JINSEI STORIES

滞仏日記「家出をしたマノン、家に帰らない息子、家を出るか悩む父ちゃん」 Posted on 2021/07/01 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、鉄砲玉のように出てった息子に、一応、夜の23時過ぎに、
「写真は?」
とメッセージいれたら、なんと動画が送り付けられてきて、父ちゃんひっくり返った。
ナトンの家の中がディスコティックになっていて、25人の学生たちが、リビングや、廊下や、寝室とかあちこでダンス、ダンス、ダンス・・・。(親御さんはどこに? 24時近くでこの状態なら、朝まで間違いなくつづく)
しかも、その子たち、ぼくが幼稚園とか小学校から知っている子たちばかりなのである。
トマとかナトンはすぐわかったが、ポールとか、バティスト、クレモン、アナイス、ネルらしき子がいる。
動画を十回くらい再生して、まじまじと覗き込んでしまった。
しかも、みんな、でっかい。でも、昔から、みんないい子なのだ。
確かに、これは不良の集まりではなく、幼馴染み、今の高校の同級生を中心した子たちなのだけど、みんなおやじやどこぞの主婦みたいな感じになっていて、言葉を失う父ちゃん・・・そりゃあ、そうだ。
うちの子だって、あんなに大きくて、髭生やしているし、声太いし、態度もでかいし、そりゃあ、みんな大きくなるよ。
これが現実だ、と思ったら、もはや、ぼくが子供を導くとか思っても無理だ、と気が付いた。
それはそれで嬉しいことかもしれない。
息子の言う通り、ここは日本じゃない、フランスなのだ。フランスで生まれたあの子はここの流儀で育つしかないのだから・・・。

滞仏日記「家出をしたマノン、家に帰らない息子、家を出るか悩む父ちゃん」

※お鍋が壊れたので、新しく買いました。これからはこの子がレシピを彩ります。



朝帰るという話しだったが、お昼少し前になって、息子から「(昼ごはんは)いらない」という一言メッセージが届いた。
ぼくは田舎に拠点を移したのは間違いじゃなかった、とこの瞬間、老境を悟った父ちゃんなのであーる。
ということで、昨夜に続いて、父ちゃんは昼ごはんを1人で食べることに。
実は昨日の夜、寝る前に、クスクスを今日の昼と夜用に仕込んでいたのだけど、ぼくはそれを食べる気にはなれず、日清の「正麺」に自家製煮卵を入れて食べた。
(ちょっとだけ、小鉢にクスクス中身を、サイドディッシュとして添えて…えへへ)
でも、日清さんの宣伝じゃないけど、パリで、この正麺が買えることは主夫にとって何より心強い味方なのである。(美味しいー)
いつも豪華なものばかり食べている父ちゃんのイメージでしょうが、実は、こういうご飯が一番好きだったりして・・・。(落ち着くー。日本人でよかったぁ)

滞仏日記「家出をしたマノン、家に帰らない息子、家を出るか悩む父ちゃん」



さて、食後、仕事をしていたら、携帯にマノン(近所に暮らす二コラ君のお姉さん)のお母さんから電話があり、
「マノンが彼女のお父さんと喧嘩になって、泣いて出ていったらしいのだけど、そっちにはうかがってませんか?」
と言うではないか!
「いいえ、来ていません。大丈夫ですかね」
「そうですか、また連絡します」
やれやれ、どこもかしこも問題だらけである。
離婚したお父さんの家には新しい人がいて、その後、どうなったのか、音信がないので、さっぱりぼくにはわからない。ぼくもかかわるつもりはないのだ。
仕事をしていると、今度は、そのお父さんから電話がかかってきた。
「あの、マノンが・・・」
「さっき、彼女のお母さんから電話があったから知ってるけど、どうしたの?」
「いや、進学のことでちょっと揉めて、言い合いになり、そしたら、親にたてついて、喧嘩になったのです。じゃあ、もしも、そちらに連絡あったら、連絡ください」
「あ、ちょっと待って」
ぼくは呼び止めた。
「差し出がましいようですが、その、この際だからはっきり言っときますけど、そちらの家には新しい奥さんがいて、マノンも心を痛めている。少しあの子のことを、少しでいいから、考えてやってください」
すると、電話が切れた。(あんニャロメ)
しばらくすると、マノンのお父さんから、携帯の充電が切れた、とメッセージが入ったが、電話は二度とかからなかった。ぼくもするつもりはない。



世の中、こんなに大変な時代だというのに、子供たちを囲む世界もいろいろと激動している。そりゃあ、そうだ。全てが待ったなしなのだから。当然である。
コロナがここまで深刻じゃなければ、うちの子だって、もしかするともう少し違った形で仲間たちとパーティをやれていたかもしれない。ぼくもいちいち、小言は言わなかったかも・・。(知らんけど、そんなことないか・・・)
しかし、コロナがなければ、マノンの親は離婚をしなかったかもしれない。二コラは今よりも幸せだったかもしれない。でも、世の中はコロナのせいで、ギスギスしている。ぼくにできることをしよう、と思った。
マノンの携帯に、
「無理をしないこと。自分を大切に生きること。困ったことがあったら、いつでもムッシュ・ドロールのところに来なさい。美味しいペペロンチーノを作ってあげるよ」
と送っておいた。
返事はなかったけれど、既読になった。



そして、息子だけれど、夕飯の時間が近づく頃に、
「まだ、みんなといるんだ。だから、何か食べて帰るから、先食べといて」
と連絡があった。(やれやれ。お金あるのか????)
息子を待って、一日を無駄にはできないので、ぼくは今夜もふらっと食べに出る。この日記をアップしてから、日本人が経営する居酒屋にでも行こうかな。ぼくにだって、ぼくの人生があるのだ。家でじっと息子の帰りを待つわけにもいかぬ・・・
( )内は今日の父ちゃんの心の声でした。(えへへ。負けません。皆さんも負けないで)

つづく。

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