JINSEI STORIES

滞仏日記「激怒した父ちゃん。日本の熱血を舐めるな」 Posted on 2023/03/08 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、人を動かすのは難しい。
おとなしく待っていたのだけど、誰も動かない。
ポスターが出来たけど、千枚のポスターをアーティスト本人に全部渡されて、途方に暮れた父ちゃんなのであった。
関係者に「大丈夫ですかね」と聞いても「埋まりますよ」と根拠のない発言しか戻って来ない。
フランス人の宣伝マンを雇ったのだけど、今日までに記事一本も出てないし、連絡も途切れている。連絡一切なし。お金も払ったのだけど、詐欺か?
日本人のお父ちゃんが一生懸命頑張ろうとしている、この一世一代の大仕事なのに、誰も動かないのだ。
みんな、あいつがやる、のを待っている。あいつなんていない。
つまり、人まかせなのである。
所詮、わけのわからないロン毛の日本人がオランピアやるというので、仕方なく、引き受けた仕事なのであろう。頭にくる。なめるな!!!
ぼくは自らフライヤーを配りに走り回っているのだけれど、宣伝担当からは一切報告もなし、マコちゃん以外は誰も動かない。
やっぱし、頼りになる、マコちゃん。
12月から宣伝は開始しているはずだが、いまだ、何も世に出てないことが今頃、わかった。
それで、今日になって「ちょっとこれはやばいんじゃないか」と思ったので、プロモーターにメッセーを送った。
「どうなっているの? 宣伝担当から連絡ぜんぜんないけど。さすがに、おかしいんじゃないの?」
そしたら、プロモーターのベルちゃんから、
「あなたの言う通り」
と拍子抜けする返事が戻って来た。あはは。

滞仏日記「激怒した父ちゃん。日本の熱血を舐めるな」



ベルちゃんが、俺に任せてくれ、というから任せてノルマンディで歌の練習や体力づくりに励んでいたのだけれど、こりゃあ、ちょっとダメだね。
でも、父ちゃんは諦めるの得意じゃない。
ぼくが投げ出したら、誰も頑張る人がいなくなる。
来てくださるお客さんの顔に泥を塗ることになる。
そもそも熱血の精神に反する。
宣伝担当だけに頼っていてはダメだ。アウトだ!
「あなたにとって、ぼくの宣伝などたくさんある仕事の一つに過ぎないかもしれない。でも、ぼくにとってオランピアは一生に一度の大事なライブなんだよ」
というメッセージをベルトラン経由で送り付けてもらった。
やる気がない人が動くのを待っていても勝利などするはずもない。そういう時は自分が動け。
満席は無理でも、たくさんの人に見てもらいたい。これは一世一代の大仕事なのだ。
わかるか、ひとなり、お前にとって一生に一度の63歳にして立つオランピア劇場なのだ。
でも、待て。まだ、投げ出す必要はない、幸いなことに、時間がある。
3月、4月、5月と三か月弱の時間がある。
失われた12月、1月、2月を取り戻せ!
本当に応援してくれる人を探そう。絶対、応援してくれる人はいるはずだ。
メンバーは結束している。最高のミュージシャンが揃っている。
お客さんが少なくても、ぼくは最高のライブをやる。それでいいじゃないか。
自分の金字塔を作るんだ。
一生は一度なんだ。リスペクトのないやつと仕事をする必要はない。頭なんか下げるな。
ぼくはその人を頭から排除した。俺の人生を舐めるなよ。
まだ、時間はある。
、とぼくはぼくに言い聞かせた。まずは自分からだ。

実は、昨日、夢を見た。

滞仏日記「激怒した父ちゃん。日本の熱血を舐めるな」



それはライブ、当日の夢だった。これから本番という時間だった。
幕が開くのをみんなが待っていた。ぼくは携帯を持って、客席の方へと向かった。
なぜか、昔のファンも当時の若さでそこにいた。
ECHOESのフラッグを持っている人たちもいた。最近、ファンになってくれたという人もいた。三四郎のフラッグを持っている人もいる。
老若男女、様々な人が開演を待っていた。
ぼくはその光景を写真で撮影したのだった。
誰かがぼくに気が付き、驚いた顔をした。
その人にぼくは微笑みながら耳打ちをした。「ぼくは最高のコンディションなんだ。今日は凄いコンサートになるんだよ、楽しんでね、最高だからね」と。
「でも、辻さん、もう開演時間ですよ」とその人が言ったので、慌ててぼくはバックステージへと走り出した。
30年間のぼくの音楽の歴史のような長いオランピアの廊下を走った。
ECHOES時代の20代だった自分が30代になり、40代のザムザ時代から、50代になって、ステージに立った時には63歳の今の自分になっていた。
ジョルジュやマリオやエリック、ホセがぼくに笑顔を向けて、花道を作ってくれたのだ。
マコちゃんがぼくにギターを手渡した。緞帳が上がった。まばゆい光りだ。
最高の状態だった。ぼくは最高のコンディションだった。
「辻さん、勝ったも同然じゃないですか」
とマコトが腕組みをしてほくそ笑んだ。
こういう夢だった。
目が覚めると、ぼくは笑顔だった。

滞仏日記「激怒した父ちゃん。日本の熱血を舐めるな」



くそ、負けるもんか、と今、歯を食いしばっている。
絶対に、負けない。
歴史に残る最高のコンサートをやってみせる。宣伝マンにも誰にも邪魔されない、最高のコンサートにしてみせる。記事なんか一本も出なくていい。歴史はぼくが作る。
それが熱血なのだ。
負けそうな時にこそ、熱血が聳えるのだ。
怒りをエネルギーに変える。
開演が待ち遠しい。ぜったい負けない。

ライブに来てほしい。熱血はつづく。

滞仏日記「激怒した父ちゃん。日本の熱血を舐めるな」

今日も読んでくれてありがとうございます。
こういう気持ちを昨日のツイートに書きました。出来るのにやらないのがネガティブなんです。後ずさりしても前向きに進んで行くのがポジティブなんです。ぼくはこんなことでは負けません。自分が生きていることをちゃんと皆さんにお見せします。生き抜いていることを見せてやります。誰も手伝ってくれないなら、たったひとりでやります。ありがとう、二度とない63年目の熱血。
ということで、5月29日、オランピア劇場でライブをやります。ポスターを自らはりに行きます。応援ください。

エディットピアフも立った。ビートルズも立った。ローリングストーンズも、マドンナも、スティングも立った。オランピア劇場でのライブが近づいてきました。
フランス国内、もしくは周辺国、あるいは世界各地にお住まいの皆さん、ぜひ、遊びに来てください。旅慣れていない皆さんには、JALパック・パリさんが協力いたしますので、こちらをクリックください。

https://www.jalpak.fr/optionaltour/tsujiconcert/
ついでに、父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」、お好きな音楽プラットホームから選ぶことが出来ますので、聞いてみてくださいね。

https://linkco.re/2beHy0ru

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