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滞仏日記「久しぶりに特製息子弁当を作って、エリックの息子君に持たせたの巻」 Posted on 2022/01/17 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、息子から、いつもの仲良しスタンバイミー仲間四人組、ウイリアム君、アレックス君、トマ君とメイライのお店で、自分の誕生日会を開きたいと、リクエストが来た。
「いくらくらいするのかなぁ、ぼくらには高いかなぁ」
というかわいい質問。ふと、思った。
そこで、ぼくはメイライに電話をし、カナール・ラッケ(北京ダック)を食べさせてやってもらえないか、ぼくが戻り次第、お金を払いに行くから、と伝えた。もちろんよ、とメイライ。
「息子よ、好きなものを食べなさい。パパがご馳走する」
「マジか」
「マジだ」
※ この、マジか、の言い回しに関して、昨日、いつもコメントをくださる方から返信で、「マジか」って言いますか、というご意見があった。これをちょっと説明しておくと、仏語では「セブレ?」(本当なの?)というのがみんなの口癖なのである。本当なの? でもいいのだけど、ぼくはこれは「マジか」と訳している。アクセントで、そうなる。セブレ⤴というアクセントだと、マジ? みたいな感じ。そこから、息子は日本語で、「マジか」というのをいい意味でも、悪い意味の時でも使うようになった。注釈、終わり。
そしたら、レストランから、再び連絡が来て、餃子とか焼きそばも頼んでいいのかなぁ、と・・・。可愛いね。
成人式のかわりなので、遠慮しないでどんどん食べなさい、と伝えた。
アレックスとは幼稚園から、ウイリアムとトマとは小学校の低学年からずっと友だちなのだ。一生に一度しかない18歳の仲間たちとの成人式なのである。おめでとう。好きなだけ食べたらいいよ。思い出を置き忘れないようにね・・・。
息子からみんなで騒いでる写真が届いた。
みんな笑顔だ。素晴らしい青春である。
コロナ禍のフランスで、苦しい青春ではあるだろうけど、彼らは若さで、それを乗り越えようとしてる。頑張れ、と思った。

滞仏日記「久しぶりに特製息子弁当を作って、エリックの息子君に持たせたの巻」



そして、ぼくは今日、出会ってすぐに友人になった、ディープ・フォレストのエリック・ムーケさんと地球カレッジに挑んだ。その後、彼の息子のアンジュ君(19歳、息子より一歳上)が大学の町に戻るというので、夜ごはんに日本のお弁当を作ってあげた。
アンジュはトゥールーズの自分のアパルトマンに戻らないとならないというのである。
日本の漫画や料理が大好きな青年で、昔の息子と重なるところもあり、じゃあ、お弁当を作ろうか、と進言してみたところ、ええ、ありがとう、と喜んでもらえたので、ひと様の家の冷蔵庫を勝手に漁った、父ちゃん・・・。えへへ。
ということで、息子が小さかった頃に大好評だった、辻家特製「海苔弁当」を拵えた。
魚がなかったので、鶏肉のささみで鳥カツを作り、妹のアンブルちゃんが卵焼きが好きだというので、辻家特製の卵焼きまで拵えた。
ご飯は海苔とご飯を二段に重ねてミルフィーユ仕立てにして、昨夜のジャガイモのグリルが残っていたのでエクラゼ(潰)し、和風ポテトサラダを添えることに。
とにかくバカでかい「海苔弁当」を作って、持たせたのであった。
「ありがとう。嬉しいです」
とアンジュ君が言った。妹のアンブルちゃん同様、日本語が上手なのだ。
奥さんのユキさんが日本語を教えたのだという。
田舎なので、日本語学校とかないのに、日本を知らない子供たちだけど、家の中では日本語が通じる。なかなか、これは難しい。ぼくの知り合いで、仏人と結婚をした日本人妻たちが結構いるけど、そこのお子さんたちは、フランスで生まれ、当然、フランス人だし、日本には旅行でしかいかないので、喋ることが出来ない子が多い。
それは仕方がないと思う。
日本語学校とかあるけれど、なかなか子供は行きたがらない。
うちの場合は、乳母役を長年引き受けてくれていたさちさんが、頑張って教えてくれたし、ぼくも家では日本語で通したので、ラッキーなことに息子は日本語もネイティブにしゃべることが出来る。(漢字も中学生前期レベルなら、大丈夫)
仏人夫と日本人妻(もしくはその逆)の家庭で生まれた子たちに両方の文化や言語を伝えていくのは、大変なことだけど、エリック以外は日本語が上手なのであった。あはは・・・。
ともかく、ご覧いただきたい、昔取った杵柄ではないけど、お弁当作家と言われた父ちゃん、久しぶりに作った「息子弁当」がこれ、どうだ、すごかろうもん!!!

