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滞仏日記「コロナによって価値観が変わったこの世界で、新しい価値観を模索する」 Posted on 2021/10/06 辻 仁成 作家 パリ

地球カレッジ

某月某日、コロナがもっとも酷かった時もそうだったけれど、苦境に陥ったり、停滞したり、何かが終わって目的を失うのを、ぼくはつねに嫌う。
それと、次に向かって自分の人生を立て直すのが得意なのかもしれない。
一昨日、神経をすり減らしながらも楽しんでやったバスツアー&ライブが終わって、昨日は友との別れもあり、そいつの分も生きなきゃと決意して眠った後、今朝のぼくは、真っ白なキャンパスのような状態で、目が覚めた。
その白いキャンパスに向かって、腕組みをしているところである。
CDが消え、ライブが出来ない音楽苦難の時代、本が売れない出版不況の時代、演劇や映画製作も難くなった、コロナ禍が嫌な影を落とし続けるこのような時代だからこそできる何かがあるはずだ、となぜか苦境に立たされると前向きになる父ちゃんである。
表現はなくならないからだ・・・箱が変わるだけ・・・。

滞仏日記「コロナによって価値観が変わったこの世界で、新しい価値観を模索する」



コロナ禍の真っただ中の時、ぼくはコツコツ、キッチンに立ち続け、コロナとは何かを考察し続け、議論し、DSから発信してきた。
その作業の中で気が付いたことは、「毎日を丁寧に生きること、毎日、買い物に行き丁寧にご飯を作って、家族で過ごすこと」であった。
なんだ、そんなことか、と言うなかれ、この時に掴んだ人間の基本的な生き方は、どんな時代にも通じるヒントであった。
基本が出来ている者の足腰は強い。
日々を丁寧に生きることが出来れば、そこから新しい価値観を創造することが出来る。
セーヌ川ツアーライブや、パリ市内でのバスツアーライブを思いついたのも、そういう逆境の中からだった。
普通のライブが出来ないなら、場所を変えてやればいい、と思った。
でも、これだって、何回もずっと続けていくことではないし、飽きられる、自分も飽きる。今、ぼくは、じゃあ、次は何をやってみようか、という挑戦、つまり、苦境を跳ね返す運動の筋トレ中なのである。
わくわくを自分で探し、実践してしまえば、人生を暗くさせないですむ。何が出来る? 何か出来るはずだ。



電子書籍という一番嫌悪していた出版形態も試している。(あくまでも絶版になった自作を再販するシステム)それと、確かに、電子書籍は売れないけど、でも、自分の作品を永劫に残すことが出来る。
そのために、人を集め、自分でプラットホームを作った。

NOTEの社長さんと3年ほど前にお食事をさせてもらったことがある。
ぼくは、NOTEで書くよりも、NOTEのようなプラットホームを自分で作ればいいじゃん、とその時に、思った。ちょっと発想がいつも人とは違うみたいだ。
NOTEで書くのも面白いけど、課金システムはぼくには必要ないし、ならば、自分でやろうと思った。
すでに始めていたデザインストーリーズというプライベートサイトがあったので、それをどんどん改良して、コロナ禍の時代に新しい芸術表現の場を模索していった。
地球カレッジはそこから誕生した。これも十年前にやっていた私塾「人間塾」がそのベースにある。
どこまで面白いことが出来るか、楽しみで仕方がない・・・。
今、いろんな人たちに、「ねー、こういうことできない?」「こんなの、考えたんだけど、可能?」みたいに投げかけている。
みんな、笑いながら、面白いかもしれませんね、と付き合ってくださっている。
そうだ、面白い、自分が楽しんでることが大事・・・。
面白きことなきこの世を面白く、の精神である。
音楽や文学や映像の基本は変わらない。
ただ、発信する場所が変化していき、その変化に伴って、自由にできる場所を作っている段階かもしれない。
でも、家の中だけで出来るし、ヒントは、実は、そこら中にあふれている。

滞仏日記「コロナによって価値観が変わったこの世界で、新しい価値観を模索する」



「辻さん、いろいろなことをやられてるけど、次はなにやるんすか?」
30代のITのぶりんぶりんな若い起業家に聞かれた。
「秘密・・・。あ、でも、いつか力貸してね」
と笑いながら、いう。
ほんとは、まだ、なんも考えちゃいない。えへへ。
面白いことを考え出す心の、その最初の第一歩が、実は、一番愉快だし、偉大なのである。
ぼくは、会社の経営者には一切興味がない。そこもいいところだと思う。
最近の大金持ちはみんな宇宙を目指しているけど、ぼくは地底を目指したい。
お金がないからだけど、・・・。その地底の赤いマグマは宇宙より偉大で、人間の内部で煌々と輝いている・・・。
プラットホームはあくまでも自分が登れるステージにし続けたい。
正直、いつまでも、オンラインじゃないだろう。
やっぱり、観光事業は大事だし、ライブ・エンターテインメントも大事だ。
ぼくらはコロナの出現で価値観を変更せざるをえなかった。じゃあ、どうする?
一生、人間は過渡期の中にある。

滞仏日記「コロナによって価値観が変わったこの世界で、新しい価値観を模索する」



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