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滞仏日記「ついに、辻家に、三四郎がやってきた。やあやあやあ!」 Posted on 2022/01/21 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、朝、ワンちゃんを迎えにパリから日本人の知り合い(犬好き)に頼んで車を出してもらい、というのは、ぼくの車がちょっと調子悪く、また、三四郎のことで頭がいっぱいになるとぼくの運転は心配なのと、映像を抑えて貰わないとやっぱりここは自撮りも無理なので、合計、3人でイブリン県の山奥を目指したのであーる。
ついに、ついに、三四郎と再会だぁ、と思うだけで、超興奮する父ちゃんなのであったぁ。あはは・・・。
だって、家族が増えるわけだし、ぼくは巣立つ息子の後の寂しい日々をこのワンちゃんと共に生きていくという新たな愛の対象が出来るだけだから、そりゃあ、不安もあるけど、今や完全に期待が勝っているのであーる。
「三四郎、三四郎がねー」と大騒ぎしていて、みんなに、やかましい、と叱られた父ちゃんであった。
しかし、犬の園に到着するや、ブリーダーさんが門の前で待ち構えていたのである。
入る前にNHKBS番組のために心境を撮影しようと計画していたのだが、そういう猶予さえなかった。あはは、もう、いる!!!
「おお、ムッシュ、ツジー。ウエルカム」
三四郎とご対面。
おお、かわいい。
なんて円らな表情であろう。もう、メロメロの父ちゃんなのであった。
辻さん、やばいっす、と運転手のむー君が言った。ぼくも相当、犬好きですけど、この子は可愛いを通り越してるっす~。

滞仏日記「ついに、辻家に、三四郎がやってきた。やあやあやあ!」

滞仏日記「ついに、辻家に、三四郎がやってきた。やあやあやあ!」



ぼくは契約書にサインをし、三四郎を抱っこした。
ブリーダーさんに諸々、注意を受けた。
食事やおしっこ、うんちの件から、ノミとか、狂犬病の接種とか、外国へ出る時の注意、獣医の検診、とか、一度には覚えられないほどの忠告とアドバイスであった。
同行者たちはみんな、かわいい、やばいっすねーと繰り返したが、実は、そんな単純な話しではなかった。
かわいい、だけではやっぱり、育てられない。
まずは、パリへ向かう道の途中、いきなりぼくの腕の中で、異変が起きたのだ。
何か、不思議な動きをしたのである。う
わ、なんか、変だ、と叫んだら、犬育ての名人であるスタッフさんが、
「それ、吐くんですよ。気を付けて。車酔いです。なんか、なんかないですか?」
「なんか、なんかって、お、三四郎、どうしたー」
とその次の瞬間、吐いた。
ちょうど、トトロのブランケットを敷いていたので、それで受け止めたので、セーフ。
ま、子犬だから、大したことないじゃん、余裕をぶっこいた父ちゃん・・・。
ところが、1時間30分もの長旅だから、その後、2回も吐いたのである。
でも、初めての長距離だし、車だし、むー君の運転も粗いし、あはは、そりゃあ、車酔いしますね。ごめんね・・。
サービスエリアで2~30分ごとに休憩し、ってか、全部のサービスエリアで停車し、酔いを醒まさせてあげたのだった。なので、移動に4時間・・・。お疲れ様です。
その一つのサービスエリアでは芝生があったので、散歩もさせたのだけど、う、動かない・・・リードを引っ張っても、うんともすんとも言わない。
この子、歩けるのかなぁ。
ってか、吠えたとこ聞いたこともないし、大人し過ぎるでしょ・・・
逆に心配になった父ちゃん。
あまりに静かなのである。前回も感じたけど、吠えない子なのかもしれない。
遊ぶのが嫌いな子かもしれない。
いや、緊張しているだけかもしれない。
とにかく、初めてのワンちゃん、これからが正念場なのだ。
デレデレのぼくは抱っこして、写真、撮影をしたのであーる・・・。

滞仏日記「ついに、辻家に、三四郎がやってきた。やあやあやあ!」



スタッフと別れ、ぼくは三四郎を抱えて家に戻った。
ひとまず、仕事部屋に置いてあるハウスまで連れて行ったけれど、ちょっと狭いかな。
というのはハウス(ケージ、サークルのこと)の周辺には出来るだけスペースを確保して、遊ばせるといい、とユーチューバーの犬専門家さんが語っていたのを思い出したのであーる。
「子犬を育てる」で検索して見つけたYouTube番組を一通り眺めた父ちゃんであった。
一応の知識は頭に入っている・・・。
それでハウスを玄関の間へと移動させることにしたのだ。
ここは無駄に広いスペースがあり、なのに、玄関なのである。
バーカウンターがあり、野郎の仲間たちとはここでコロナ前は男飲みをしていた玄関バーである。
普段はハウスの扉を開けて、自由に出入りをさせる。
人によって、餌は外で食べさせるとか、ハウス内で食べさせるとか、意見もマチマチなので、臨機応変に対応をしたい、父ちゃんだった。
ぼくの当初の心配はパリの大都会に出てきて、ストレスで心の病にでもなったら、どうしようと思っていたのだけど、
えええええ? 

