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滞仏日記「第8波のパリ、みんなはマスクをしないが、ぼくはマスクをする、理由」 Posted on 2022/10/13 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、フランスは今、ガソリンスタンドがストに入っていて、それが超こじれて、ガソリンが買えない状況になっていて、政府がそこに介入をしようとして失敗(?)、話が一層こじれて、労働団体などがストに加わり、カオス状態になっている。
気管支炎がなんとか落ち着いたので、レコーディングを再開しないとならず、スタジオまで車で移動をした。道は逆にガラガラだけど、開いているガソリンスタンドに車やバイクが長蛇の列をなし、部分的に交通渋滞、という不思議な世界。
その上、露ウ戦争の影響で、ガスや電気代が高騰し、フランス一風堂のみっちゃんいわく、この冬、最大で光熱費10倍というのだから、市民生活はモスクワより厳しいのじゃないか、と思ってしまう事態に向かっている、やれやれ・・・。
日本の円安もいわば、この非常時に資源がないことが原因の一つかもしれない。所詮、国土が広いアメリカやロシアや中国など、資源を持ってくる国には敵わないという悲しい現実なのだ。
さて、ガソリン不足はいつまで続くのか、火曜日に予定されていた我が家の電気工事も(車が動かず)ガソリン不足ということで、来週以降に延期になってしまった。
市民生活は混乱している。
幸い、ぼくは田舎からの帰り道に高速で給油をしておいたので、まだ300キロほどは走れる状態なのだ。
日本に戻る前まではなんとか繋げそうであーる。今日も三四郎を連れて、20区にあるロブソンのスタジオまで出かけた。
なるべくガソリンを使わないように、最低限のルートで移動した父ちゃんであった。
おっと、一月続いた気管支炎あがりなので、まだ咳が出るし、炎症がわずかに残っているので、喉にいい「生姜うどん」を作って、身体を温めてから出かけることになった。歌手は身体を温め、殺菌力の高い「生姜うどん」なのであーる。美味い!!!

滞仏日記「第8波のパリ、みんなはマスクをしないが、ぼくはマスクをする、理由」

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滞仏日記「第8波のパリ、みんなはマスクをしないが、ぼくはマスクをする、理由」



ぼくはマスクを着けて家を出た。気管支炎だったし、(気管支炎もうつる気管支炎があるらしい)治ったとはいえ、ここにコロナや大流行中のインフルエンザが重なるとやばいので、マスクを離さない。
オランピア劇場でライブが出来ることになったら、気管支炎とか、コロナとか罹ってるわけにはいかないのである。
そんなことでコンサートが中止になったら、ぼくの責任じゃないか。
今回の気管支炎はたまたま、ライブや映画撮影のない時期だったからよかったものの、そうじゃなかったら関係者に多大な迷惑をかけてしまっていたことだろう。
なので、ぼくはマスクをして家を出る。
マスクをしないフランス社会で、マスクをしていると、ま、なんとなく、奇異な目で見なられる。でも、知ったことじゃない。
それはぼくの自由だ。しないのも自由だけど、するのも自由なのだ。
マスクをつけるかつけないか、で他人からとやかくいわれることはない。
フランス人も自らは着けないが、着けている人に文句を言う人はいない。
第8波に襲われて、感染者が急拡大しているフランスだが、マジ、ほとんどの人はマスク着けてない。(一昨日、6万人だった感染者数、昨日は9万5千人であった。もの凄い感染拡大である)
9月にフランスに帰ったら、もう、コロナは終わったことになっていた。
もともと、欧州の人はマスク反対の人が多いので、政府も規制の時期が長かったこともあり、8波が猛威を振るっているのは知っているが、マスクを義務化することは出来ずにいる。
もしも、ぼくが歌手じゃなければ、しないかもしれない。いや、うーん、どうかな、ご高齢の方々が多い地区に住んでいるから、着けているかもしれない。マスクは個人的に嫌いじゃないので・・・。
でも、コロナの後遺症で喉や肺が戻らない人が出ており、歌手としては後遺症で歌えなくなるのだけは避けたい。やっぱり、マスクだ。
ライブを楽しみにしてくださる人に、自己管理が出来ないのはプロとして情けない。オランピア劇場までは、臨戦態勢が続くことになる。(おっと、まだ、出来るか、わからないのだけれど、父ちゃんはもう完全にやる気になっているのだ。えへへ。有言実行じゃあ~)

