JINSEI STORIES

滞仏霊感日記「またもや、聞こえてきた、幽霊のすすり泣きか、ラップ現象か?」 Posted on 2022/09/12 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、観光地でもあり、世界最大の地下墓地、カタコンブ・ド・パリは地下通路の壁が無数の頭蓋骨で埋まっていることで有名だ。
600万人の遺骨がおさめられている、市営納骨場である。
詳しいことはまたいずれご紹介したいが、見学するには多少の勇気がいる。
そのカタコンブに負けず劣らず恐ろしいのが、今ぼくが住んでいる建物の地下階なのだ。
百数十平米の空間に、通路が交差し、いくつかの地下室(カーヴ)がある。
NHKの確か「パリの冬ごはん」だったと思うが、番組内で、ご案内をした。その短い間、わずか5分ほどの間にも、何か奇妙な声?音が聞こえて、逃げ帰った。
御覧になった皆さんはあそこか、とお判りになるだろうが、恐ろしすぎて、それ以降、ぼくは降りていない。
しかし、引っ越しが迫っているので、下りて捨てるものと持っていくものを仕分けしないとならない。
ここをなんとかしないと、引っ越しが出来ない。
今回の引っ越しの一番の難題でなる。なんだい、そんな話かって???

滞仏霊感日記「またもや、聞こえてきた、幽霊のすすり泣きか、ラップ現象か?」

滞仏霊感日記「またもや、聞こえてきた、幽霊のすすり泣きか、ラップ現象か?」

滞仏霊感日記「またもや、聞こえてきた、幽霊のすすり泣きか、ラップ現象か?」



まず、地下室は空気がよどんでいるので、長時間はいられない。黴臭が凄い。
なにせ、築120年の建築物で、換気口がないのである。
ぼくはそれなりの恰好をして、最強マスクを付けて、ヘルメット替わりに帽子をかぶり、地下室探検へと向かった。
螺旋階段のような、古いお城の映画に出てくるような、つまり、処刑場へ向かうような階段なのである。
フランスのサンルイ島やシテ島の地下にはかつて処刑場があったという、このあたりにも、噂はあるが、特定はできない。
パリの長い歴史の中で何があったのか、誰にも特定はできない。
そして、ご存じのように残念ながら(いらないのに)ぼくは霊感が人一倍強いのだ。
階段を一段一段踏みしめておりながら、南無阿弥陀仏、を唱えた。

滞仏霊感日記「またもや、聞こえてきた、幽霊のすすり泣きか、ラップ現象か?」

滞仏霊感日記「またもや、聞こえてきた、幽霊のすすり泣きか、ラップ現象か?」



ぼくのカーブの横の扉に、「死の危険」と書かれた年代ものの張り紙が付いている。その下には、呼吸困難になった場合の、蘇生のための方法などが図で描かれている。なんで? いったい、この部屋はなんだろう?
「絶対、あけちゃいけない」
と書かれてあるのだけど、開けるだなんて、そんな気にはならない。
「開かずの間」なのか・・・。(記載されている文面には、高圧電流が流れている、みたいなことが書かれているけど、よくわからない。死刑台のエレベーターというフランスの古い映画を思い出し、ぞっとした)
カーブのドアをあけた。御覧頂きたい。
渡仏20年の数々の遺物がここに積み上げられている。

滞仏霊感日記「またもや、聞こえてきた、幽霊のすすり泣きか、ラップ現象か?」

※ 死の危険、と書かれてある。

滞仏霊感日記「またもや、聞こえてきた、幽霊のすすり泣きか、ラップ現象か?」



滞仏霊感日記「またもや、聞こえてきた、幽霊のすすり泣きか、ラップ現象か?」

離婚の時の荷物が、そのままここに保管されている。
ほとんどが黴ているので捨てるしかないが、必要な書類などもあるかもしれない。なので、一応、点検が必要なのだが、ん? その時、・・・すすりなく、声が聞こえた。
「すいません。おどかしっこなしでお願いします」
ぼくは大きな声で、先手を打った。しーん。
気のせいかもしれない。段ボールをあけて、中を覗いた。
2005年の書類箱であった。これ、必要ないと思うけど、どうしたものか、と悩んだ。一応、会計士さんとかに相談をしてから処分した方がいいかもしれない。隣の段ボール箱を開けると、息子の小学校の時のノートなどが出てきた。
一つのノートにはいろいろと勉強の痕跡があった。愛おしいので、いくつかは選んでとっておくことにした。
ここにはぼくと十斗のもの、そして、当時の生活品があるだけだ。
なので、捨てるのはもう、自由なのだけど、・・・。その時、ことん、という音がした。ぼくは驚き、振り返った。
この地下室は50平米くらいあり、奥にもう一部屋あるのだけど、そこの電気がつかないし、そこはちょっと行かない方がいい気がして、入室したことがない。
こんな暗がりである。

滞仏霊感日記「またもや、聞こえてきた、幽霊のすすり泣きか、ラップ現象か?」



恐ろしくて、近づけない。作業に集中をすると、何か、声が聞こえてくる。
「あのー、どなたかいらっしゃいますか? 今、忙しいのでじゃますんなよ」
返事なし。ひんやり~。
ぼくは、怖かったけれど、そんなこと言ってられないので、どんどん、捨てることに専念をした。余計なことは考えず、そこに集中をしたのだ。
100Lのゴミ袋が4つほど、出た。
その時、ごとん、と何か、ちょっと大きな音がした。ちょっと、びっくりして、ぼくが振り返ったその次の瞬間、灯りが消えて、そこが、闇になったのであーる。
「ぎゃああああああああああああ~」

つづく。

ということで、今日も読んでくださって、ありがとうございます。
その声や音の正体を確かめる勇気? ないですよ、えへへ。ぼくは、携帯をとりだし、ライトをつけて、とりあえず、とるものもとらず、逃げ出すのが、精一杯でした。続きは、明日・・・。
え? 明日も?ってか、引っ越すまでには何回かやらないとならないのです。誰もいない、時々、灯りが消えて、すすり泣きの聞こえてくる、あのカタコンブのような地下室で・・・。
ふー、そんな父ちゃんからの、お知らせです。
ついに創刊しました。仏語でフランスから発信するJapanStories!(英語は翻訳され、日本語はオリジナルテキストが付きます)
日本語で読まれる方が書く記事の下のオリジナルテキストのところをクリックください。
まずは、本誌を御覧あれ。こちらをクリックで、飛びます!えいや!!!

https://japanstories.fr/
―――――――――――――――――――――――――――――――
父ちゃん出演番組のお知らせ。
■「ボンジュール!辻仁成のパリごはん2022夏」
 本放送:2022/9/23 金曜日 22時〜22時59分
■「ボンジュール!辻仁成のパリごはん 2022 春」
【再放送日時】2022/9/17 (土)前11:00~11:59<BSP-4K同時>
―――――――――――――――――――――――――――――――
それから、小説教室が9月24日(土)に迫ってきました。一度は小説を書いてみたいけれど、小説の敷居が高く感じて、なかなか書けないとお嘆きの皆さまに、わかりやすい、父ちゃんの小説講座です。愉しみながら、小説を書いちゃいましょう。
詳しくは、下の地球カレッジのバナーをクリックくださいませ。

地球カレッジ

滞仏霊感日記「またもや、聞こえてきた、幽霊のすすり泣きか、ラップ現象か?」



 

自分流×帝京大学