JINSEI STORIES

退屈日記「NHKパリの秋ごはんの撮影は難航中、やばい、自信喪失の父ちゃん」 Posted on 2021/09/15   

某月某日、NHKの「ボンジュール、辻仁成のパリの秋ごはん」の撮影だけど、大変なものを引き受けたと後悔をしている。というのは、まず、時間がない。
前の「春ごはん」は4か月もの自由な撮影時間があったから、暇な時に日常をスケッチ出来たのだけど、今回は放送日が決まってるようで10月の頭にはデータをすべて東京に送らないとならないのだけど、3週間くらいしか時間がないのだ。
春ごはんの時はロックダウンになったり、生きることを考えたり、パリから田舎への転居などがあり、何よりコロナ禍で家時間がかなりあって、盛りだくさんだったけど、この時期は、何があるのかな、と悩んでる。
で、あの番組、基本「自撮り撮影」という超低予算のスタイルなのだ。
料理するのも自撮り、買い物もだいたい自分で、時々、コーディネータさんがカメラ回しているし。
それはいいとしても、4か月の撮影期間が3週間になり、なんでも、制作会社社長のLさん曰く、前回が面白かったからNHKの期待がかなり大きいというので、全部、相変わらずしわよせがぼくに来ているうえに、他の仕事ができない。
マネージメントしているタイタンも東京だし、繋ぐだけだからほぼ関係ないし、全部ひとりで何を撮ればいいのか、頭を抱えている。
(一応コーディネータさんと、プロのカメラマンさんがいるけど、家にはあげない。コロナが怖いので)
息子は受験生だから、協力は仰げないし、やれやれ、大変なものを抱えたよ、と朝起きて、スケジュール帖をみながら、溜め息・・・。撮影が可能な日数は6日間くらいしかないのだ。マジで!!! 僕一応作家だから、締め切りもあるんだよね。



「でも、辻さん、みんな番組楽しみにしているんです。NHKの期待も大きいんです」
とL節がさく裂するのだけど、撮るのはぼくじゃん、ぼくひとりじゃん・・・。
ぼくの悪いところは、調子のいい時はがんがん「やりましょう」とポジティブになるのだけど、気分がのらなくなると「ネガティブ仁成」が出てきて、「なんで、そんな大変なもの、引き受けるんだよ。自分で自分撮影して、結局、ディレクターだって、カメラマンだって自分じゃん。構成も自分で考えて、自分に質問して、自分で答えて、自分で料理して、自撮り・・・そんなもの毎回視聴者の皆さんに受けいれらるわけないでしょ。誰も見ないよ。何より年寄りだし。Lさんに踊らされ過ぎで、一人だから、製作費かからないから、依頼されてるだけで、なんのためにやるの?」と言い出す始末。←半分は当たってる・・・。
これは昨夜の夢の中で自分を説教している自分が見た夢で、うなされて起きた。
このプレッシャーは誰にもわからないだろうなぁ。
だいたい、春ごはんが好評だったとして、柳の下にどじょうが二匹はいないわけで、なんとなく、これが大失敗して、また鬱っぽくなりそうだ、と嫌な予感の今朝の父ちゃんなのである。



でも、引き受けた以上、男に二言はないわけで、やれやれ。息子に相談も出来ないし、あいつは、出ないよ、というに決まってるし(前回も拒否だった)・・・。二コラは中学生になったから、忙しいみたいだし、アドリアンとかピエールとか近所の仲間たちがまた出ても面白くないし、いったいどうすればいいんだぁ、と引き受けた時の盛り上がりは冷めて、軽い絶望の中にいる。
3週間、一人で何を撮影するの? 
味方いないじゃん。
料理かな、何を? 
そんなに新しい料理作れないし。
最近、料理もしてないし、どこまでもネガティブな父ちゃん。身から出たサビ。自業自得か・・・



この町のおやじのピエールをカメラマンに前回起用したのは正解だった。
Lさんは評価してなかったようだけど、つまり上手ではなかったからね、でもピエールには味があった。
Lさんは上手なカメラマンを紹介したがるけど、この番組、技術じゃないよね。
人間関係だよね?
ぼくの町の仲間たちがピエールを中心に集まった。
今回、プロの日本人カメラマンさんを依頼してあるんだけど、この町の中にプロはたぶん入れない。
住人が心を許さない。だから、そこも自撮りでやるしかない・・・。
違うんだよなぁ、と思うのはぼくだけだろうか・・・。
春ごはんの時、ぼくはコロナ禍の中で生きる家族をテーマに撮影していたのだけど、今は、何だろう。
何がテーマだろう。
息子の思春期問題とか、本人、出演拒否だから、撮れないし。
3週間で何を追いかけられるのだろう。断ればよかった、と思いはじめている。Lさんのリクエストはメールでガンガン届く。めっちゃ長い企画書が届いて、読んだけど、時間が足りない、あと二か月は必要な内容だった。
ぼくは明後日ライブで、その後、田舎に一人で執筆のためにこもるつもりで、その週末にパリに戻り、そこから数日しかなくて、10月4日のバスツアーのリハーサルとか打ち合わせに追われ、それが終わると、秋ごはんの締め切りなんだけど、Lさん、ぼくはいつ撮影をする?
放送日は知らないけど、なんとなく、それほど遠くない。秋ごはんだから、秋だよね、絶対。
編集時間もたくさん必要だと言われているし、撮影は急がせて、編集には数週間は必要って言われても、素材がないのに、何を編集するんだろう???



これを読んだLさんとか西山さんご夫妻(東京の編集などをする方々)なにより、期待されているNHKの皆さんがっかりするでしょうね。
でも、綺麗ごとこと言えないし。ぼくへの期待はやめてください。
先日、パリ日本文化会館の新しい館長がNHKから来られた方で、「春ごはん」とっても面白かったと言われ、なんかどんと暗くなった父ちゃん。
作るのはぼくひとり、正直に言いましょう。
生きてるのだって、きついし、ぼくはしょっちゅう鬱っぽくなるし、息子は受験生でそっとしておきたいし、春の時と活力が違いすぎる。
でも、その通り、引き受けて実はもう放送日も決まっている。
やりますけど、一応、ぼくの精神状態とスケジュール感、お伝えしておきます。
でも、引き受けた自分にすべて責任がある。ああ、そこなんだよ。馬鹿め。
引き受けた時はこんなに大変だと思っていなかったので・・・今、慌ててる父ちゃんであった。何とかなるとは思うけど、ぼくは中途半端が嫌いだから、そこなんですよ・・・。Lさん。

退屈日記「NHKパリの秋ごはんの撮影は難航中、やばい、自信喪失の父ちゃん」

※、もうすぐ、62歳なんだよ。エネルギーないんだもの、スマイルやめろよ、とただただ自分に腹が立つ、61歳最終コーナーの父ちゃんであった。



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