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第六感日記「人の死は頭で理解できないもの。ぼくの夢にあの人が立った」 Posted on 2023/02/19 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、元秘書の菅間さんが、今朝の夢に出てきたのである。
一昨年の11月に急逝し、一周忌もおえ、しかも、世界は新しい年になった。
自分が人の死をどう受け止めているのか、ちょっとわかる夢でもあった。
夢の中でぼくはスタッフらと忙しく、ライブに向けてミーティングを行っていた。
で、ふっと気配を感じて振り返ったら、そこに菅間さんがいたのだ。たぶん、ぼくは夢の中でびっくりしていた。
菅間さんはぼくがECHOESをやっていた時からのスタッフさんで、作家になった頃に、秘書になってもらった。
30数年来の同志であった。とくに作家になってからは、ほぼすべての切り盛りをお願いしていた。
何か問題が起きると、「菅間さんこの件、お願いします」と頼んだ。
「大丈夫です。安心してください」とお返事が戻って来た。
彼女のおかげで、いろいろなことを乗り越えてくることが出来た。
忘れられない彼女の口癖は「いつも一番苦しい時に、辻さんは誰かと出会い救われてきたじゃないですか? これからもきっと味方が現れます」であった。
ぼくの後ろにいた菅間さんは椅子に座っていた。
微笑んでいたと思うのだけど、死んでいることを知っていたので、ぼくはどう対応していいのか、わからなかった。
でも、涙が出そうなほど、嬉しかった。死んでいるのに、会いに来てくれたんだな、と思ったからだ。
オランピア劇場ライブを控えているので、じっとしていられなかったのだろう。
もう行かなきゃいけない、と言うので、不意にぼくは「あの、菅間さん、手を握ってもいいですか?」とみんなの前で訊いてしまったのだ。言った自分が一番驚いていた。
すると、不意に、スタッフの一人が、「一日、一緒にいてあげたらいいじゃないですか?」と言った。
「え?」
驚き、ぼくは目が覚めてしまった。
この「え?」はぼくの心の底で、人の死を理解できていない証拠でもあった。
頭では理解出来ていても、その人が存在しないということを、どうやって、埋め合わせていくべきか、時間がかかっているということだった。

第六感日記「人の死は頭で理解できないもの。ぼくの夢にあの人が立った」



菅間さんにはお姉さんがいる。児玉さんという。
菅間さんが亡くなる前は、やりとりがなかった。でも、彼女の死後、菅間さんにしかわからない事務所の問題などがあり、児玉さんとのやりとりがはじまった。
事務所が福岡に移転し、あらゆる整理が終わった後も、児玉さんからのメールが届き続けた。仲の良い二人だったので、妹の死を受け止められないご様子であった。
一方、ぼくは菅間さんとそっくりなお姉さんを通して、そこに菅間さんがいるような気持ちを頂くことになる。
ただ、ぼくはいつも忙しくて、きちんとしたお返事が出来ずにいた。
先月、お姉さんからメールが届いた。
ご家族がみんな他界され、おひとりだけ残っている心情をつづった文章であった。

「1人で何役もの仕事をこなし、知り合った人々との出会いを大切に繋ぎ、可愛いモノが大好きで、旅行も遠出も出来なかったから買い物と愛犬と過ごすことが唯一の楽しみだったようです。残されたモノたちからメッセージが伝わってきます
それにしても自然の力は凄いですね。何があっても季節は巡り来て変わらず花を咲かせます。実家の庭には今
蝋梅、日本水仙が咲き誇り、紅梅白梅が咲き始もふきのとうも出てきました。春はもうそこまでって感じです
私はせっせとゆず味噌 柚子ジャム ふきのとう味噌 はちみつレモンを作っています。
でも皆いなくなってしまいました。料理は食べてくれる人がいるからこそですもの
お姉さん凄いね!コレお母さんの味だね!といつも褒めてくれた妹
水仙が咲いたよ!と写真の皆に話しかけても
曖昧な思い出を確かめたくても思わず名を呼んでも
もう時間を共有した人達はいません。
ここにいると血の繋がった人達はもう別の世界に生きていて独りぼっちだとつくづくとしみじみと思います
妹は此処が好きだから転地療養はしない、どう生きたかで私は私の人生を締めくくると言っていたから
病院でなくデイジーが傍にいて逝ったのだから幸せだったね、と
自分に言い聞か納得させたり後悔したりしながら死を受け入れていくのでしょうか。淋しいです
夫にはとても助けられています。
夫は同志です」

第六感日記「人の死は頭で理解できないもの。ぼくの夢にあの人が立った」



ちかしい人がいなくなった心の空白をどうやって埋めていけばいいのか、その時間の起伏が描かれている。
こういうお手紙のようなメールが季節ごとに、届けられる。死者との和解の難しさ、をぼくは毎回、行間から感じさせられている。
しかし、児玉さんのおかげで、菅間さんが生き続けているような気持ちになる。
冬が終わろうとしている。
季節はめぐり、また、春が訪れる。
ぼくは三四郎と海辺を歩く。
このアパルトマンのことを菅間さんは知らない。
不思議なことに、この三四郎のことも菅間さんは、知らないのである。
菅間さんの死後、ぼくは秘書を置かないことにした。
長谷っちは、弟子で、秘書ではない。
ぼくは息子からの自立のあと、今、やっと菅間さんからも自立をしはじめている。
新たな問題がおこったら、自分で解決をしている。
やっと、自分で解決することが出来るようになった。
死者を忘れないことが、その人を生かし続けることでもある。

第六感日記「人の死は頭で理解できないもの。ぼくの夢にあの人が立った」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
それでも、人間は生きていくんです。もうすぐ、春ですねぇ。花が咲き誇る季節を待ちたいと思います。

地球カレッジ

第六感日記「人の死は頭で理解できないもの。ぼくの夢にあの人が立った」

第六感日記「人の死は頭で理解できないもの。ぼくの夢にあの人が立った」

そして、迫ってきました。5月29日は熱血度が試される、オランピア劇場単独ライブです。

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