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パリ日記「ゆきこ・みやがわ~、と連呼するマリオ台風が吹き荒れたの巻」 Posted on 2023/03/04 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、オランピア劇場でのライブまで3か月を切った。
プロモーターのベルトランから、「帰パリ命令」まで飛び出した。なにをノルマンディでのんびり過ごしているのだ、と怒られた父ちゃんであったァ。あはは。
で、今日は中断していたミュージックビデオの制作が再開されたのである。
中断したのは、監督のピエールが子守りをしないとならなかったのと(現在、フランスの子供たちはバカンス中)、バイオリンのマリオがインフルエンザで10日間も寝込んだからであった。
とにかくフランスは今、インフルエンザが猛威をふるっているのである。
しかし、撮影現場にやってきたマリオはすっかり回復していた。
「あきこ・みやがわ、あきこ・みやがわ~」
と昔の恋人の名前をいきなり連呼しはじめた。宮川あきこさんを、ぼくは存じ上げていないのだけれど、マリオのせいで、バンドメンバーの間では超有名人なのであった。
彼がブロードウェイミュージカルに出演していた頃のガールフレンドさんなのだとか。
「そんなにいつも名前を連呼するくらい好きだった人と、なぜ、わかれたの?」
と(忌憚なく)訊いてみたら、
「ぼくとリズムが違い過ぎたからでーす。でも、今でも尊敬していまーす」
というではないか。
確かに、マリオは常に冗談を言い続ける陽キャラなのだ。普通の日本の女性じゃ、ついていけないかもしれない。
「わたしはフランス語からやってきましたァ」
マリオは国虎屋の女性スタッフさんに、おかしな日本語を連発していたのである。たしかに、一見すると危ない人間にしか見えないのだけれど、彼のバイオリンは凄い。
現在、3つのフランス映画の映画音楽を制作し、その天才ぶりを遺憾なく発揮している未来が楽しみなミュージシャンの一人なのである。

パリ日記「ゆきこ・みやがわ~、と連呼するマリオ台風が吹き荒れたの巻」

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さて、話は長くなったが、今、ぼくには大変、心を悩ませている問題がある。パーカッションのジョルジュ・ベゼラは2022年最高パーカッショニストに選ばれ、メロディ・ガルドなどの全米ツアーでも中心的役割を担っている。
一方、マリオ・フォルテも今やフランス映画界では若手のホープとして大いに期待されている売れっ子なのだ。
マリオはジョルジュの紹介なのである。
で、この両方から、ぼくのオランピア劇場において右腕になりたいという申し出があったのだ。嬉しいことである。
もともと、ピアノのエリック・モンティニーがぼくの音楽的な支柱だったが、エリックは日仏のハーフでもあり、俺が俺がという性格ではない。出しゃばらない、実に控えめで、弁えた男なのである。
一方、ジョルジュはその経験から人の指図は受けないボス・タイプのブラジル人だし、ジュリアード出身のマリオは音楽的な才覚が半端ない。
ぼくとしては最高のショーをやりたいのだけれど、ここがぶつかってへそを曲げられても困るのである。
そこでまず、先週、ジョルジュと食事をしながら腹を割って話しあったのだった。
ぼくとしてはバンマスをジョルジュにお願いしたかったのだけれど、アレンジに関してはバイオリニストのマリオに委ねたかった。その辺はわかってくれるだろうと思っていたのだけど、
「ジョルジュにバンマスをお願いしたいのだけど、アレンジに関してはスコアも作らないとならないし、まずは、マリオにやらせてはどうだろうね?」
とやんわり、ふってみたのだ。
すると、ジョルジュの顔が一瞬、曇って、眉毛が動いた。やば、これは違ったかな。
「いや、マエストロ、ここはみんなでやろう。スタジオで、全員で考えてやろう。誰かのアレンジというのはツジーの音楽にはあわない」
「そ、そうだよね。ぼくもそう思ってたんだ。みんなでやろう」
やれやれ、困ったぞ。意外とワンマンではない、父ちゃんなのであーる。あはは。

パリ日記「ゆきこ・みやがわ~、と連呼するマリオ台風が吹き荒れたの巻」

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ということで、マリオとはその辺の話になった。マリオは年下なので、ジョルジュをたてて、うまくまとめられるか、とふったのだ。
あまり、本質を話すのはよくないので、仏語が苦手なのを利用して、英語とかイタリア語を混ぜて、語り合ったのである。グラッツェ・ミーレ。ペスカトーレ。
「あきこ・みやがわ?」
「ういー、あきこ・みやがわ~」
マリオはいい奴で、感動屋で、そういうところはきっと宮川あきこさんがよくご存じだと思うのだけど、バイオリニストの才能と彼のキャラは別次元なのである。
「ツジサン、ノープロブレム。ジョルジュと話しまーす。彼はパーカッショニストだし、ぼくはバイオリニストだから、大丈夫でーす」
「待って。そこ、デリケートにやってくれよ。プレファボーレ!」
「ペペロンチーノ、シー、シー、アルデンテ、ボニッシモ」
マリオはアルジェリア生まれなのだけど生まれてすぐイタリア人ご夫妻のもとに養子に出され、その後、フランスに移住し、現在、アメリカ、フランス、イタリア、アルジェリアの国籍を持っている。
ぼくらの隣にたまたま座ったのがイタリア人のファッション関係者で、途中からマリオが彼らとイタリア語で話だし、結局、そこのボス、コンスタンティノさんらがオランピア劇場に来ることになった。マリオにはそういう人を引き寄せる、人心吸引力がある。
ジョルジュにもある。強い二人なので、ここがぶつかると困るのは、父ちゃんなのであーる。
ともかく、マリオがジョルジュと会って、話し合いをすることになった。無事に、話がまとまることを祈る。
チケットの売れ行きや宣伝だけではなく、最高のステージを生み出すために、ぼくは日々、こんなに格闘しているのであった。
皆さん、ご一緒に、あきこ・みやがわ~。え?
違った。熱血~、(;^_^A

パリ日記「ゆきこ・みやがわ~、と連呼するマリオ台風が吹き荒れたの巻」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
あきこ・みやがわさん、どうやら、オランピア劇場に来てくださるようです。お会いできるの楽しみにしております。
さて、そんな苦労人の父ちゃんがおおくりする「気まぐれ文章教室」が3月19日に開催されます。ただの文章教室ではありません。笑。熱血教室になります。文章を磨くコツ、書き方や推敲のコツを通して、生きることの深い部分を刺激する父ちゃんの文章教室、気まぐれですが、熱血な授業になるでしょう。ご興味ある皆さん、詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックしてみてくださいね。

地球カレッジ

パリ日記「ゆきこ・みやがわ~、と連呼するマリオ台風が吹き荒れたの巻」

そして、エディットピアフも立った。ビートルズも立った。ローリングストーンズも、マドンナも、スティングも立った。オランピア劇場でのライブが近づいてきました。バンド内もこうやって切磋琢磨しております。ファイト!
フランス国内、もしくは周辺国、あるいは世界各地にお住まいの皆さん、ぜひ、遊びに来てください。旅慣れていない皆さんには、JALパック・パリさんが協力いたしますので、こちらをクリックください。

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ついでに、父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」、お好きな音楽プラットホームから選ぶことが出来ますので、聞いてみてくださいね。

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