滞仏日記「ついに、辻家に、三四郎がやってきた。やあやあやあ!」

気が付いたら、家についてから、ずっと尻尾を振っている。
「おおおお、尻尾を振ってるじゃぁー-ん」
いきなり、メロメロになった、父ちゃん。
部屋の中で、かけっこをしたり、ちょっと離れた場所で「おいで」のポーズをすると、突っ込んできて、飛び跳ねて、尻尾振りまくる三四郎・・・。
あああ、きゃわいすぎるだろー--、と抱き上げた瞬間、ぼくの視線の先に、無数の水たまりが・・・
「おおお、これが噂の、うれしょん、嬉ショーン!やりやがったな、三四郎」
ぼくは、三四郎をハウスに押し込んで、這いつくばって、拭き掃除。
やれやれ、赤ちゃん以上に大変なのである。
おむつとか、ないのかなぁ・・・躾けが大事だとユーチューバーさんが熱く語っていたのが、頭を過った。
ところが・・・それどころではなかったぁ。



なかなかこんなに愛されることないし、最近、愛から遠ざかっていた父ちゃん、笑、無償の愛しかないと自分に言い聞かせながらも、寝室にあるロッキングチェアをハウスの前にもってきて、そこで三四郎を眺め続けたのであった。愛の奴隷?
三四郎がぼくの足元で、抱っこしてとねだるので、仕方なく、抱え上げて、膝の上に置いてやったら、そこで、顎を突き出して、リラックスー、お昼寝・・・ふわーやばいなぁ。
どんだけ、懐いてんねん。かわいい。
可愛すぎる。ぼくは時間も忘れて、三四郎と過ごすことになるのだった。
ドルドーニュでの地球カレッジやディープ・フォレストのエリック・ムーケさんとのセッション、しかも往復8時間の運転など、ハードな撮影の後の、今日である。
心身ともに疲れていたが、その疲れも、この可愛らしさの前でぶっ飛んでしまった。
「三四郎。よく、来てくれたなぁ」
とその時、今度は三四郎がムクっと起き上がり、なんだか、未知なる動きをしはじめた。
ん? もぞもぞしている。
降りたいのかな、と思って、床におろすと、家の端っこへと突進した。
「そっちはなんもないよ。壁にぶつかるぞ」
あわてて、追いかけ、部屋の中央に戻そうとすると、今度は別の物陰に飛び込もうとする。
おい、三四郎、どうした・・・、とその次の瞬間であった。
玄関ドアの前で、にょ、にょ、にょろー----。
「ぎゃああああああ、そんなとこでうんちすんなー-----------」
見事なウインナーソーセージが二本、転がっていたのである。オーマイガッと。
三四郎に、これはダメよと仏語と日本語で説明をし、犬用トイレに一度連れて行き、ここで、カカ(うんち)、ピピ(おしっこ)、せんとあかんたい、と教えた父ちゃん。
死ぬほど、疲れたー--。

滞仏日記「ついに、辻家に、三四郎がやってきた。やあやあやあ!」



すると、鍵を開ける音がして、おおお、今度は、うちの息子が帰ってきたぁ!
ドアを開けた瞬間、三四郎と対面した息子、満面の笑みに。ああ、こんな笑顔、パパさん、向けられたことないっす。やっぱ犬は万人の心をつかむなあ。
手を洗って戻ってきた息子が三四郎と遊びだしたので、ぼくはちょっと休憩をすることに・・。
三四郎を息子に預けて、一仕事・・・・まずは三四郎日記を・・・。(今日から暫く、毎日、三四郎日記と滞仏日記の二本立てでお送りします。三四郎が語る三四郎日記、ぼくが三四郎を語る滞仏日記という献立)

滞仏日記「ついに、辻家に、三四郎がやってきた。やあやあやあ!」

※ どうです? 息子が三四郎を抱っこする姿、なかなか見ることのできない、ここにも、無償の愛が・・・これからは親子三人で生きていこうなぁ・・・。幸せじゃあ。



やれやれ、もっと、いっぱい書かなきゃならないことがあるんだけど、今日のところはここまでにしておこうかな・・。疲れました・・・かなり。
と、ここで、またしても、大事件が・・・
息子が自分の部屋に入り、ぼくがこの日記を仕事部屋で書きだした途端、
「わん! わん! わん!」
と、もの凄い勢いで吠えだした三四郎。あ、ちゃんと吠えることが出来るのか、と喜んだのも束の間、これが鳴きやまない。(実は、その後、4時間くらい、段階的に、吠え続け・・・身体、きつい)
つまり、ぼくがいなくなると、安心できないのか、パパ、寂しいよー、と吠える。
こんなに壁の薄いアパルトマンで、こんなに吠えられたら、下とか上のおいちゃんたちに叱られるじゃあー--ん・・・
「きゃんきゃんきゃん!!!!」
ワンならまだいいけど、キャンキャンなのであーる。
息子が出てきて、
「パパ、どうするの? 夜、ハウスの中で大人しく寝てくれそうもないね。一晩中、起きてられる?」
「他人事みたいに言うなよ。お前さ、今夜、この子、預かってくれない?」
「無理・・・(逃げた)」
鳴きやむのであろうか・・・。

つづく。

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