滞仏日記「久しぶりに特製息子弁当を作って、エリックの息子君に持たせたの巻」



昨日、会ったばかりのエリックだったが、もう昔からよく知っているような仲良し。
本当に不思議なものである。
「音楽は世界で唯一全ての人に通じる言語なのである」というのが、ぼくらの共通する音楽への想いだ。
ただの音楽ではない、その音楽の根本に、宇宙があり、世界があり、人生があり、哲学があり、愛があり、言葉で説明する必要のないものが、ぼくが作家でもあるからこそ言えるのだけど、まさに、音楽は人類共通の言語なのである。
「明日、一日、君のために時間を空けてある」
とエリックが言い出した。
セッションの話しはリップサービスじゃなかったのだ、と思った。超、嬉しい。
彼が携帯をぼくに見せてくれた。
どうやら、彼の音楽仲間とのやり取りのようだ。こう、書かれてあった。
「ツジがこの家、この土地にやってきたことが本当にうれしいんだ。そして、天候は素晴らしかった。オンラインライブのオーディエンスも喜んでくれていたよ。たった、今、オンラインショーは終わった。リラックスした時間だった。トリュフの収穫を喜んでいる。ボナペティ!」
なぜか、ぼくについて書かれていた。で、最後に、
「次のステップ。・・・いくらかの音楽を、ぼくのスタジオで。乞うご期待」
と書かれていて、ぼくは目が点になった。乞うご期待・・・ふわ、緊張するじゃんね。
でも、エリックはぼくとのセッションを楽しみにしてくれているんだ、と思った。わ、本当なんだ、と思った。
ということで、ぼくとエリックは明日、彼のスタジオで、朝から向き合うことになった。
彼にはYouTubeの「MATSURI」など、最近のぼくの音楽は一応、奥さんのユキさん経由で送ってある。
でも、エリックは前もって、何かを決めてやるのを好まないらしい。
それはぼくも一緒なので、明日、スタジオに入って、ぼくらはそこでセッションを通して今度は音楽で語り合う。
何が生まれるのか、分からない。でも、それが楽しみで仕方がない。それが音楽だ。

滞仏日記「久しぶりに特製息子弁当を作って、エリックの息子君に持たせたの巻」

※ こちらがエリックの家。左手にスタジオがある。素晴らしいスタジオだ。

滞仏日記「久しぶりに特製息子弁当を作って、エリックの息子君に持たせたの巻」

※ こちらがベルべスというフランスの田舎百選みたいなものに選ばれた町で、エリックはそこの副市長でもある。笑。モンサンミッシェルの丘版みたいな可愛い美しい世界である。

滞仏日記「久しぶりに特製息子弁当を作って、エリックの息子君に持たせたの巻」



昨日の夕食の時間に、エリックが面白いことを言った。
「実は学生時代、ぼくの音楽の点数は毎回0点だったんだ。ぼくは一生懸命フルートを練習したけど、オーケストラにはいれてもらえなかった。本当のことだよ」
実はぼくにも同じような経験がある。国語のテストで、これについて説明をしなさい、というのがあって、テスト用紙の裏に長文の詩を書いたら、0点だった。笑。
ぼくはもの凄く自信があったのだけど、先生には認めてもらえなかった。
でも、今、国語の教科書に自分の作品が使われているのだから不思議だし、例えばそれを使った試験を知り合いのお子さんから見せられたことがあったけど、「これについて説明を」という問題がやっぱりあって、ぼくはその( )を埋められなかった。そのお子さんに、あなた本当にこれを書いた人なの? 、と言われた。あはは・・・。
いまだに、国語は0点なのだ。そのことをエリックに話したら、同じだね、ということになった。
勉強というものは、大事だけれど、時に、想像性を喪失させる場合もある。教育は、想像性を伸ばすことが大事だと思うのである。

ともかく、明日、ぼくはエリック・ムーケと彼のスタジオで、向かいあう。ぼくには自信がある。お互いが生きてきた人生が響きあう瞬間が訪れるであろうことを。深い森の中の響き、ということだ。DEEP FOREST and ECHOESだね。
そういう喜びと出会うために、ぼくは音楽を捨てなかった。

つづく。

滞仏日記「久しぶりに特製息子弁当を作って、エリックの息子君に持たせたの巻」

※ ぼくが37歳くらいの時に、よく聞いていた曲名が判明をした。彼らのファーストソングで、deep forestというナンバーだった。不思議なものである。



自分流×帝京大学