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滞仏日記「ロシア軍の総攻撃が始まる前に」 Posted on 2022/03/02 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、アメリカがキーウ(キエフはロシア語読み)の陥落を5日以内に予想しているという記事を読んだ。
中国政府が自国民6000人のウクライナ脱出を急がせているという記事もあり、今週末さらにウクライナ危機は目が離せなくなった。
海外から届く様々な角度のニュースに目を通しているが、どれほどの信憑性があるのか、疑問に思いつつも、超軍事大国ロシアによる侵攻で、このままでは、まもなくウクライナの首都が陥落する可能性も出てきた。
そして、嫌な予想だが、ゼレンスキー大統領は逮捕されるか、もしくは殺害される可能性も・・・。
ロシアはウクライナに親露派の傀儡政権を打ち立てるであろう。
しかし、その先はどうなるだろう。
それで終わりとはならない。むしろ、その逆なのである。
この恐ろしい戦争のその後をまだ誰も確実に予想できずにいる。
アメリカやNATOの首脳陣はどういう未来図を描き、そこに落とし込もうとしているのか。
ウクライナを諦めるのだろうか、それとも、・・・



とあるニュースによると、ロシアへの制裁は限定的、国民の多くがまだプーチン氏を支持しているという報道もあり、また、その逆もある。
国際的制裁も大きな効果が望めないという意見もあり、その逆もあるが、現実に何が起こっているのか、今は残念ながら断定することができない。
日に日に、戦況が変化しているし、つまり世界の未来も、日に日に動いている。
しかし、仮に傀儡政権が登場した場合でも、西側に諸刃の剣でもある国際社会による制裁は続くか、より強くなる可能性があり、ロシアをじりじりと苦しめていくに違いない。
さらにアフガニスタンのようにレジスタンス地下抵抗運動がはじまり、駐留するロシア兵を苦しめ続けるだろう。
ウクライナ人は芯の強い国民で、闘争心も半端ない。
ロシアが、そういうウクライナ人を完全に支配することが出来るとはどうしても思えない。
アメリカがアフガニスタンから撤退した記憶も新しい。
隣国のポーランドにNATOは集結し、強固な軍事的な壁を作り(実際、西側各国の国防費は跳ねあがっていく)、そこがレジスタンス運動の支援の門となるだろう。
ロシアの経済はそのような状況下で、何か月も続く(持つ)とは思えない。
中国も西側社会との関係を悪化させることはできないので、ロシアをどこまで支援出来るか不透明である。
そうなると、ロシアの孤立化は決定的になり、いくら大国であっても、まずは国内の経済が破綻し、その影響は当事者であるプーチン氏に跳ね返る。
そこで、今以上の反プーチン感情が高まるか、愛国心が強まるか、ロシア人の気質とも関係してくるので、ここも未知数ではあるが、精神的問題や重病説の出ているプーチン大統領が追い込まれて何をしでかすのか、ということが次の大きな懸念につながる。



「西側への核攻撃はあり得ない」という英国政府高官の発言があったが、ゼロと言い切れることも出来ない。
ベルリン、ロンドン、パリに核兵器搭載のミサイルが向いている可能性は、すでにプーチン氏が核兵器部隊に高度の指示を出しているので、高い。
東京にも向けられているかもしれない。
「核脅迫」と呼ばれるものだが、これに屈した場合、世界はもはやこれまでの秩序を維持して世界を存続させることが難しくなる。
ロシア国内でロシア人によってこの問題を解決する動きが出ることも考えられるが、それにはさらなる時間と多くの犠牲が必要かもしれない。
ただ、一つ言えることはウクライナ危機は「ここからが本題に入る」ということだ。
これはまだ始まったばかりの状態であり、世界中の指導者は国単位の利害にだけ立たず、この新しい状況をどうやっておさめ、落ち着かせることが出来るのか、を地球規模で真剣に議論し、想像していかないとならない。
その大きな試練の境目に世界は立たされている。
ゼレンスキー大統領が語ったように、「この戦争はウクライナだけのものではない」ということが始まっていることを私たちはしっかりと見据えていかないとならない。

滞仏日記「ロシア軍の総攻撃が始まる前に」



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