JINSEI STORIES

退屈日記「今日で四月は終わるが、戦争はまだまだ続く」 Posted on 2022/04/30 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ロシアがウクライナに侵攻をして、2か月の歳月が流れたけれど、最初からここでも書いてきた通り、この戦争は暫く終わらないだろう。
どのような帰結が待ち受けているのかは想像できないけれど、もしかするとわかりやすい終点(和平交渉が実現したとしても)もないのかもしれない。
ウクライナ政府はIMFと将来のウクライナの在り方をめぐって協議を開始したというニュースがあったが、そういうことを次のステップとして世界は考え始めているし、各国の大使館がキーウで再開されつつある。
「韓国大使館も再開」という記事をさっきAFPで読んだ。
一方、ロシア軍は再編に手こずっているし補給線確保の問題と兵士の死者の増加により、増派をしても思うように、前進できないでいる。
あれだけ強気だったロシアはデフォルトを回避するためにドル建てでの支払いを行った。戦争は終わらないが、終わらないまま、この状況が推移する時間確保の流れに移行しているような印象も受ける。
開戦当初、ゼレンスキー大統領はすぐに捕まえられるか暗殺されると噂されていたけれど、けっこう力強くウクライナをけん引している。
ロシアは苛立ちを隠せない中、自分らに都合のいい収束の様子を模索している感もある。
核兵器の使用はないだろうというのが米英高官の意見のようだ。
ぼくが気になっているのは、ウクライナがここからどう国を再建しようと考えているのか、という点についてである。

退屈日記「今日で四月は終わるが、戦争はまだまだ続く」



先日、興味深い映像を見た。
キーウの人々が束の間の休息を味わう、という映像報道で、観た人も多かったのではないか。
公園などを散歩する人々、カフェでお茶をする人の様子がとらえられていた。
郊外のブチャや南のマウリポリでの悲惨な映像ばかり見せられてきたので、キーウ市内にはまだ昔ながらの街並みも残っていて、人々が普段の恰好で歩いている映像を知り驚いた。今日は、前線の街で自家用車がヘッドライトをつけて走っている映像も見たのだけれど、あれだけのミサイルを撃ち込まれていても、再建への道のりののりしろが確保されていることが分かったので、わずかに希望が見えた。
ぼくは経済学者ではないけれど、ロシアによるウクライナ侵攻の流れがある程度止まった時に、国を戻そうという力がこの国に新たな力を与える可能性が残っていることを嗅ぎ取ることができた。
ゼレンスキー大統領はそこを見据えて、西側やIMFなどと協議に入っているのであろう。いったい、どういう国家の再建が今後行われるのか、少し気が早い話だけれど、美しい国がその美しい佇まいを一日も早く取り戻してほしい、と願った。
昨日、BBCを見ていたら、モスクワ市内のスーパーに商品が溢れている映像が流れた。
ジュースコーナーにはコカ・コーラが積み上げられていた。
西側のそういう商品が普通に売られているわけだけれど、コーラのペットボトルが天井まで届くかというほど積んである映像は、違和感をぼくに届けた。
西側の企業が撤退した後も、工場の稼働が続いているということなのだろうか。
ニュース記事から知る戦争と実際の戦争とが乖離していることも想像しながら、戦争情報と向き合わないとならない。



ルーマニアとウクライナに挟まれた小国、「モルドバ」へのロシアの侵攻が噂されており、実際、ロシア語を話す住民が多く住むトランスニストリア地域で謎の爆発が相次いでいるというきな臭い話題もある。
この周辺地域をロシア軍が確保すると、ウクライナの南部、東部とつながる海側の弓形の地域を得ることになり、戦況を有利に動かすことも可能で、こういうロシアの思惑に、バルト三国や北欧が非常に強く警戒しているのもわかる。
実はぼくの田舎の家をリフォームしてくれたのがモルドバの人たちだった。
彼らは純朴で、おとなしく、まじめな労働者だ。
古い柱を近代的にセメントで塞いだ(ボスの指示?)。ぼくがそれを悲しんだら、心配しないで、と言ってモルドバ人は一日がかりでそれをもとの状態に戻してくれた。
もとに戻った古い柱を見て安堵するぼくを、モルドバ人たちは、笑顔で喜んでくれた。
ボスのジェローム(イタリア系仏人)が後でやって来て、いい仕事だ、と彼らを褒めていたっけ。
欧州はこういう東欧の国々とのつながりが深いので、ウクライナ侵攻は決して対岸の火事ではなく、誰もが複雑な感情を抱えながらこの戦況を見守っている。

退屈日記「今日で四月は終わるが、戦争はまだまだ続く」



5月も、一進一退を繰り返しながら、ロシア・ウクライナ戦争は停滞するのじゃないか、と予想する。
キーウに西側の大使館が戻って来ていることは歓迎できるニュースである。
そうすることでキーウのミサイル攻撃には慎重さが増すことになるし、大使館の人たちは強い使命感と恐怖の中での仕事だろうが、それが、強いメッセージをロシア側に示すことにつながるはずだ。
けれども、この戦争の収束は簡単ではない。
なんとなく、収束しないでうやむやになっていくような気もする。
だからこそ、経済制裁は重要でもある。同時に、西側もその制裁の影響を受けていく。
しかし、長引けば物不足を迂回する方法も、生まれる可能性があり、厳しさは続くが第三次世界大戦を回避し、ゆるやかに新しい秩序を模索することになるのだろう。
世界は、コロナ禍と今度の戦争を通して、自国の農業や生産業の自給率を高める必要性を思い知ったことだろう。
プーチン大統領の無謀を封じることが、とりあえずは大事だ。世界には、プーチン主義者が一定数いる。この連中にそそのかされないようにしないとならない。ロシア企業から高額の報酬を受け続けているドイツのシュレーダー元首相のような人物のロシア寄りの発言などは、その一例である。
第二次世界大戦後最大の危機にあるこの世界を、どうやって維持していくのか、私たちに、平和ボケをしている暇はない。



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Jinsei Tsuji Acoustic Serenade From Paris
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