JINSEI STORIES

退屈日記「ハッピーさんに出会うと人生がちょっと愉快になる」 Posted on 2022/05/31 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、一生は一度である。
これはもう変更できない真理なのだ。
しかし、人間というものは、一生は一度だ、ということを忘れがちになって、つい、くよくよしてしまう。
人間だから仕方がないことだが、苦しんで生きても一生、悩み続けて生きても一生、そして、楽しんで生きても一生なのである。
どのような苦しい現実下にあっても、楽しそうに生きている人たちもいる。
逆に裕福な環境で生まれ、幸福な場所、広々とした空間で育ったのに、苦しそうに生きている人もいる。
ようは考え方、捉え方の問題なのである。
ぼくも、こう見えてもずいぶんと悩んで生きてきたけれど、悩みすぎたり、苦しみすぎたり、考えすぎたりして、今この瞬間の自分の人生を辛くさせること、それだけじゃなくそのせいで終わらせようと考えてしまうのは、実にもったいないことだ。
そう考えてしまうのは、一生が一度であることを忘れがちだからじゃないか。
そんなちっちゃなこと、もうどうでもいいじゃん。
頭や心を切り替えて毎日を楽しむ権利が人間にはあるのだと思う。そういう風に生き切ってもいいのじゃないか、と最近、ぼくは自分に言い聞かせている。
「自分、今、楽しいかな?」
こう、ぼくは自問する。
「楽しくないね」
もしも、こういう答えが待っていたら、
「じゃあ、楽しめよ」
と自分を笑い飛ばすことにしている。

退屈日記「ハッピーさんに出会うと人生がちょっと愉快になる」



最近、ぼくは「ハッピーさんを探せ」を実践している。
自分が辛くなるのは、ハッピーを生きる人も見てないからだ、という哲学だ。
フランス人に限らないと思うが、しかし、フランス人には結構いる。
どう見ても、自分の人生を楽しんでいる人たち、というのが・・・。
そういう人に出会うとぼくは「いたいた、ハッピーさんがいた」と嬉しくなる。
先日、歩いていたら、電動自転車に乗ろうとしていた男性が、ヘルメットをかぶった次の瞬間、音楽をかけはじめた。それはテクノミュージックだった。
大統領府に近い路上にシンセのピコピコ音楽が流れだし、周囲の人たちが振り返った。
ぼくと三四郎は3メートルほど手前だったので、真正面にその人を見つめる格好となった。そのムッシュは顎でリズムを取り出し、電動自転車の横でほんの一瞬、はやりのダンスを踊ったのだった。
それはまるで朝のラジオ体操のような感じだったが、数秒、身体を動かした後、自転車にまたがり、颯爽と街路樹が立ち並ぶ大通りを漕ぎだしたのである。颯爽と!!!
「おお、久々の大物ハッピーさんだ」
ぼくは嬉しくなった。
世界がどんなであれ、自分のハッピーを持って生きている人は、ぼくを喜ばせてくれるのである。

退屈日記「ハッピーさんに出会うと人生がちょっと愉快になる」



最近、うちの近くの芝生の公園のど真ん中に、夜になるとテントを建てて、寝ている若いムッシュがいる。素性はわからない。
朝、彼はテントをたたむ。それは立派な三角形のテントだけど畳み終えるとリュックサイズサイズに収まる。
ムッシュはスーツを着ており、そのリュックと書類の入ったバックを抱えて、通勤? するのだ。
で、夕方、三四郎と散歩に再び出ると、同じムッシュが公園のど真ん中でテントを設営している。スーツは脱いでいて、ジャージ姿なのだ。
「おおお、ハッピーさん認定!」
とぼくは思わず叫んでしまうのだった。
もしかしたら、近所の人で、アウトドア派なのかもしれない。
狭い家の中で寝るよりも、晴れているし、心地よいから、公園を独り占めした方が楽しいに決まっている。
誰にも迷惑をかけることなく、パリの中心地を自分のものにしてしまうこのムッシュは、ハッピー道の天才かもしれない。

ある日、別の公園を三四郎と散歩しいていたら、ムッシュ二人が縦長の会議テーブルを森の入り口にセッティングをしていた。
三四郎が動かなくなったので、一緒にしばらく様子を見ていると、彼らはカクテルのセットなどを保冷バックから取り出し、夏を楽しむお酒を作り出した。
応接セットをどこからか運んで、設置する頃になると、どこからともなく、人々が集まって来て、宴会が始まった。
定期的にやっている、ハッピーさんの集まりなのだった。
「こんなに世界にはハッピーさんがいる。素晴らしいことじゃないか」
ぼくは三四郎にそう告げた。
周囲に関係なく、誰にも迷惑をかけることもなく、社会の決められたルールに背を向け、自分の人生を楽しんでいる人のことを、ハッピーさんと呼ぶことで、ぼくはこのギスギスした社会の中にちょっとした爽やかな風を感じることが出来るのだった。
それはとっても素晴らしいことだ。
通常であれば、変わり者、で切り捨てられる人たちだけど、ぼくには愛おしい。
「ハッピーさん万歳。あなたを目撃出来てぼくの今日がまたちょっと愉快になりました」

つづく。

ということで、今日も読んでくれてありがとう。
ハッピーでありたいですよね!!!
お知らせです。
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放送日時について。
【BSP-4K同時】(本放送)6/17(金)22:00~22:59
新作の放送に向けて、2月に放送した「冬ごはん」の再放送も決定しました。
再放送と新作、合わせて2週連続放送になります。
<再放送>
「ボンジュール!辻仁成の冬のパリごはん」
【BSP-4K同時】 (再放送)6/10(金)22:00~22:59
お楽しみに。
地球カレッジ、文章教室、エッセイ編の前期、最終回は6月26日、日曜日を予定しています。ご興味のある皆様、よければ、下のバナーをクリックください。
また、お知らせしますね!!!
レッツ・ハッピー!!!!!!!!!!!!!!!!

地球カレッジ

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