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滞仏日記「スーパーマリオが登場し、ぼくの未来がいきなり暗くなった」 Posted on 2021/09/07 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、まず、ギターを車に積んで、朝の9時に家を出た。
11時からのリハーサルであったが、なんと、数日前からパリ市内は新しい交通ルールにより、自動車速度30キロを超えてはならない。
30キロって、アクセルを踏んだら、普通に4,50キロになるので、踏むか踏まないか悩みながら、進まないとならない、めっちゃストレスな速度で、そのせいで、すでに知り合いが罰金をとられている。
31キロでフラッシュを炊かれた、可愛そうな知り合いもいて、ドライバーの皆さん、戦々恐々としているのである。
でも、温暖化に向けた取り組みなので、ぼくは従う。
足が攣りそうになりながら向かったのは、パリ10区にあるスタジオ・ブルー。ここがパリですか、というくらい、移民の人たちの多いカルチエに、そのスタジオはある。
ぼくの仲間たちはだいたい、ここで練習をしている。いやー、こんなフランスもあるのだ。ぼくはダイスキな場所で、すでに仲良しのクルド人のサンドイッチ屋さんがある。(今日のランチはそれにした)

滞仏日記「スーパーマリオが登場し、ぼくの未来がいきなり暗くなった」

滞仏日記「スーパーマリオが登場し、ぼくの未来がいきなり暗くなった」



10月4日、パリ市内を大型オープンバス(二台の連結バスだ!)で巡るバスツアー&ライブのリハーサルである。
「シャンゼリゼ大通りでオーシャンゼリゼを大合唱」というタイトルのツアー&ライブになる。
メンバーは前回のセーヌ川ツアー&ライブと同じ、ブラジル人ドラムのジョルジュ、ピアノが日仏ハーフのエリック、に加え、今回、新たにイタリア人バイオリニスト、マリオ・フォルテが初参加する。
アルジェリア生まれのイタリア人だけど、スペイン語、ポルトガル語、英語、フランス語、イタリア語、少し、日本語を話す。
半年前までブロードウェイの舞台で俳優兼バイオリニストとして、何年か、仕事をしていたらしい。
腕は折り紙付きだけど、冗談ばかり言って、しかも、落ち着きがない。ゼロ。
「マリオ、ソロだよ!」
というと、慌ててバイオリンを構え、くつろいでいた顔が一変、目が覚めるようなスーパーテクニック披露するのだけど、出番が終わると、ニコニコして、持ち場を離れる・・・。
ニューヨークで付き合っていた「ゆきこ」さん(?)から習ったらしい変な日本語を連発するのである。
「ワタシハ、アメリカカラキマシタ、イタリア人デース」
「ワタシノコイビトハ、ユキコサンデース」
「アナタハ、ツジデース」
サン付けしろよ、ユキコさんなのに、なんで、ぼくは呼び捨てなんだよ、となんか腹が立った。日本語を知らない人の小さな間違いなのに、なぜか、人をいらいらさせるオーラ全開なのである。まるで、落ち着きのない子供のような感じ・・・・、そうだ。クラスに一人いる落ち着きのまるでない子供そのもの。大阪だったら、いちびり、ということになる。
いちびりな、スーパーマリオなのだ。

