重症化率が前回よりも早い気がする。
一つ、驚くことをいえば、フランスの実効再生数よりも日本の方が高いのだ。
一人の患者がコロナをまき散らす(うつす)確率が日本の方が高いということは、決してこれまでのように安心はしていられない、ということを意味している。
実効再生産数が「1」を超えると危険とされているが、日本は「1」を十分超えている。(先週、大阪は2を超えていた)
フランスは現在「0,65」なのだ。
フランスでは一人の患者から一人の感染者を生み出せないところまで下がってきた。

退屈日記「もしも東京に夜間外出禁止令が発動されたら」

※ 実効再生産数が1を越えると危険とされている。図を見てもらいたい。たとえば、実効再生産数が0.5ならば、4人の感染者が出た場合、2人に感染させ、いずれ感染者はいなくなる。実効再生産数が1.5になったら、4人の感染者が出た場合、6人に感染させ、それか9人に感染し、どんどん増え続ける。



たらればの話しで恐縮だけれど、「もしも、オリンピック開催国ではなかったら」とぼくはよく考える。
開催国ゆえに、どうしても政府はコロナに対して強制力を発揮できずにいて、医師会などから強く言われてやむを得ず、後手後手の対応にせまられている印象がぬぐえない。
オリンピックはぼくもぜひ、成功してもらいたいけれど、感染制御が出来ない以上、果たしてどうなることか。
単純に、最初から開催国でなければ、強い防御策を講じ、日本は感染ゼロの国になっていただろう。
そうであれば、飲食業の方々、観光、音楽演劇映画業界もここまで苦しい自粛を迫られることもかった。



ぼくが今、一番恐れていることは、日本の感染者が増え続け、この勢いで重傷者が病院に運び込まれ続けた場合である。
悪い状況がいくつかある。
寒冷期に入ることでコロナの勢いが増す。
そして、年末年始、日本人が一番宴会(忘年会、新年会)をやる季節に突入することだ。
ここから感染を減らすのは厳しい時期だと思うと、心配なのは病院ということになる。
うちの息子が言っていたように、日本人が信じているファクターXなどはあまり信用しない方がいい。
コロナの変異は早いので、ワクチンだってどこまで効果があるかわからない。
インフルエンザも効かない季節があるのと一緒で、95%の有効率などと謳われながら、あてにならない可能性もある。
コロナは思った以上に手ごわいので、このままだらだらと政府もはっきりしない対応、自粛要請、というやり方を続けていくと、一番苦しむのは国民ということになる。



フランスでは感染爆発をしてから感染経路を終えなくなった。
そもそも無症状患者からの感染も多く、感染経路を完全に把握することももう無理な状況なのだ。
極端な例だけど、エレベーターの中で感染する人も出ているので、フランスも初期の頃からクラスターが出たら周囲の人々を総ざらいしていたけれど、クラスターが毎日数十件、多い時には数百件も出るようになり、追跡が不可能となった。
そこで、夜間外出禁止令が10月17日にだされた。ロックダウンほどではないけれど、ゆるやかながら、そこそこ効果は出ていた。
しかし、拡大を泊めることが出来ず、フランスは10月末、感染症の最終手段であるロックダウンに再び踏み切った。
二週間ほど前は一日9万人近い感染者数を出していたが、昨日は1万6千人、月曜日は4千人まで下がり、前後しつつも確実に効果を出しつつある。
一つの手だけど、いつまでもだらだら自粛要請で場当たり的にやるよりも、国が一時期、強制力のある強い措置を講じて、しっかり補償もやり、一気に抑え込むことが出来れば或いは短期間で感染者をなくすこともできるのじゃないか。
日本人は真面目だからロックダウンにむいている。
うちの息子のように反対する人は多く出ると思うけど、法律の整備の問題もあるので可能かどうかはわからない。

しかし、もしも、このままだらだら、あっちにふらふらこっちにふらふら、分科会から提言があれば慌てて自粛要請をして弱い立場の方々に犠牲者を出していくだけのコロナ対策では埒が明かなくなってきたことは、間違いないだろう。
自粛要請って、そもそも何だろう? 
大事なのは国民の不安を振り払い、病院を守り、人々を救うことだ。はっきりとした政治的判断だと思う。

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