JINSEI STORIES

滞仏日記「苦悩する父ちゃん。今日はスタッフと大揉め、人間関係で苦しんだ」 Posted on 2023/04/16 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、プロモーターのベルトランと喧嘩、というか、ま、ちょっと気まずい感じになってしまった。
昨夜、SMSでメッセージバトルが繰り広げられたのだ。
彼がとある仕事で日本に行くというのだが、戻って来るのがライブの二日前ということが分かった。
なので、ゲネプロには参加できない、というので、ぼくはがっかりしたのである。
ぼくはベルトランが好きで、彼にもっと本質的なところでぼくの音楽を理解してもらうことがまずは、始まりだと思っていた。リハーサルの期間で、ベルトランとの交友を深めようと思っていたのである。
オランピアライブよりも大事な仕事が日本であるのだ、なんだろう?
言い訳がいろいろとかえってきた。
もしかしたら、フランスの場合、(ぼくが勘違いをしているだけで)プロモーターというのはそういう存在なのかもしれない。
でも、オランピア劇場の表看板に「プロデュースby トロペドー」と大きく出るじゃないか。トロペドーが彼のビジネスネームである。
となると、リハやゲネは、ぼくの個人事務所が仕切って、メンバーをまとめて、本番に挑むことになる。大変だ。
長谷っちは音楽嫌いだし・・・。
こういう事態は、日本だとちょっと考えられないことだよ、とベルトランに伝えた。
言い方がきつかったかもしれないが、「50人もアーティストを抱えているのだ」と言い訳が戻って来たので、「わかったよ。じゃ、49人のために頑張れ、ぼくは自力で最高のライブにしてみせる、なぜなら、俺はサムライだからだ、逃げも隠れもしない」と言っておいた。
その後、グッドナイト、よい夜を、とメッセージを送りあい、大人の喧嘩は終わった。
これがフランスなのである。

滞仏日記「苦悩する父ちゃん。今日はスタッフと大揉め、人間関係で苦しんだ」



ぼくはベルトランに自分の仕事を見せたいし、アーティストというのは、身近のスタッフからの愛情を受けて育つもの。
ベルトランに、いいね、と言われたかった。わかります?
ゲネプロに来ない、と言われて、がっかりして当然じゃないか。
ベルトランには、経験と粘り強さとガッツがある。だから、彼にまず、最初のリスナーになってもらいかたった。ライブへの完成過程を一緒に見届けてほしかった。
作家にとって最初の読者が編集者であるようなものだ。
投げ出された感じというか、めっちゃ寂しい感じになった。ぼくは昨夜、眠れなかった。
日本の仕事ってなんだろう? 辻仁成のライブよりも大事なものが何か知りたいよね。
あ、でもベルちゃん、仕事はできるから、大丈夫ですよ。日本の皆さん、美味しいもの食べさせてやってください。あはは。
しかし、問題はベルトランだけではなかった。
バンド内にも問題があって、数日、熟睡出来ていない・・・。

