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退屈日記「三四郎に、かっちー――ん。ええかげんにせーよ、こら、サンシー!」 Posted on 2023/01/02 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、たしかに、君はね、かわいいよ。
でも、今日はほんとうに、かっちーん、だった。
君が大事だし、必要だけれど、もうちょっと親の気持ちをわかってくれたらなぁ、嬉しいのだけれど、・・・。
今夜、ぼくは君が、してくれるのを、ひたすら、いつものように待った。
十斗を最寄りの駅まで見送って、―そこまでだって10分も歩いた―、そこからの帰り道、普通だったら、とっくに、ポッポ(うんち)をしてくれる時間だったというのに、いつまでたっても、してくれないー。
そこから一時間、いやもっとだね、ぼくは君と近所をひたすら歩くことになった。ピッピ(おしっこ)はその間、2回もしてくれたじゃないか・・・。
「たのむよ、サンシー、ポッポしてくれよ」
君はここ最近ずっと、毎晩、寝る前に外でポッポをしてくれる。なので、翌日の朝、正確には10時くらいまで、我慢できるようになった。
「サンシー、いい加減にしろよ。ポッポしなさい!」
君が我が家にやって来た頃、一生懸命教えた結果、おしっこシートの上でおしっこはできるようになったけれど、いつもポッポは十斗の部屋のドアの前だったよね。
あれから約一年、その間に、君は見事な成長を遂げ、少なくともこの半年は、一度も家の中でピッピもポッポもしていない。素晴らしい、ブラボー。
「サンシー、ポッポしろって! この野郎、はよ、せーや」



ぼくはね、本当に君は偉いと思っているんだよ。だけど、サンシー、今夜は酷かったよ、本当に、酷かった。何度もお願いしたのに、目を逸らして、ぜんぜん、集中しなかった。毎晩、ちゃんとしてくれるじゃないか、なんだよ、どうしたんだよ! あんなにご飯を食べたから、絶対、したいはずでしょ???
「サンシー、待て。そっち行かないよ。帰らないよ。しなきゃ、帰れないよ。わかってる? ゆーのー?」
もしも、この日記を読んできた心優しき読者さんが「ミニチュアダックスフンドってかわいいのね、三四郎君のお世話がしない。サンシー、大好き」とかって、誤解をして、同じ犬種を飼うような事態になったら、え? いったい、君は、どんな責任とれるんだ。
「さんちゃん、お願います。父ちゃん、おしっこしたくなった。もう、限界なんだけど、してくれよ、お願いします。おやつ、あげるから」
あんまり安全とは言えないパリ中心部の家のまわりを、一時間以上歩かされる羽目になるだなんて、しかも、冬の夜に・・・。
君が寝転がってぬいぐるみとかとじゃれているめっちゃ可愛い写真とか見て、わあ、私もサンシーが欲しい、とか、どこかのマダムが思ったら、君、どうするんだね? 

退屈日記「三四郎に、かっちー――ん。ええかげんにせーよ、こら、サンシー!」



いっとくけれど、三四郎。父ちゃんはこれでも忙しい男なんだ。
なのに、君のために、三四郎ファーストでこの一年頑張ってきた。恩を着せるつもりはない。
でもね、知ってる通り、朝は9時に、犬公園まで出かけて、他の犬たちと広々とした公園で精一杯遊ばせてやってるじゃないか。そこで君は30分、他の犬たち、リリーや、プーシキンや、ポゴや、レンジや、プロザックや、ホッパーたちと全速力で走り回っている。父ちゃんはその間、マダムやムッシュらとへたっぴな仏語で愛想笑いを浮かべ、君がこの犬社会の中で生き難くならないように、父ちゃんなりに友好的に頑張っているんだ。
家に帰ると、汚れた脚まわりをお風呂で洗い流し、朝ごはんを与えている。
午後は、2時くらいに15分、ピッピとポッポの散歩をし、次は17時に15分程度、やっぱり散歩に出ている。
あとは家で、仕事の合間に、一緒にお昼寝したり、じゃれたり、遊んであげてるじゃないか。夕ご飯なんか、ドッグフードだけじゃかわいそうだからって、毎回、野菜と鶏肉を炊いて、それを崩してドッグフードに混ぜて与えているじゃないか。君に長生きしてもらいたいから、頑張っているんじゃないかぁ!!!

