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退屈日記「なんと、引っ越しの日付を間違えていた。今日、業者がやって来た」 Posted on 2022/09/30 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、まず、咳が出ず、昨夜は爆睡が出来たことをご報告したい。嬉しい。
ひと月ぶりの安眠であった。
ああ、人間、こうやってちゃんと眠れることこそが、幸せなのだ、と実感。
美味しいものを食べたい、という気もちにつながる。
それが言わば、生きることなのであーる。
そして、朝、3つの驚くべきメールが届いていた。一つはLEE編集部からのクリスマス特集の閉め切りリマインドメール(締め切り過ぎてる!)、もう一つはマガジンハウスからで「息子とぼくの3000日、5刷り、重版決定」報告。おお、やった、と喜んだ父ちゃん。そして、次のメールで、ひっくり返った。
「本日、朝、7時過ぎより、荷物のパッキングにお伺いいたします。運送業者、マルコ」
ええええ、明日じゃないのー? (今日は前日パッキング、明日が本引っ越し)
という、大変な時期にパソコンを開いて、今の自分の大変さを日記に記して配信しようとしている、このワーカホリックな自分が、怖い。あはは。
ともかく、少し遅れて、8時にむくつけき業者さんが二人やってきて、割れやすいグラス、コートなどを段ボールなどに詰め始めた。その際、そのボスが、
「あのね、ムッシュ。明日、引っ越しなのに、ぜんぜん、遅いですよ。間に合いますか? ぜんぜん、パッキング終わってないじゃないですか? ぜんぜん、日本人、遅すぎるでしょ。今日、必ずやってくださいね」
と文句を言われてしまったのであーる。えへへ。

退屈日記「なんと、引っ越しの日付を間違えていた。今日、業者がやって来た」



土日だと思っていた引っ越しは、なんと、金土であった。(そりゃあ、そうだ。日曜日はやらないよね)
「長谷川さん、すいませんが、引っ越しは明日でした。今日もお願いします」
とまずは、一時的に弟子入りした長谷川さんにSMSを送った。
たぶん、長谷川さん一人だけでは間に合わないので、事務所のスタッフさんにも、SOSを送った。三四郎の世話係をやってくださっている椅子の修復士マントさんにも依頼し、「出来れば、今日の夕方までサンシーを預かってもらえないか」と打診。(出来れば、明日も二日続けて、お願いします)
考えうる、助っ人総動員でこの難局を乗り切るしかなかった。
ともかく、咳が止まったことは幸いであった。きっと、ここで、気管支炎は終わるような気がする。
三四郎も元気になったことだし、ここからが勝負である。こんなことで人生の出鼻をくじかれてはならない。
父ちゃんは、奮起した。そうだ、人生はどんなに苦しくても、必ず、前を向いて前進しないとならないのだ。
さ、皆さん、合言葉を!!
「合言葉は熱血」

退屈日記「なんと、引っ越しの日付を間違えていた。今日、業者がやって来た」

※ 5刷り決定!



合言葉は熱血、について、ちょっとだけ、補足をしておきたい。
人間はつねに自家発電で生きて行動をしている。自分が自分に負けることを「挫ける」という。
自分に負けなければ、よその人にとやかく言われても「負け」ではない。
人が負けて、落ち込むのは、自分に負けるからに他ならない。
じゃあ、絶対に負けない方法がある。それはつねに、自分を鼓舞していくことだ。
つねに、前向きに生きることだ。どんなに苦しい状況に追い込まれても、世界中を敵に回すことになっても、結局、自分が降伏しなければ、人間、負けることはないのである。
逆に言えば、自分に負けた時に、人間は終わる。
ぼくは「合言葉」を作った。これは、ぼくがぼく自身にむけた「合言葉」なのである。
「ぼくは熱血で生きてきた。熱血に終わりはない。人がとやかく言っても気にするな。他人はしょせん、他人で、関係ないし、他人は無責任なのが世の常なのだから、そんな外の人間に振り回されて大切な人生を棒に振るのは愚かである。誰の人生だ!合言葉は熱血。熱血であれ。それがこの人生を豊かにする唯一の方法なのであーる」

つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
ぐたぐた、持論を展開する前に、はよう、片付け終わらせろや、と皆さんが思う気持ちもわかります。しかし、こうやって、人間は自分を鼓舞しながら、少しずつ難局を打開して、前進していく生き物なのです。砕氷船と一緒です。少しずつ、氷を砕いて、進んでいく、あの砕氷船をイメージして、皆さん、この過酷な世界を乗り切りましょう! えいえいおー。
さて、そんな熱血父ちゃんからのお知らせです。
元気になったので、10月後半、東京で皆さんと会える可能性が高まってきました。笑。
10月31日にオンライン講演会「プロの編集者から学ぶ。物書きを目指す方々への最強アドバイス」を開催いたします。
今回は、辻仁成のエッセイ集「息子とぼくの3000日」や、小説「孤独にさようなら」を担当した現役担当編集者2名を招いて、編集者サイドから考える、作家のあり方、物書きになるための道、新しい書き手へ向けての編集者側からのアドバイスなどを、オンライン講演会形式でお送りいたします。父ちゃんが物書きへの道を語りつつ、その都度、お二人にご意見を聞いて、より、深い講座にさせてみせます。本当に一つ上の書き手を目指される方々に必要な講座となるでしょう。長谷川さんもきっと参加するでしょう・・・。
同日、都内某所の特別教室にご出席希望される方から抽選で40名の方をご招待させて頂きます。
詳しくは、下の地球カレッジのバナーをクリックください。

地球カレッジ

「がっははははは~」笑。

退屈日記「なんと、引っ越しの日付を間違えていた。今日、業者がやって来た」



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