滞仏日記「苦悩する父ちゃん。今日はスタッフと大揉め、人間関係で苦しんだ」



実は、バンドというのも様々な人間がいるので、一人一人考え方が違う。
バンマス的な存在はパーカッションのジョルジュなのだ。腕も、経験も、世界的に活躍しているからこその存在感があるし、ぼくをリスペクトしてくれている。
でも、バイオリンの若きマリオは今が旬、売り出し中なのである。
マリオが「自分がアレンジをやりたい。辻のオランピアを成功させたい。だから、自分にアレンジを任せてくれないか」と言い出した。
かなり強いアピールなのだが、ジョルジュは「誰かが中心になってやるのは辻のスタイルじゃない、みんなでやろう」とやんわり拒否したのだ。
ぼくはスタジオミュージシャンのような演奏が出来ない。楽譜も素早く読めないし。
きちんとアレンジされたものをやるタイプじゃない、どちらかというとフリースタイルのアーティストなのである。
この年齢まで独自の、そして自由に音楽と向き合ってきた。
でも、バークレー出身のマリオは「オランピアだぜ、辻さん、ここは最高のショーにしないとダメだ。フリースタイルなどやっちゃいけない」というのである。
ジョルジュとマリオが揉めるとバンドがまとまらないので、ぼくはマリオに形だけアレンジを依頼し、細かいことはスタジオでみんなでやろうと話した。
そのために、ヘッドアレンジをした自分の弾き語りのテープを全員に送ったのだ。
すると、マリオから、「こんなやり方じゃダメだよ。辻さん、話し合って、アレンジのボトムはしっかりと作らなきゃ。ぼくが楽譜にするから、一曲一曲ちゃんとやっていこう」「でも、マリオ、ぼくが今までやってきたスタイルというものがあって、全部、かっちりと決められても、そもそもそんなの窮屈でぼくには出来ないんだ」
ここから話が拗れて、マリオがやめるか、どうするか、というところになった。ベルトランの問題どころではない。マリオがいなければ、ジャパニーズソウルマンの音が出ないからである。
ということで、実は、明日、自宅で話し合うことになっている。もめずに、着地させるのがぼくの目下の役割だ。
マリオと話が出来たら、もう一度、ジョルジュと向き合って、この辺のことを理解してもらわないとならない。ちょっと、頭が痛い。

滞仏日記「苦悩する父ちゃん。今日はスタッフと大揉め、人間関係で苦しんだ」



という具合に、オランピアへの道、残り、6週間だというのに、紆余曲折の中にある。
でも、ぼくはベルトランに言った。
「君がやる気をなくしても、ぼくは最後まで全力でやる。それがサムライだ。覚えておいてくれ」
これが、ぼくのゆるぎないスタンスなのである。
マリオとも話し合い、ジョルジュやぼくをリスペクトして最大限の力を発揮してくれ、と依頼するつもりである。きっと、ベルトランも頑張ってはいるので、痛いところをつかれたと思っているに違いない。別に、ぼくは大丈夫だ。最高のライブにしてみせる。
ぼくは負けない。これが人生というものだ。
必ず、そこへ向かい、そこに立つ。皆さんの声援が、ぼくを奮い立たせるだろう。
さ、皆さん、ご一緒に、熱血~。

滞仏日記「苦悩する父ちゃん。今日はスタッフと大揉め、人間関係で苦しんだ」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
オランピア公演に、某トランぺッターが海を越えてやってくることになりました。詳しい発表はまた後日。落ち込んだり、盛り上がったりしながら、最高潮の瞬間を父ちゃんは作って見せます。
はい、そして、今日、今日です。オンライン料理教室「カフェ飯教室」が開催されます。ご希望の皆さんは、下の地球カレッジのバナーをクリックしてみてください。

地球カレッジ

そんな、戦う父ちゃんの、5月29日、オランピア劇場、近づいてまいりました。フランス国内、もしくは周辺国にお住まいの皆さん、ぜひ、遊びに来てください。日本からは遠いですから、来ていただきたいですが、時間がせまってきましたから、ご無理はさせられません・・・。無理のない範囲でお願いします。あ、席は絶対売り切れませんので、当日券山ほどあり、ご心配なく・・・。
席のご予約はオランピア劇場のサイトから、どうぞ。

https://www.olympiahall.com/evenements/tsuji/

もしも、日本から行きたいけど、不安という皆さんには、JALパック・パリさんが協力いたしますので、こちらをクリックください。現在、日本から50名くらいの方が来るだろうという予測です。本当に、大変なところありがとう。必ず、いいステージにしますね。約束!!!

5月29日 辻仁成 パリ・オランピア劇場 ライブコンサ-ト!


ついでに、父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」、お好きな音楽プラットホームから選ぶことが出来ますので、聞いてみてくださいね。

https://linkco.re/2beHy0ru



自分流×帝京大学