JINSEI STORIES

滞仏日記「カッコつけ父ちゃん、エアータバコくわえながらの、サムライ・ロック!」 Posted on 2021/11/13 辻 仁成 作家 パリ

地球カレッジ

某月某日、パリに戻ったぼくは、夕方、サンジェルマンデプレのカフェで、音楽プロモーターのBさんとミーティングをした。
まったく、どうなるのか分からない話しだけれど、歴史的音楽ホールで、コンサートをやれないか、ずっと模索している。
実現の可能性は、そうやねー、今現在、2~5%といったところか。←すくなっ・・・
そこはビートルズやローリングストーンズなどもやった歴史的会場で、座席数も2000席を超えるし、日本人のぼくなどが宙返りしても開催できるような場所じゃあ、ない。
そんなことは重々承知なのだけど、「我が辞書に不可能の文字はない、byナポリタン、じゃなく、ナポレオン」精神の父ちゃんであった。

滞仏日記「カッコつけ父ちゃん、エアータバコくわえながらの、サムライ・ロック!」



でも、ダメ元で、人に紹介してもらったBさんと話すことになった。←話すのはタダ・・・
そういえば、10年ほど前に、Bさんはぼくのライブを手助けしてくれたことがある。Xのパタさんのグループとぼくのバンドで、ドイツの、ええと、コロンだったかな、でやった。パタさんの前座ね。その時はZAMZAというバンドであった。
パタさんたちはいい人たちで、こっちで飲もうよ、と誘ってくれたのに、人見知りの父ちゃんは会場の端っこで拗ねていた。笑。その時のプロモーターがBさん・・・。
向こうはぼくを覚えていて、久しぶりですねー、と言ってくれたのだけど・・・、ぼくは覚えてない・・・。
大物ロッカーになり切っている父ちゃん、よせばいいのに、エアータバコをふかすふりをして、不敵な笑みを浮かべたものだから、日仏通訳のお姉さんに、やめた方がいいすよ、かっこわる、となじられてしまった・・・。
あはは。

滞仏日記「カッコつけ父ちゃん、エアータバコくわえながらの、サムライ・ロック!」



チケットを50ユーロで売って、満席になって、とんとん、という会場・・・。
話しを聞きながら、とりあえず、オッケー、とかすれた声で囁いた今日の父ちゃんは、ちょっといつものキッチンにいるシングルファザーのよれよれ父ちゃんとは違う。
日本のロッカーとして恥ずかしくない雰囲気を醸し出さないとならない。
足とか組んで、タバコとか吸わないくせに、指を二本、エアータバコのポーズとか作っちゃって、世界をぶっ飛ばすぜ、みたいな感じで、不敵な笑みを浮かべつづけ、サンジェルマンデプレの有名カフェ、DEUX・MAGOTSのテラス席で、ふんぞり返っていたのであーる。
まわりは全員、外国人観光客で、英語が飛び交っている。おお、たしかに、かっこ悪っ。
みんなWエスプレッソを頼んでいるのに、給仕さんを指パッチンで呼び止め、
「シャンパン、プリーズ!」
とんでもない注文をし、通訳さんにそっぽを向かれた、・・・。あはは・・・。

