JINSEI STORIES

滞仏日記「大ピンチ、三四郎はモンサンミッシェルの頂上へはのぼることができな~い!」 Posted on 2023/03/26 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、食堂で昼食を食べたあと、三四郎に散歩をさせるため城壁の通路を歩いていると、島にいる人々が城壁の上から海の方を指さして、大騒ぎしていた。
なんだ、なんだ?
覗いてみたら、なんと、モンサンミッシェルと陸地側を結ぶ渡り橋が、大潮の影響で埋没しており、陸地側からやって来た人たちが水に潜っている橋を眺めて、どうしていいのかわからず、途方に暮れているのであった。
「え、どうなるの?」
「あの人たち、潮が引かないと、こっちに渡って来れないでしょうね」
「潮はいつ引くんですか?」
「さあ」
「わたしたち向こうに戻れなくなる? 今日中に、パリに戻らないとならないんですが」
「いや、大丈夫でしょうが、暫くは渡れないかもしれませんね」
こういうやり取りが聞こえてきた。
数十人くらいの人たちが、海の中に消えている橋の先端で、立往生しているのである。
それを島に宿泊した人たち、もしくは早朝に渡って来た人たちが心配そうに眺めているのであった。
こういうところがモンサンミッシェルなのである。
20分ほど見守っていたのだけど、潮がなかなかひかないので、ぼくは部屋に戻ることになった。

滞仏日記「大ピンチ、三四郎はモンサンミッシェルの頂上へはのぼることができな~い!」



滞仏日記「大ピンチ、三四郎はモンサンミッシェルの頂上へはのぼることができな~い!」

滞仏日記「大ピンチ、三四郎はモンサンミッシェルの頂上へはのぼることができな~い!」



犬との旅は楽しいけれど、いろいろと大変なこともある。
たとえば、サンマロのホテルは、犬の代金もとるが、そのかわり、犬用ベッドと犬の食事用のお皿など一式、ちゃんと用意してくださる。
ところが、今宿泊しているようなあまり豪華ではないホテルだと、犬代金はかからないものの、餌皿などもないのである。
(まず、ペット連れの皆さんは、宿泊する前に宿が犬連れオッケーかどうか確認をされた方がよかでしょう)
動物には寛大な欧州のホテルだけれど、もちろん、ダメなところもある。
サンマロのホテルはレストランが犬の立ち入り禁止であった。
ということで、餌皿がないので、それを買いに行くことになった。
よっこらしょ。

滞仏日記「大ピンチ、三四郎はモンサンミッシェルの頂上へはのぼることができな~い!」

滞仏日記「大ピンチ、三四郎はモンサンミッシェルの頂上へはのぼることができな~い!」



とはいえ、島の中にペットショップなどはない。
そこで、土産物屋さんに、モンサンミッシェル記念皿などを物色しに出かけたのである。
だいたい、こういう観光地には、モンサンミッシェルの絵が描かれた記念皿などが置いてある。
何軒か見て回ると、ちょうどいいのがあった。やはり、モンサンミッシェルの絵と文字が描かれてあった。約15ユーロもしたが、これは仕方がない。
一つ買うことに・・・。
こっちの仏字新聞で包んでくれる。そういうところがいちいち可愛い。
そこのマダムが、日本好きで、思わず長話になった。やれやれ。なかなか、放してくれないのである。行こうとすると、
「そうよね、日本は遠いからね、へー、あなた東京生まれなんだ。行ってみたいわぁ、私はこの島からあんまり出たことがないから、パリもね、行きたいけど、東京なんて、高嶺の花だわー」
と畳みかけられるのである。
「でも、ここにいると世界中から観光客がやって来るでしょ。島から出ずに、世界を知ることが出来るからね、それはいいのよ」
「いい話ですね」
「ここの若者たちも、高校出たらここのホテルに就職して、世界を相手に仕事をしているんですよ。めっちゃ、インターナショナルなのよ。ある意味、ここは世界の中心なんだから・・・。あら、この子、何て名前?」
「三四郎です」
「いやあ、その発音、無理だわ。どういう意味?」
「ええと、・・・」
とにかく、話が尽きないのであった。あはは。
日本好きな人は多いから、嫌な思いをしたことがないので、祖先に感謝であーる。