滞仏日記「スーパーマリオが登場し、ぼくの未来がいきなり暗くなった」



よく見ると、ハンサムなのだけど、そのハンサムが落ち着かない性格のせいで、真逆の印象をぼくらに与えてくる。←悪いけど、俺より目立つなよ、マリオ!
セーヌ川ライブの時のバイオリン奏者のマレックはロシア系ポーランド人だったからか、冗談は同じくらい言うけど、めっちゃ緊張感のある鋭いミュージシャンだった。
「マリオはイタリア人だから落ち着きがないんだよ」とジョルジュにからかわれていた。
「ナマビール、クダサイ(日本語)」
とマリオが叫んだ。
だから、マリオ、バイオリンに集中しろよ。
そもそも、彼は靴を履いてない。裸足なのである。サンダルで来た。サンダルを脱いで、バイオリンを弾いてる。裸足でも、いいけど、気になって仕方がない。
「なんで、裸足なの?」
「暑いからだよ」
「冷房、がんがん効いてるじゃんか。じゃあ、冬は?」
「裸足ですよ」←何言ってんだよ。意味がわからんだろ・・・。
目立つ空色のTシャツには、なぜか英語で「なんでみんな俺を見るのだ?(WHY IS
EVERYBODY LOOKING AT ME?)」と書いてある。
知るか!!! 誰も見てないわ!!!
そんなTシャツ、ぼくだったら着ないけど、マリオは着る。そういう奴である。目立ちたがり屋なのかもしれない・・・。

滞仏日記「スーパーマリオが登場し、ぼくの未来がいきなり暗くなった」



しまいには、正座してしまった。そこは家かよ。
コロナ感染対策も兼ねて、120平米もあるスタジオで4人で練習をしているのだけど、何も、正座しなくてもいいのに。。。
「ユキコサーン、オゲンキデスカー(なぞの日本語)」
やれやれ、疲れる。本番大丈夫なんだろうか?
「なんで、ブロードウェイミュージカルで俳優がやれたの?」
「ハンサムで、バイオリンが弾けたから。ハリウッド進出も考えたんだけど、ツジー、ブロードウェイミュージカルって、知ってる? 毎日、ステージに上がらないとならないんだよ。で、毎日、同じセリフと同じ演奏を同じ場面でやらない。一年中だよ。休みはほぼない。そんなことでぼくは自分の人生、棒にふれますか? ごめんなんだよ」
真剣な顔で訴えるので、知るか、と思ったけど、そりゃあ、自分のやりたいことやれないよね、と言ってやった。
「だから、今、フランスにいるんですよ」
その後、ユキコさんに習った日本語で、
「ワタシハ、アメリカカラキタイタリア人デース」
と言った。うるさいっちゅうねん。

滞仏日記「スーパーマリオが登場し、ぼくの未来がいきなり暗くなった」

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「え? ツジー。マジでバスで市内周りながら、ライブやるの? すげー、そんなことできるの?」
「出来るよ。実は、パリ市の公式な観光推進機関であるパリ観光会議局 (OTCP) の後援も決まったんだ。フランス政府の観光団体(アトゥ・フランス)も後援に入ってるから、行けない場所はないぞ。もしかしたら、エリゼ宮殿の前で、フランス国家を演奏しないとならなくなるかもしれないから、その恰好じゃまずいぞ。裸足だけはやめてくれ」
「えええええ? そんなすげーことになるんですか、ああ、ユキコさーん!」
何かあると、すぐに、ユキコさんの名前が飛び出す、マリオ・フォルテ君、まだ、かなり若い青年なのである。許してやってください。
ということで、11時から16時までびっしり練習をした新生、辻仁成グループ。
先が思いやられるスタートとなったけど、演奏は最高なのである。
マリオを一目見たいと思う方はいないとは思うけど、パリ市内バスツアー&ライブ、なかなか今の時期、パリ市内をバスで観光もできないので、ぼくらがバックグラウンドミュージックを添えますから、ぜひ、ご参加いただきたい。ブロードウェイミュージカルで鍛えたマリオのバイオリンももれなく聞ける大企画なのである。
((´∀`))ケラケラ

そして、編集部からのお知らせです。
*2021年10月4日は、

地球カレッジ一周年記念、第2弾!パリ市内大型オープンバス・ツアー&ライブ

「シャンゼリゼ大通りで、オーシャンゼリゼを大合唱!」


このツアー&ライブに参加されたいみなさまはこちらから、どうぞ

チケットのご購入はこちらから

この素晴らしいシャンゼリゼを、バスの上の高い場所から、独り占めしましょう!!
 

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