滞仏日記「カッコつけ父ちゃん、エアータバコくわえながらの、サムライ・ロック!」



一応、キャリアだけは長い元ECHOES、ま、へこへこは出来ない。
皮じゃん、皮ブーツ、スエードのハット、グラサンをかけて、かなりかっこつけて、ミーティングに挑んだのだけど、Bさんの話しを聞いているだけで、実は、実は、相当にビビッてしまった。いやぁ、フランスの製作費、高すぎる・・
その上、スタッフ全員に保険も払わないとならないので、日本の二倍、必要な上に、でも父ちゃんはパリでは新人に近い・・・。作家の父ちゃんは知ってる人も多少いるんだけど、なにせ、音楽は、JINSEI・TSUJI名義でやってるものだから、・・・。いひひ。
Bさんは名だたるミュージシャンのプロモーターを経験した人なので、こちらが恥ずかしくなるほどの自然体だし、めっちゃ経験豊富な人なので、専門知識がビュンビュン飛び交い、耳の中に入り込んできて、脳がぐちゃぐちゃ・・・。
足組んで前傾になって、大物ぶって、頷いていた父ちゃんだったが、慣れないポーズのせいで、肩凝って、途中で、目に涙が、鼻から鼻水・・・。そのBさんが、ひとこと、
「会場を満席にする自信ありますか?」
と言った。ぬあにーーー、満席だとォ。
父ちゃんは、一度、サンジェルマンデプレ教会に視線をそらし、数秒、不敵な笑みを浮かべてみせてから、逃げ出したい自分を必死で押さえつけ、
「アイアムサムライ」
と呟いてやった。
アイハバペン、アイアマアッポッーポー。
通訳さんが席を立ちそうになったので、慌てて、引き留めた・・・。やれやれ・・・。
きーぷいんたっち、と言い残したBさんと握手して別れた後、父ちゃんは教会前のベンチにへたりこんで、いやぁ、なかなかできない経験だった、と笑ってしまった。
こりゃあ、無理だ、と大笑いをしている父ちゃんの横を大勢の観光客が怪訝な顔で過っていく、くそー、バカにしやがって、見てろよーーーー。
「ろっけんろーーーーー。おれは日本シングルファザーなんだよ、文句あんのかぁ」
と叫んだ、父ちゃん、62歳。←お疲れ様です。

滞仏日記「カッコつけ父ちゃん、エアータバコくわえながらの、サムライ・ロック!」



と、その夜、夕飯の準備をしていると、息子が友だちのイヴォン君を連れてきた。とっても真面目な子である。
「お、久しぶりだね」
父ちゃんはまだカッコつけていた。指ぱっちん!
「あ、ご無沙汰です。ムッシュ、相変わらずロックしてますねー」
「びあんしゅー(もちろん)」
息子の高校の同級生だけど、彼のご両親(ロシア系)はワクチン反対派なので、彼は打てない。
打てないと衛生パスが発行にならないので、カフェとかコンサート会場とかには入れない。PCR検査はしているようだから、問題はないのだが、みんなとカフェに行けないみたいで、ちょっと・・・可愛そうだな、・・・。
しかし、ワクチンを打ってないことで逆に罹らないように、相当に警戒をしているのも事実だ。
外でも、学校でも、ずっとマスクを着けている。もちろん、我が家でも・・・。



近所のパン屋で買っておいた林檎のタルトに生クリームを添えて、子供部屋に持って行った父ちゃん。←この頃にはいつものおばちゃん風な父ちゃんに戻っていた・・・えへへ。いらっちゃーーーい・・・。
2人はレコーディングをしている。
イヴォンはクラシックのピアニストなのだ。なかなか、かっこい曲を2人で作っている。へー、こりゃあ、敵わないな・・・。((´∀`))ケラケラ
「大学はどうするの? どういうところに行く気?」
「エンジニア系の大学を目指しています」
「順調?」
「ええ、たぶん」
横で息子が、あっち行ってよ、という顔をしている。はいはい、行きますよー。
「じゃあ、ごゆっくり」

多分、明日(土曜日)、息子は進学説明会に親友のアレクサンドル君と行く。
その後、リサの家にお泊りをし、夜はずっとリサ(横にロベルト)から厳しい進学指導を受ける。
そして、日曜日はリサの兄弟で先生や研究者をしている一族が集まるので、彼らからもびっしりとアドバイスを受ける、という強硬スケジュールであった。
息子にとっては試練だけれど、ここは、頑張るしかない。
いやでも、やらせないと、もう、・・・後がない。
あと一月半で今年も終わってしまう。
夢を捨てきれない62歳の父ちゃんは、まるで新人歌手のような感じで、プロモーターと向きあってきた。
受験生で17歳の息子は友だちと音楽を作っていた。
辻家はまだまだ、揺れ動いている。
いったい、どんな未来がこの親子を待ち受けているのであろう。
息子たちが創作するアバンギャルドなヒップホップを聞きながら、鳥のフリットを揚げる父ちゃんであった。
「カモーン、ジャックゥーーーーー」
😥

つづく。

滞仏日記「カッコつけ父ちゃん、エアータバコくわえながらの、サムライ・ロック!」

※ ロンドンでの一枚・・・。バット、握りしめている・・。怖い。

自分流×帝京大学