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退屈日記「憎めない弟が責任者の電子書籍レーベルがなんとか船出したの巻」 Posted on 2021/05/11 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、初の電子書籍(私家版、自主製作版ということだね)になる「オキーフの恋人、オズワルドの追憶」の下巻がついにkindle独占で発売になった。
これで、上下巻出揃ったことになる。
DesignStoriesBooksというレーベルの第一弾だけど、(通称、デザインストーリーズ絶版文庫だ)なんか、嬉しいものである。
表紙のデザインや校正なども自らやり、弟の恒ちゃん(恒久、つねひさ)が販売配信企画責任者になるのだけど、横書きの文章を縦書きにして配信するところがなぜか半端なく難しく、かなり悪戦苦闘していた。
誰でも電子書籍出版が気楽に出来る仕組みをkindleさんは考えたのだけど、正直、ぼくのようなろーとるにはちと難しすぎた。
YouTubeなどでいろいろと調べて、やり方を何度も勉強しないとならなかった。
ということでこちらが下巻の表紙になる。表紙もデザイナーを頼む予算もないので、すべて、自前である。
それでも電子書籍に絶版はないので、この作品は永劫に残る。読者の皆さんの携帯などの中で、ぼくの分身が永遠と生き残っていく。

退屈日記「憎めない弟が責任者の電子書籍レーベルがなんとか船出したの巻」

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弟の恒ちゃんは、生まれた時、ぼくの半分くらしか体重がなく、未熟児だった。
小さくて、いつもぼくの後ろに金魚の糞のようにちょこまかくっついてきていて、でも、酔っぱらうと元気になるファンキーなおやじである。
千葉工大を出て、AKAI電気に入社し、当時は珍しいビデオヘッドの設計などに携わった。その後、ラジオ制作会社に入り、佐野元春さんのラジオ番組などのディレクターをつとめたりしていたが、Jwave消火器乱射事件の責任をとって制作会社を退社(笑)、しばらく、ぼくのマネージャー兼運転手をやっていたけど、やりたいことがあるとある日言い出して、ぼくに辞表を提出。
地元に戻り、福岡や北九州のFM局でフリーのディレクターをやっていた。
おひとよしで情にもろく、正義感が強いところはうちの17歳の息子に似ている。どっちかいうと息子の方がしっかりしている感じかな、笑。
立場の弱い人間の味方になるので、偉い人たちから煙たがられ、出世には縁遠い九州男児。笑。
ところがなぜか、陶芸の世界に飛び込み、よくわからん洋陶器の先生になって作品展などやっていたけど、そろそろ落ち着け、と少し前からぼくの個人事務所の代表をやらせている。
わずか、5人の小さな会社で、主な仕事はなんだろう? 母さんのお世話かな。
85歳の母さんが会長だから。えへへ。でも、母さんを病院に連れていったり、ぼくよりも頑固な母さんの面倒を本当によくみている。優しいやつだ。
その恒ちゃんが人生をかけて始めたのが、DesignStoriesBooksなのだ。ぼくはなんとか弟に生き甲斐をもって生きてもらいたいのである。
決して仲良しというわけでもないが、「世界で二人きりの兄弟なので、仲良くせないけん」と母さんに言われ続け、兄貴として、独り者の弟に働くことの楽しさを思い出させたくて、この電子書籍部門を任せたのである。
彼の夢は知らない。永遠にあいつはぼくの弟なのだった。
ぼくの50歳の誕生日に母さんから「あんたは私の最高傑作」という手紙が届くのだけど、後でわかったのは、これは弟の捏造であった。バカ?



ともかく、恒ちゃんが最高責任者であるDesignStoriesBooks、どうなるのか、正直、心配だけど、兄として見捨てるわけにはいかないので、応援している。がんばれ、恒ちゃん!!!
※オキーフの恋人、オズワルドの追憶。物語。
「この小説は探偵小説というスタイルを借りながら、純文学作品として最終的に結実していく、入れ子状の構造を持ち、読者を非常にスリリングに翻弄させていきます。サリンジャーを彷彿とさせる人気作家の失踪に端を発し、画家、ジョージア・オキーフを敬愛する編集者が事件に巻き込まれていく「オキーフの恋人」、その失踪作家が失踪先から投稿を続け、予言通りに起こる謎の連続殺人事件が空想を超え現実にまで影響を及ぼしてくる「オズワルドの追憶」。この二つの作品は下北沢という同じ東京の住宅地を舞台にしながら、縦軸と横軸が常に交差し、複雑に入り乱れ、次第にこの21世の現代を予言するような衝撃的結末へと読者をひきずりこんでいくのです。響きあう二つの物語が交差しながら生まれた現代の黙示録、作者自身により長い年月をかけて加筆訂正された電子書籍用決定版の登場です」←恒ちゃんが書いた、えへへ。

退屈日記「憎めない弟が責任者の電子書籍レーベルがなんとか船出したの巻」



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