滞仏日記「第8波のパリ、みんなはマスクをしないが、ぼくはマスクをする、理由」

※、これはあかんね・・・。

滞仏日記「第8波のパリ、みんなはマスクをしないが、ぼくはマスクをする、理由」

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※ 楽天家のプロデューサー、ロブソン。ぼくの帽子を奪ってポーズ、似合ってる!!!



14時、ぼくはロブソンのスタジオに到着した。
一月も咳き込んでいたので正直、歌えるのか、自信はなかった。ダメだったら、12月に延期するつもりだった。高音を張り上げるとやはり、咳が出て、何度も、中断が続いた。ごほごほごほ・・・。苦しい・・・。
「おお、ツジー、かわいそうに、君らしくないなぁ」
ぼくはブースの中で、マイクと対峙した。張り上げる声で激しく咳き込んで何度も何度も、中断が続いた。自信が喪失していく・・・。
やっぱり、ダメだ。年齢的な問題で気管が弱っているのかもしれない。もう、ぼくの出番はないのか、こんなのじゃ、オランピアは無理だろうが、などとネガティブな意見が頭の中で渦巻いた。でも、ロブソンは諦めない。
「もう一度やってみよう。力を抜いて、だんだん、声が出るはずだよ。兆しはある」
三四郎はロブソンの嫁のエリカさんがみてくれている。美人だからか、さんちゃん、めっちゃ、おとなしい・・・。いるのか、わからないくらい、シーンとしている。美人に弱い、ミニチュアダックスフンドめ。
「ツジー、ZOOを一度歌ってみたいか? ずっと歌ってきたから、身体が覚えてるかも・・・。喉も嬉しくなって、調子が出るかもよ」
ブラジル人は楽天家だ。ということ、ZOOを歌うことになった。ボサノバ・レゲエ風にアレンジされている。ブラジル人ミュージシャンたちの演奏はかっこいい。これがダメだったら、今回はここまでにしよう、と思って軽く口ずさんでみたら、お、歌えた。
「ツジー、いいじゃん、これならいける。ハスキーな声、ばっちりだよ」
気分があがった。
ぼくは自分に言い聞かせた。熱血でいけよ。失うものなんかないやん。自分からネガティブになってたら、出来るものも出来なくなる。ポジティブになれよ。身体を動かせよ、どうせ、生きてるあいだだけの人生じゃん、思いっきりやったれよ。
2度、3度、だんだん、気分がアップしていった。同時に、声が少しずつ戻ってきた。痰が切れ、咳が止まった。ロブソンの奥さんがやって来て、いいわよ、と言った。そんなこと言う人じゃないので、自信が出た。すると、一気に喉が開いたのだ。
おおお、美人に弱いのはダックスだけじゃなかったぁ、えへへ。
「ツジー、いいじゃん、すごい、出てるよ、声!」
あゝ、確かに。復活したと思うと、どこからともなく、エネルギーが出来てきた。
気が付くと、歌い終わっていた。
歌えた、それも、これまでにないソウルフルなZOOである。最初に歌った曲へと戻った。今度は、一発でOKが出た。なんだよ、喉が開いたじゃん。
気管支炎に勝った、瞬間であった。
長い戦いであった。合言葉は熱血じゃ。どりゃあ。ぼくは、歌い終わると、再び、マスクを着けるのだった。

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※ ロブソン家の裏の散歩道、帰りに三四郎はここでピッピ!!!



つづく。

今日も読んでくれてありがとう。
パリを端から端まで車で横断するので、行き来がちょっと大変なのです。疲れましたが、三四郎が静かに待っていてくれたので、ありがたかった・・・。めるしー、さんちゃん。あと、8曲、頑張るよ~。

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