滞仏日記「大ピンチ、三四郎はモンサンミッシェルの頂上へはのぼることができな~い!」

滞仏日記「大ピンチ、三四郎はモンサンミッシェルの頂上へはのぼることができな~い!」

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ところで、買ったお皿、三四郎はとっても気に入ったみたいで、ぺろぺろ嘗め回していた。(たんに、餌をもっと食べたいだけかも・・・)
「サンシー、ぼくもお腹すいたよ。モンサンミッシェル名物のメール・プラーのオムレツを食べに行くけど、君も来るかね?」
「わん」
ということで、犬も可なメール・プラーのレストランに行ったのだった。
隣のご夫妻は夫婦でモンサンミッシェルにやって来た。彼らが三四郎に話しかけたのがきっかけで仲良くなり、ぼくらはまたしても長話に・・・。
「結婚、30年目のモンサンミッシェルなんですよ」
「へー、素敵ですね」
2人で仲良く、オムレツをつついていた。
「結婚記念日に、ここに来て、このフワフワのオムレツを食べるのが毎年の決まり事なんですよ」
「へー、素敵ですね」
「健康なうちにしか、旅も出来ないでしょ。あと何年、ここに来ることが出来るでしょうねって話しあっているのよ。でも、その時まで毎年、ここに来るつもりよ」
「へー、素敵ですね」
「あなたはもうのぼりましたか? モンサンミッシェルの頂上に」
「今回はまだです。明日、この子とのぼるつもりです」
「あら、犬はダメよ。修道院(付属教会)に犬は入れないわ」
「あ、そうか。じゃあ、一人でのぼらないとならないんですね」
ぼくらは全員で三四郎を見下ろした。何か自分のこと言われてる、と思ったのか、三四郎の困惑する顔がかわいい・・・。
「じゃあ、一人でのぼります」
「おひとりなんですね」
「ええ、愛犬と一緒なので寂しくはないですよ。でも、お二人が羨ましいです」
「まぁ、でも、あなたは若いから、これからよ」
ぼくの方がきっと年上なのだけど、しおらしく若者ぶっておいた。ふふふ。
ぼくは、明日、三四郎をおいて、一人で上までのぼることになる。
どうしても、のぼって、手を合わせたいことがあるのだった。

滞仏日記「大ピンチ、三四郎はモンサンミッシェルの頂上へはのぼることができな~い!」

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滞仏日記「大ピンチ、三四郎はモンサンミッシェルの頂上へはのぼることができな~い!」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
なんか、野本さんの奥さんから、日本から来たぼくの読者だという女性と、辻聖地・オランピア劇場に行ったら、大きなポスターが貼られていましたよ、と写真が送られてきたのです。これは知らなかった。凄いことじゃないですか? すいません。自慢みたいですけど、自慢です、お許しください。しかも、ぼくのポスターの上がジェーン・バーキンじゃないか! 嬉しい。
いよいよ、5月29日、父ちゃんの人生における、大本番、オランピア劇場ライブが近づいてきたぞ!!!!!

滞仏日記「大ピンチ、三四郎はモンサンミッシェルの頂上へはのぼることができな~い!」

で、明日はモンサンミッシェルの頂上に立つことになりそうです。午前中になるか、午後になるか、その辺は明日の天候と体調次第、ということで・・・。三四郎はホテルの部屋でお留守番になりますね。いひひ。
さて、そんな父ちゃんの「カフェ飯教室」が4月16日に開催されます。それから、「小説教室、基礎編」(課題アリ)が5月7日に開催されます。どちらも詳しくは、下の地球カレッジのバナーをクリックしてみてください。
あと、再放送のお知らせです。
■「ボンジュール!辻仁成のパリごはん 2022秋冬」
【BSP/BS4K】4月2日(日)後4:30~5:29
※初回放送 2023年2月17日
※BSP4K同時
(4Kは選抜高校野球決勝が順延した場合、この日に中継が入ってくる可能性があり、休止とさせていただく可能性があります。あらかじめご了承ください。)

地球カレッジ

滞仏日記「大ピンチ、三四郎はモンサンミッシェルの頂上へはのぼることができな~い!」

オランピア劇場ライブの翌日、日本からお越しの皆さん、JALパックさんがパリの(父ちゃん推薦の)レストランでランチ会を開催します。父ちゃんも、ライブの翌日ですがちらっと顔を出しますので、パリ旅行を計画されてる皆さん、チェックしてみてください。

エディットピアフも立った。ビートルズも立った。ローリングストーンズも、マドンナも、スティングも立った。オランピア劇場でのライブが近づいてきました。
席のご予約はオランピア劇場のサイトから、どうぞ。

https://www.olympiahall.com/evenements/tsuji/

フランス国内、もしくは周辺国、あるいは世界各地にお住まいの皆さん、ぜひ、遊びに来てください。旅慣れていない皆さんには、JALパック・パリさんが協力いたしますので、こちらをクリックください。

https://www.jalpak.fr/optionaltour/tsujiconcert/
ついでに、父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」、お好きな音楽プラットホームから選ぶことが出来ますので、聞いてみてくださいね。

https://linkco.re/2beHy0ru

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自分流×帝京大学