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滞仏日記「大掃除に悲鳴をあげた一日、でも、一年の汚れもスッキリ」 Posted on 2021/12/28 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、家が異常に汚いのだ。
いろいろと忙しかったし、やっと見つけたお手伝いさんのエリックこと中島君は元大臣さんの家の仕事が忙しくて、うちの掃除などが年明け中旬まで出来ないとのことで、一番活躍してもらいたい時に、自分ひとりで片づけないとならないのだから、やれやれ、なんたるこっちゃ、なのである。
しかし、家を片付けないまま新年を迎えるのはちょっと日本人的にはNGなので、大掃除の日、となった。
しかし、一人でこのアパルトマンを全部掃除するのはかなり大変なので、三日に分けて少しずつ掃除をしようとまず自分に言い聞かせることからはじめた。
ぼくは何事も一気にやる性格なので、そうなると間違いなく、数日寝込むことになる・・・。
急ぐことはないので、少しずつ片付けようと決めた。
まず、一番、汚いのが仕事部屋で、次がぼくの寝室なのでこの2部屋を今日やることにした。
あ、いや、息子の部屋も相当汚いけど、そこは本人にやらせるしかない。
リビングルームと食堂はそこまで汚れてないので、最後にして、明日は玄関周りとキッチン、バストイレ、という感じだろうか・・・。
ともかく、仕事部屋からやっつけようと、部屋を覗いたら、おおおお、これはやばい。



机の上には領収書とかなんだかわからない書類が山となっている。
床には脱ぎ捨てられた服とかが散らかってるし(洗わなきゃ)、楽器とか映像機材とか山積みだし、雨戸も閉め切られていて、薄暗く、変な、変な匂いもするじゃないか!!
ということで、あんまり見せたくないけれど、ここが父ちゃんの仕事部屋なのであーる。
実は、寝室にもう一つ机があって、そこの方がベッドから直行できるので、そっちがメインの仕事場になっている。
つまり、この部屋は倉庫? 機材庫? 書庫? ゴミ箱????

滞仏日記「大掃除に悲鳴をあげた一日、でも、一年の汚れもスッキリ」



まず、窓を開けよう。
そして、空気を入れ替え、室内に光りを招き入れた。
床に転がってる服とかハンチング(一つ一つ拾い上げたけど、5つもあった)とかを拾い、とりあえず、楽器とかカメラ関係は全部、玄関の空いてる場所に移動させた。(移動させただけでしょ、という批判が聞こえてきたけど、その通り。少しずつ、隣の部屋に移していく作戦で、目の前だけはキレイになる)
面倒くさいのは、いつかやればいいからと机の上に放り出している依頼書とか領収書とか、政府から届いていたわけのわからない請求書(駐車違反)とか、印刷された各種の書類だ。椅子に腰かけ、来年に持ち越すことはできないので、整理し、分類し、今すぐやらないとならないものは、たとえば支払いとかはその場でやってしまい、必要ないものはバインダーの中にしまった。
しかし、やれば、必ず成果は出る。それだけでも、ずいぶんと机の上が片付いた。
秘書さんが急逝したので、わからないことばかりで、途方に暮れていたけれど、各出版社の編集者さんが手を差し伸べてくれて、ちょっとずつ解決しつつある。
こういう時に優しくされると涙が出る。
年末だから、涙もろくなっている父ちゃんなのであった。

滞仏日記「大掃除に悲鳴をあげた一日、でも、一年の汚れもスッキリ」



掃除ばかりできないので、ランチはフィレオフィッシュ・バーガーを作って、息子と食べた。フィッシュとポテトは冷凍、パンズは市販のものだけど、タルタルソースは手作りであーる。
どんなに忙しくても、食事だけは手を抜かないのが父ちゃん流なのだ。えへへ。美味しかった。
息子はもくもくと食べている。
いつものごとく会話はない。
「どう?」
「うん」
張り合いはないけど、ぼくは苦笑いを浮かべながら、続きを食べた。
この子が何を考えて日々を生きているのか、ぼくにはちょっとわからない。
揉めてから特に彼の将来に関しては、信じているし、一切、口出しをしていない。
泣いても騒いでも、来年の春には、結論が出る。
「ごちそうさまでした」
「はい」
ビールが進んで、眠くなり、昼寝をして、一時間ほどのロスタイムが出たけど、ぐずぐずしていられないので、部屋の掃除を続けた。そして、ついに。御覧頂きたい、午後の3時くらいになんとか仕事部屋の整理と掃除が終わったのであーる。
どうじゃ!!!!!

滞仏日記「大掃除に悲鳴をあげた一日、でも、一年の汚れもスッキリ」

※ え? 窓あけて、光りを入れて、大きなものを隣の部屋に移動させただけじゃない? ふあっはっは。よくぞ見破ったな。その通りであーる。でも、それでも、キレイになったよねー。笑。



椅子に座って、パソコンを開けてみた。
風が流れて、今日はそれほど寒くないので、心地よい。
やっぱり、一年の汚れを年末に片づけるのはとっても大事なことかもしれない。
これで、2022年は新たな気持ちで迎えられそうである。
さて、次は寝室だ。
皆さん、お互い頑張りましょう!!! えいえいおー。

つづく。

滞仏日記「大掃除に悲鳴をあげた一日、でも、一年の汚れもスッキリ」

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