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リサイクル想い出日記「クリスマスが近づき、ぼくはツリーを物色しに行った」 Posted on 2022/12/01 辻 仁成 作家 パリ

この日記は、2019年のクリスマス時期のお話です。クリスマスをどう祝うか・・・、父ちゃんと息子くんは悩んでいます。懐かしい、あの時へ、とタイムスリップ!
さぁ、今年はどんなクリスマスになるのでしょう。

某月某日、今朝の日記で書いた通り、ぼくはクリスマスツリーを物色しに出掛けた。
コロナ禍のロックダウン中だけれど、せめて、世界最小家族なりに可愛らしいクリスマスをやりたいじゃないか。
ということで、花屋さんに出かけると、いろいろな種類のクリスマスツリーが飾られてあった。
実は、毎年、辻家はプラスティックの偽物ツリーを飾っている。
クリスマスが始まる前に地下室から出して、設置し、終わると仕舞うのだけど、なんとなく味気ない。
コロナで暗い今年はなんとか明るくしたい。

リサイクル想い出日記「クリスマスが近づき、ぼくはツリーを物色しに行った」

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「すいません。このでかいツリーはどこから来るんですか?」
「これは、毎年、クリスマスのこの時期のために栽培されてるんですよ」
「栽培? 山とかで?」
「そうですけど。他にどこで栽培するの?」
「ですよね? ということは育ったら、こうやって毎年、カットされて、梱包されて、運ばれて来るんですか?」
「そうです。でも、梱包はされてない。うちでやります」
「ここで?」
「人間の身長くらいに育ったら、切られて、トラックに積み込まれ、パリにやって来たら、各花屋で、根本に台座取り付け、ネットをかぶせるわけです」
「このネット、こちらで付けるの?」
「あ、見せてあげますよ。来て」

リサイクル想い出日記「クリスマスが近づき、ぼくはツリーを物色しに行った」

着いて行ったら、店の裏に、丸い機械があった。そこに広がったもみの木をぶち込むとネットが被せられて、出てくるという仕組みだ」
「スゴ」
あまりに感動的だったので、写真を撮り忘れてしまった。すまねー。笑。
「買う?」
「え? ちょっと、息子と相談をして、また来ますね」
「OK。待ってますよ~」

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ということで、ぼくは肉の塊を買って帰り、ローストビーフを作った。
息子が夜に帰ってきたから、花屋で物色したクリスマスツリーの写真を見せた。
「パパ、ぼくらクリスチャンじゃないし、フランス人でもないからさ、プラスティックの偽物でいいんじゃないの? もみの木たち、年が明けたら道に捨てられる運命なんだよ。可哀想だし、環境的にもどうなんだろうね」
「でも、それを言えば、日本の門松もそうじゃない?」
「だから、それはその家庭それぞれで縁起を担ぐわけだから、家庭ごとに考えればいいんじゃないの。批判してるわけじゃないけど、ぼく的には、ちょっと違うかな、と。うちはぼくとパパだけんだから、二人で決めようよ。ぼくは反対。あとはパパ次第、どうする?」
ぼくは笑った。
「じゃあ、地下室からプラスティックのツリーを持ってくるよ」
「それがいいよ。じゃあ、ご馳走様でした」
息子はそう告げると自分が食べた食器をキッチンに下げた。さてと、今年のクリスマスはどうしたものか、とぼくは考えることになる。もみの木のクリスマスケーキでも作るか、笑。

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