JINSEI STORIES

退屈日記「スクープされた!おっさんとの相合傘。カタストロフ!!!」 Posted on 2021/10/19   

某月某日、知り合いの和食屋さんの白木のカウンターの端っこに陣取り、ウイスキーを舐めながら、夜に、一人、短歌を考えていた。
日曜日に短歌の地球カレッジをやるので、ぼくも参戦したく、「会」というお題で5・7・5・7・7・の5句体で遊んでいた。
一人遊びに、短歌は心地よいものを連れてくる。
パリの秋の夜長、かっこいい板前さんを前に、ああでもないこうでもない、と考えていた。この和食店はミシュランの星を持っていて、しかも、料理長はもと、いいとも青年隊(?)の後継グループのメンバーだとかで、二十数年前はテレビで活躍されていたのだ。
それが一念発起し、渡仏。
パリ中心部に和食屋を開店、多分、和食店で最初にミシュランを獲得したのじゃないか、と思う。
53歳、ええと、こうじさん、という店主が一人でやっている。カウンターのみ。
静かないい店だ。ぼくのハットも喜んでいる。



こうじさんが入れてくれたマッカランをロックで飲みながら、短歌を考えるのはイキである。
「短歌ですか、いいですね」
こうじさんが、よくとおる声で言った。この人がいいとも青年隊で活躍していた時代のことをぼくは知らない。
「こうちゃん、相変わらずよく通る、いい声だね。最近も歌ってるの?」
「たまにです」
「昔は歌ってたの、青年隊の頃?」
「はい、ちょっと歌ってました」
「なんていう名前の青年隊だったの?」
「半熟隊です。神田利則さんと2人組でやってました」
ぼくらはくすっと微笑みあった。
今や、パリを代表する星付きレストランのシェフが、半熟隊だったというのが、面白い。
今はしっかり、味付け茹でたまごくらいになっている。

退屈日記「スクープされた!おっさんとの相合傘。カタストロフ!!!」



「何を書いてるんですか、先生」
「ああ、わしはいま、短歌を書いておるのじゃ」
「へー、いいですね。静かなパリの夜にぴったりです」
5・7・5・7・7の5句31音は、三十一文字(みそひともじ)とも呼ばれた。
平安時代以降、和歌といえば短歌形式をさすようになった。
こうやって、パリど真ん中の静かな和食店の美しい白木のカウンターでマッカランを舐めながら、日本を思い短歌を作っていると、心が落ち着く。そういう夜であった。
ところが・・・



店の引き戸がガラガラと音を立てて、誰かがなだれ込んできた。
見上げると、野本、である。彼は、ムーンライダースの鈴木慶一さんに、どんどん、風貌が似てきている。
「お、ひとなり、こんなところにおったか、あ、あれやね、ほら、あれ、あれれ」
相変わらず、日本語がダメな男である。
この男は才能ある写真家でもあるのだけど、普段はうどんをこねている。
そもそも、言語からは遠く離れて、生きている。
短歌の話しなど出来ないとは思ったけど、短歌を書いてるんだ、静かにしてくれよ、と言ったら、
「くれなゐにそのくれなゐを問ふがごと愚かや我の恋をとがむる」
「ええええ? なんやそれ」
「与謝野鉄幹や。知らんのか、あはは」
ということで、この男が乱入した一時間後、ミシュランの星付きレストランは宴会場になってしまったのである。その惨憺たる状況がこちら・・・

退屈日記「スクープされた!おっさんとの相合傘。カタストロフ!!!」



そもそも、今日はお店が休みの日だったのに、ぼくは創作の場としてカウンターを借りて、首をひねっていたら、このうどん屋がやってきて、もっと飲もう、と言い出した。
最近、ぼくの周辺では、この男、野本ではなく、呑もっちゃん、と呼ばれるようになった。
「秋深し、酒をのめのめ、飲むならば、パリが寄り添う、日本人会」
これは呑もっちゃんが詠んだ首である。((´∀`))ケラケラ。
ぼくらは、マッカランを飲みながら、笑いに包まれてしまった。
コロナ禍で多くの日本人が日本に帰ってしまい、パリに残った日本人は寂しくなった。
パリ万博の時には踊り子のさだやっこさんを含め千人もの人が海を渡ってこの地にやってきた。
それから日仏の文化関係は深まり、直後に、ジャポニスムという運動が起きている。
フランス人が日本文化好きなのは有名だが、きっと100年前にも、パリ中心部で日本人が集まり、夜な夜な祖国を懐かしがって宴会をやっていたことであろう・・・
「ひとなり、カフェーにくり出そう。あれ、それ、ほら、もう一軒行こう!
相変わらず元気な野本こと、呑もっちゃんであった。
外に出ると、パリは土砂降りで、傘がなく、野本と相合傘で二軒目のカフェを目指した。
野本はぼくの横で、井上陽水さんの「傘がない」を熱唱していた。やれやれ。
皆さん。日曜日の俵万智さんが講師をつとめる短歌教室、ぜひ、ご参加ください。ぼくも一首、つくります。

2021年10月24日(日)の地球カレッジは、俵万智さんをお招きします。

「日々を丁寧に生きるための短歌教室2」


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短歌を通して、日々を丁寧に生きるコツを見つけてみましょう!!!
今回の配信方法は、ZOOMになります。
 

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