退屈日記「三四郎に、かっちー――ん。ええかげんにせーよ、こら、サンシー!」



でも、父ちゃんは、知らないとは思うけど、辻仁成っていうんだけどね、63歳にしてはそれなりに忙しい男なんだよ。
オランピア劇場でライブもやるし、映画監督して公開も控えているし、エッセイとか、小説も書かないとならないし、dancyuではレシピも月二回出しているんだぁ~。
え?関係ない? 
そんなつれないこと言うなよ。こんなにつくしているのに、君はいったいなんて子犬なんだ!
「サンシー、頼むよ。ポッポ!!! ポッポしろよ、てめー」
十斗と別れて70分ほどした頃であろうか、家から一キロほど離れた雑木林の中で、3センチほどのポッポをやっとしてくれた三四郎ちゃんなのであった。
ええと、犬を飼いたいと夢を見ている皆さん、もう一度、今一度、真剣に悩んでみてください。悩んでからでも、遅くはありません。

退屈日記「三四郎に、かっちー――ん。ええかげんにせーよ、こら、サンシー!」

つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
やれやれ、でした。マジ、へとへとになりました。ところで、この写真のワインボトルのぬいぐるみ、可愛くないですか? これ、見つけたんですゥ。もう、嬉しくなって、思わず、買っちゃいました。十斗には「お年玉」、さんちゃんにはこの「スペインワインのぬいぐるみ」です。これ、めっちゃ気に入ったみたいで、まるで酔っ払いのように抱きかかえて離さないのであります。あはは。かわいいのォ。
さて、まずは、そんなサンシーからのお知らせです。
「辻仁成のパリごはん 2022年秋冬」(59分)
2023/2/17(金)後10:00~10:59【BSプレミアム・4K同時】
2023/2/21(火)後5:00~5:59【BS4K】※再放送
2023/2/21(火)後11:00~11:59【BSプレミアム】※再放送
それから、地球カレッジからのお知らせです。
今月の文章教室は1月29日になります。この前には戻り、きちんと準備をしますから、ご安心を。皆さんから届いたエッセイは旅先で楽しく読んでいきますね・・・。

「エッセイの書き方教室、第1回」
今回の地球カレッジ「文章教室」は、どうやってエッセイを構想し、実際に書き、また、推敲をしていくのか、についての講座となります。課題応募されたエッセイの中から選ばれた数本のエッセイを、辻仁成が細かく指導、推敲、研磨していきます。
「エッセイ依頼内容」
今年最初の課題は、また一から、食にまつわるエッセイとなります。
「お子さんやパートナー、家族、同居人に日々作る、作ってもらっている、頂いている、ごはん。外食も含め」について、その人生の深部、喜怒哀楽を書いてください。題して、「日々のごはん」です。字数は1000字前後、1500字以内、とします。締め切りは1月22日とさせていただきます。
詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックくださいませ。

地球カレッジ

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それから、2023年5月29日にパリのミュージックホール、オランピア劇場で単独ライブやります。VIP席(楽屋に入れて、CD付き)は売り切れました。ありがとうございます。現在、JALパックパリさんがスペシャルチケットを検討中です。こちらも数に限りがあります。すいません。
パリ・オランピア劇場公演のチケット、直接、予約する場合はこちらから。

https://www.olympiahall.com/evenements/tsuji/

フランス以外からお越しの、ちょっとチケットとるのが不安な皆さんは、ぜひ、ジャルパック・サイトをご利用ください。こちらです、

https://www.jalpak.fr/optionaltour/tsujiconcert/

父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」はこちらです。無料でも聞けます。ってか、ほとんど無料に近いですので、思う存分楽しんでください。音楽が危機的な状況ですけど、ミュージシャンたちは頑張っています。


https://linkco.re/2beHy0ru

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自分流×帝京大学