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滞仏日記「人生のサインを見逃さない。人間にはいくつかのステージが用意されている」 Posted on 2023/03/31 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、田舎って言うけど、辻父ちゃんさんの田舎って、どういうところなんですか? とよく聞かれる。
簡単に言うと、長野県とか山梨県とかの田舎に似ているかもれいない。海がある山梨県、かなぁ。あはは。
そこで今日は父ちゃんがよく食事に行く、近所のレストランをご紹介したい。
でも、周辺に家は建ってないのだ。それに、そこに行く時、ぼくは自分のステージの節目について、よく考える。
そもそも、そこには、歩いては行けない。
父ちゃんは車で行く。
昔、山梨県の小淵沢に住んでいたことがあって、小淵沢も家の周りにはレストランがなく、車で、5分くらい走ったところの牛タン屋さんとか、ピザ屋さんによく通っていたが、その感じにとっても似ている。
じゃあ、本題に入る前に、よく通っている田舎のレストランをちょっと紹介しましょう。
一人で食事に行くことが出来る、友だちの家のようなレストランなのである。それが大事。
まず、敷地に入ってから、小さな坂道を下らないとならない。

滞仏日記「人生のサインを見逃さない。人間にはいくつかのステージが用意されている」

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滞仏日記「人生のサインを見逃さない。人間にはいくつかのステージが用意されている」



緑豊かな森の中にあるレストランで、藁ぶき屋根の古い建物を改造してる。おしゃれ。
こういうところは小淵沢にも似ているね。ぼくは軽井沢じゃなく、小渕沢派だった。
小淵沢は、ちょっと人気がないけど、でも、いいよね。落ち着く場所・・・。
周辺の村や町からみんな車でここにやってくるのだ。
「ボンジュール。予約してないんだ」
「もちろんでございます」
田舎だから、ガラガラなのである。
夏のバカンス時期以外は予約しないでも、席には余裕がある。
ぼくは窓際の席をすすめられたが、暖炉の傍の席でもいいですよ、と言われた。暖炉も捨てがたいけれど、今日は快晴だったので、窓際を選んだ。
静かな時間が流れているのである。
今日は朝から小説に没頭していたので、頭が疲れているから、遠くの水平線を眺めながら、リラックスしつつ、食べることに。
おっと、禁酒中なので、運転もあるから、ワインは無し、(当たり前だのクラッカー)あはは、かわりにスパークリングウオーターを頼んだ。
あまりお腹が空いていないので、前菜は無し、メインだけ。
今日は、鮟鱇(ロット)のポワレ、である。
優しい味だった。うっすらカレー味で、上品だった。

滞仏日記「人生のサインを見逃さない。人間にはいくつかのステージが用意されている」

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三四郎はテーブルの下で、寝そべって、ぼくが食べ終わるのを待つ。
前は、いろいろと欲しがって、大変だったけれど、躾けたので、今はじっとしている。
いい子にしていたら、帰りに小さなビスケットのおやつをひとつ与える。
そこのレストランは森に囲まれていて、その先に海が広がっているので、食後はいつも散歩をする。
誰にもあわない。
三四郎のリードをひっぱって、海の方まで歩くのだ。
芝生の上に座り、時には寝転がり、流れていく雲とかを見つめながら、これからどうしようかな、と考えたりしている。
人間には必ず、人生の転機というものがある。
そこを見逃さないことが大事だと、ぼくは常々、気を付けている。
環境を変えたくなったら、これは間違いなく、シグナルなので、用心深くする。
環境を変えたいというのは、転機にまちがいないのだから、冷静に判断をしなければならない。
あと、自分の周囲の人たちが、ちょっとぼくの人生を邪魔し始めているな、と感じるならば、ここは気を付けないとならない。
こういうサインを受け取る時間が人間には大切なのである。
そういう時、ぼくはこのレストランに来て、一人で食事をし、その後、遠くに海を見ながら、自問しているのである。
大丈夫か? 
誰かに邪魔されてないか?
環境を変えたいと思っていないか?
ぼくはかぶりを横にふる。10年前に、そういうことがあった。
その時、ぼくはサインを見逃さなかった。大変だったけれど、自分を変えるのは今だ、と自分に言い聞かせ、舵を切った。
今、ぼくが見ている景色はその結果、なのである。
「何かのサインのように、ぼくの目には映った」というのは、ぼくの「冬の虹」という曲の歌詞である。冬の空にかかった虹を見た時、ぼくは人生の転機を知った。
人生のサインを見逃さないために、自分を見つめ直すためのレストランでぼくは一人で食事をすることにしている。
どうやら、まだ、大丈夫なようである。

滞仏日記「人生のサインを見逃さない。人間にはいくつかのステージが用意されている」

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つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
近所の少女、マノンちゃんから連絡があり、マレ地区のチョコレート屋さんに、ムッシュ・ドロール(変なおじさん)のポスターが貼ってありました、とメッセージが届きました。レ・トロワ・ショコラというチョコレート屋さんです。ありがとう。気が付いたら、このパリにもたくさんの味方がいて、応援してくれています。オランピアまであと2か月、皆さん、ぜったい歴史に残るライブやったるからね、約束だよ。
さて、そんな熱血父ちゃんですけれど、4月16日に「カフェ飯教室」5月7日に「敷居の低い小説教室」を開催いたします。詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックしてみてください。新刊は「自分流」光文社から出ています。えへへ。
あと、NHKのパリごはんの再放送もありますから、お時間あれば、ぜひ。
「ボンジュール!辻仁成のパリごはん 2022秋冬」
【BSP/BS4K】4月2日(日)後4:30~5:29
※初回放送 2023年2月17日

地球カレッジ

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オランピア劇場ライブの翌日、日本からお越しの皆さん、JALパックさんがパリの(父ちゃん推薦の)レストランでランチ会を開催します。父ちゃんも、ライブの翌日ですがちらっと顔を出しますので、パリ旅行を計画されてる皆さん、チェックしてみてください。

エディットピアフも立った。ビートルズも立った。ローリングストーンズも、マドンナも、スティングも立った。オランピア劇場でのライブが近づいてきました。
席のご予約はオランピア劇場のサイトから、どうぞ。

https://www.olympiahall.com/evenements/tsuji/

フランス国内、もしくは周辺国、あるいは世界各地にお住まいの皆さん、ぜひ、遊びに来てください。旅慣れていない皆さんには、JALパック・パリさんが協力いたしますので、こちらをクリックください。

https://www.jalpak.fr/optionaltour/tsujiconcert/
ついでに、父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」、お好きな音楽プラットホームから選ぶことが出来ますので、聞いてみてくださいね。

https://linkco.re/2beHy0ru



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自分流×帝京大学