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滞仏日記「ぷん、ぷん、ぷん、クリスマスを目前に、ぼくはスネ夫になった」 Posted on 2021/12/10 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、今日は日本大使館に在留証明書を取りに行った後、オペラ地区の蕎麦屋「東郷」で地球カレッジ、DS編集のランチミーティング。
なんと、福井の新蕎麦が入っていた。うれぴー。
パリで福井の新蕎麦が食べられるのはすごいことである。ミーティングそっちのけで、蕎麦をすすった父ちゃん。
ぼくはつゆは使わない。日本酒を少し蕎麦に回し掛けし、フラー・ド・セルをちょっと、ワサビをほんの少しつけて、ずるずる、とやるのがいつもの食べ方なのだ。これがうまい!!
それほど美味しくない蕎麦の時には仕方なくつゆにつけて食べるのだけど、いい蕎麦だと、つゆに邪魔され、可愛そう・・・。
なので、四半世紀前から、いい蕎麦を食べる時は蕎麦の風味や味を損なわないように、数滴の酒と塩とワサビを少しつけて食べるようになった。
その瞬間は、幸せだった。
福井、すごいなァ。つるんとした歯ごたえと、広がる風味、実にお見事・・・。
蕎麦屋を出たあと、12月24日のオンラインツアーの道順などをみんなで検討するために、東郷から数分のところにあるギャラリーラファイエットまで移動したのだけど・・・。

滞仏日記「ぷん、ぷん、ぷん、クリスマスを目前に、ぼくはスネ夫になった」

滞仏日記「ぷん、ぷん、ぷん、クリスマスを目前に、ぼくはスネ夫になった」



実は、近づくクリスマスを前に、めっちゃ悩んでいることがある。
それは、息子にクリスマスプレゼントを買うべきかどうか、という問題。
毎年、今までは買ってあげていたのだけど、プレゼントというのは、あげて喜んでもらえる人にこそ、あげたいじゃないか。
その通り、ぼくはいじけているのである。
ぼくはスネ夫君なのだ。辻スネ夫である。
息子がぼくのことを外で悪者にしたので、関係を断っている家族がいて、そうなのである、ぼくは拗ねているのだ。
拗ねている心の狭い父ちゃんだから、クリスマスのプレゼントを買う意思が芽生えてこない。当然だよ、ぼくだって生きてるんだ。
ぼくのことを「やり過ぎパパ」と決めつけた、息子の友人のご家族の皆様とも連絡はもうとってないのである。
ぼくはいじけているのだ。
ぼくがどんなに息子のことを思って生きてきたのか、他人にはわからないだろうし、この日記を翻訳機かけて読んだかもしれないけど、ちゃんと日本語の深さがわかるのか、と言いたい。
ぼくの「かっちーん」は怒りのかっちーんではなく、愛のかっちーんなのだから、翻訳機なんかでその深さがわかろうはずもなかろうが。
もう、知らない。ぷい。

滞仏日記「ぷん、ぷん、ぷん、クリスマスを目前に、ぼくはスネ夫になった」



最近、ぼくが拗ねているのが息子にも伝わったようで、なんか、ちょっと気にしている節があるけれど、知らない。
今朝も、パパ、と寝室までやってきて、書類にサインをして、とお願いされた。もちろん、サインはしますよ、なんの書類かどうせ、パパにはわからないだろうけどね・・・。
ぼくはいじけているので、プレゼントなんか買わない。
ぼくは家族にプレゼントを買って喜ばせるのが好きだった。
離婚をして、その相手が息子だけになったので、毎年、彼を喜ばせるために、いろいろと探して、クリスマスツリーの下に、キレイにラッピングされたプレゼントを真夜中とかに、こそこそひっぱりだして、さも、サンタがやってきた雰囲気まで細工して、翌朝、驚かせてやりたい、とわくわくするのが好きだったけど、・・・もうやらない。
それはパソコンだったり、携帯だったり、スニーカーだったり、結構、喜ぶ姿が見たくて、ひと月くらい前から、若者の傾向を調査して、ぶつを探して、パソコンとか、清水の舞台から飛び降りる気持ちで大枚をはたいて買ってきたのだけど、今年はなし。
だって、ぼくはいじけているのだもの。
スネ夫なのだ。辻スネ夫。わかりますか? 
読者の皆さんだって、ご主人や、奥さんや、お子さんらに愛されているからこそ、頑張って盛り上げたいクリスマスでしょ?
自分ひとりで盛り上がることができないのがクリスマスで、クリスマスだけは「無償の愛」とはいかないのである。
師走の、忙しい最中、家族に感謝をするための、それはある意味、自分がこんなに頑張って家族を思って生きてるんだよ、という証でもあって、そういうクリスマスだからこそ、ツリーを買って運んだり、飾ったり、プレゼントをラッピングしたり、いろいろとしてきたけど、ぼくは、いったい今まで誰に祝福されてきたというのだろうね?
スネ夫です。←ここ、笑うところよ。

滞仏日記「ぷん、ぷん、ぷん、クリスマスを目前に、ぼくはスネ夫になった」



ともかく、人々が笑顔で、クリスマスプレゼントが入った袋を抱えてギャラリーラファイエットから出てくるのを、苦々しく見つめていた父ちゃんなのであった。
「どうしました、辻さん」
と撮影スタッフさんに言われ、
「あ、いや、それがね、ぼくは拗ねているんだ。今はギャラリーラファイエットが目に染みるよ」
とわけのわからないことを呟いていたのである。
「拗ねている?」
「だから、ぼくは辻スネ夫なんだよ!!!」

つづく。

ということで、お知らせ。
2021年12月24日のクリスマスイブの夜に、父ちゃんがギャラリーラファイエットの屋上から、オペラ地区周辺を散策する、オンライン・ツアー生配信をやります。
お時間のある皆様、父ちゃんと一緒に、楽しいクリスマスイブにしましょう。
こちらを、御覧ください。↓

https://www.designstoriesinc.com/worldfood/chikyu-3-16-17-3/

滞仏日記「ぷん、ぷん、ぷん、クリスマスを目前に、ぼくはスネ夫になった」



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