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リサイクル料理教室「秋の味覚。チキンとキノコのクリームソース」 Posted on 2022/09/26 辻 仁成 作家 パリ

息子よ。
だからね、料理ってのは特別なことじゃないんだよ。
料理が上手とかヘタとか好きとか嫌いとか関係ない。
それは「後付け」であって、人間は生きるために毎日料理をして、毎日食べないとならない。
食べることは、生きることだ。
確かに、君の料理の腕前は君の世代の子たちの中ではいい方に違いない。
料理を習いたいと自分から言ってくる段階で、すでに筋がある。
少しずつ料理のコツも覚えてきたから、お金がある無しに関係なく、一人立ちしても食に関しては貧しくならない。
あのね、人間ってのは何を食べたいと思うか、食べようとするかが大事だ。
お金があっても食べることを疎かにしている人は豊かじゃない。
血の通った料理というのがあって、それは日々の生活とどう向き合っているかで、決まってくる。
この時期にはこういう野菜が出る、こういう食材がマルシェに出回ると知っているだけで、季節を食べることもでき、楽しくなり、当然、豊かになる。
わかるだろ? 
パパは君に季節が変わるごとに出てくる食材をずっと食べさせてきた。
マルシェに行き新鮮なものを選んで、目で見て、お店の人と相談をして、おすすめのものを買って、食べさせてきた。
どんなに忙しくても、それだけは手を抜かなかった。
君は、そのことを生活の中で、自然に学習してきた。この時期は、キノコが美味しいはずだって、いうことをすでに、知っている…。
それはとっても大事なことなんだよ。

パパが市場に行くのが好きなのは、季節を感じるからだ。
或いは地球を感じることが出来るからだ。
とくに八百屋に行くと、旬の野菜が出回る。
春夏秋冬というのが一番わかるのは八百屋さんだよ。
冬はカブ、春だったらアスパラガス、夏はトマト、そして、秋はキノコだ。
あそこの市場には秋になるとキノコ屋さんも立つ。
キノコもいろいろとある。冬になると出回るものもある。
トリュフやセップ茸のような高級なキノコも出てくる。
セップとかは中に虫がいるので、選び方、処理の仕方なんかも学ぶ必要がある。
というわけで、見ろ、今日はこんなにたくさんのキノコを手に入れた。
これを使って、簡単で、超美味しいチキンとキノコのクリームソースを作ろう。
ごはんにかけても、パスタにかけてもうまいけど、今日はジャガイモを横に添えて、フランス人の伝統的スタイルでやってみる。

リサイクル料理教室「秋の味覚。チキンとキノコのクリームソース」

リサイクル料理教室「秋の味覚。チキンとキノコのクリームソース」



いいか、まず、フライパンに油、またはバターをひいて、中火にかける。
いつものごとく、玉ねぎのみじん切りを炒める。玉ねぎは全ての料理の基本だからね、丁寧に火を入れていくように。
で、透明になったら塩胡椒した鶏肉をここに加えて焼く。
食べる時の喜びをイメージして焼いてごらん。
美味しそうと思いながら料理をすると、人生そのものが豊かになる。
これ、当たり前のことだけど、これが自然にできるようになると毎日が楽しくなる。
好きな音楽でも聴きながら料理をしたらいい。その時間も素敵だ。

リサイクル料理教室「秋の味覚。チキンとキノコのクリームソース」



焼き色がきれいについたら、そこにさらに、キノコや栗を加えて炒め合わせ、白ワイン(またはウイスキー)を加えてアルコール分を飛ばし、水とチキンブイヨンを加えてチキンに火が通るまで火を入れるんだ。
アルコールを好んで飲まない君にはわからないかもしれないけど、ワインとかウイスキーを入れると食材も人間同様酔って、寝る前のパパのように陽気になる。えへへ。
それだけ、旨味が出るってわけだよ。笑顔、大事だからね。
いいかい? チキンに火が通ったら生クリームを加え、弱火でクツクツと煮込んでいく。ちょっと気長に様子をみよう。
こういう様子を見る時間こそが大事だし、食べ物がおいしくなる愛おしい瞬間でもある。火が通ったら、一度火を止め、蓋をして15分ほど置き、食べる直前に温め直し塩胡椒で味を整えたら完成となる。
おっと、言い忘れた。ソースにとろみをつけたい場合はコーンスターチ大さじ1を少量の水で溶いたものを加えてごらん。
とろみが出ると、触感が変わる。
今日はせっかくだから、とろみをつけてみよう。

パスタでも白ご飯でもいいけど、今日の付け合わせはエクラゼ・ド・ポムドテールにする。
エクラゼ(潰す)したポテトの方が、ピュレより簡単で、ダイナミックだからね。
じゃあ、やってみよう。皮を剥いて適当な大きさに切ったじゃがいも300gを茹で、茹で上がったら水を切り、鍋にじゃがいもを戻してフォークで潰し、バター15gを加えて弱火にかけながらよく混ぜ、塩で味付けしたら、ほら、もう出来た! 笑。 
簡単だろ?
じゃがいもの種類によってボソボソする時は生クリームや牛乳を少し加えて滑らかにしたらいい。
パパは生クリーム大好きだから、必ず入れている。
そうすると風味やまろやかさや舌ざわりがかわってくるから。
でも、そこは好き好きでいい。
君は君の家庭の味を創作していくのがいいだろう。
パパの味を受け継ぐもよし、自分の味を自分の家族に伝えてもよし。
じゃあ、出来たエクラゼ・ド・ポムドテールを皿に盛り、その周りに温め直したチキンとキノコのクリームソースをかけてやると、やばっ、めっちゃ美味そうじゃないか! 
よし、喰うか!

リサイクル料理教室「秋の味覚。チキンとキノコのクリームソース」



材料:
鶏むね肉2枚、玉ねぎ半個、キノコ好きなだけ(今回は、エリンギ2本、しめじ1パック、モリーユ茸10個くらい)、栗、10個くらい。オイルまたはバター大さじ半、白ワイン大さじ1(またはウイスキー大さじ1)、生クリーム80ml、チキンブイヨン半個、水50ml。
エクラゼ・ド・ポムドテール材料;
じゃがいも、300g。バター15g。

リサイクル料理教室「秋の味覚。チキンとキノコのクリームソース」

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