某月某日、下の人にうるさいとドアを叩かれてから、ぼくは浜辺に行って歌の練習をしている。
すっかり日焼けして、逞しくなってきた、父ちゃんなのであったァ。あはは。
下の人とは今のところ、会わない。
ギターを背中に担ぎ、三四郎を抱えて、息を潜めて、階段を下りた。なるべく、存在を消して、暮らしているのであーる。
でも、海は広い。
浜辺はどこまでも続いているので、いくらでも大きな声が出せる。
今日は、歌っていたら、写真を撮っていいか、と旅行者の人に言われた。
大きなカメラを持っていたのでセミプロかもしれない。
別れ際、奥さんが、ぼくに笑顔で手を振ってくれた。
他にも、腕組みをして聞いていった人もいた。帰りに、ギターケースにお金をいれようとしていた。（あとで見たら、入ってなかった。あはは）
街角でやったら、けっこう受けるかもしれないね。
音楽は世界を繋ぐのだ。
でも、家の中で歌うのはよくない。少なくとも、下の階の人は怒っている。
気の小さい父ちゃん、落ち込んでいるのであーる。
早く、パリに帰ってくださいよ、とも言えないので、ぼくは毎日、ギターを担いで海を目指す。三四郎は、リードを外してもぼくの傍から離れない。
百メートルくらい走って、また、戻って来る。
海に入ろうとする時だけ、三四郎、と大きな声で叱ると、へへへ、という顔で戻って来る。相変わらず、いい子である。

※　こんな格好で、風に負けずに歌っています。海が相手だと、腹から声出さないとならないから、かなり練習になるのよねー。

※　なんで、白い紙が貼られてるのか、というと、ここに砂が入ると電子部が壊れてしまうからなのです！！！　いろいろと大変なのよ。

気が付くと、２時間も浜辺で歌っていた。
そりゃあ、そうだ。ライブが来月なのだから、声出しして、喉を鍛えないと。
我が人生、最高のコンディションだと言えるだろう。えへん。
練習が終わったら、１１時半だったので、この村に一軒ある台湾人のミンフォエがやっている中華レストランで食事をすることにした。
田舎の中華とバカに出来ない。
なかなか、本格的なのだ。
ぼくは北京風スープと白身魚のあんかけ定食を頼んだ。（かなりお腹すいたんだね、あはは）
すると、奥さんがやって来た。いきなり、背中を叩かれたのであーる。
「あんた」
と言った。
「はい」
「もしかして、歌手？」
「えええ！？」
そんなことマダムに言ったかな、と過去の記憶を辿るのだけれど、思い出せない。
言ってないと思う。別に、いちいち、言う必要もないだろうし・・・。なんで、知っているのだろう。
すると、奥さんが携帯を撮りだし、ぼくに写真を見せてくれたのだ。
「これを、ベルビル（パリ最大の中華街）で見つけたのよ」
と言った。

あああ、なるほど。
ポスターの効果って、あなどれないものがあるんだね。
「昨日、ベルビルまでうちの人と食材を買いに行ったの。そしたら、このポスターがスーパーの壁に貼ってあって、あれ、この顔、見たことあるね、とうちの人が言い出して・・・。あなたじゃないか、って、最初は、まさか、と思ったけど、この帽子・・・。このタレ目、このロン毛、やっぱり、こんな格好のアジア人、他にいないしね、あなた、漫画顔よね、日本の漫画そのまま、年齢重ねた感あるわ」
「（チャララーン、チャラチャララララーン）」
「やっぱ、あなたのね？」
「あ、はい。ぼくです。すいません。漫画顔で」
「いいじゃないの、漫画顔、ルフィーとか好きなんでしょ？」
「それにどう答えていいかわかりませんが、嫌いじゃないです」
「いつも、わんちゃんと食べに来るから、何者だろう、ってみんなで噂していたんだけど、歌手かァ、どんな歌うたうの？　聞いてみたい。ま、ゆっくりとしていきなさいね。ワインでも飲む？」
奥さん、いつになく、笑顔で優しかった。
「あ、今、禁酒中なんで。ライブが近いから」
「へー、そんなものかァ、すごいね」
お客さん多い時は、めっちゃ怖い時があるマダムなので、良かった。顔を覚えられて・・・。あはは。
それにしても、ハー、美味しかった。

ともかく、練習も終わり、ランチも食べた。
さて、アパルトマンに戻るか、ううう、憂鬱である。
下の階の謎の息子さんに叱られたくないし、出来れば顔をあわせたくないので、再び、息を潜めて階段をあがる父ちゃんと三四郎であった。
ところで、ぼくは静かにしているのだけど、下の階のカイザーさんの息子さん、やたら、電話の声がでかいのである。しかも、一日中、喋っている。避暑地までやってきて、家から出ないで、お母さんとずっと一緒って、おかしい・・・。
で、面妖なのは、スーパーの買い物袋を玄関の踊り場にぽんと置いてあるのである。そこは共有スペースなのだけど、・・・。ま、いいか。
詮索はやめておこう。
何か、事情があるのだろう。そっとしておいてあげなきゃ、と思った心優しき父ちゃんなのでありました。
しかし、この生活、けっこう、ストレスだ～、ルフィ―。
夜もあまり遅く、ごそごそしていると、歩く音がうるさい、と怒られるかもしれないので、びくびくしながら、三四郎とソファで丸くなっている父ちゃんなのであります。
あはは。

つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
そういえば、息子君からも、写真が届きました。大学の近くの商店街を歩いていたらパパの写真が・・・、という連絡でした。けっこう、見られているということですね。成果出てくれ、頼む！！！！

ということで、５月２９日、フランスは連休中ですけど、祭日の月曜日、オランピアのライブです。ぜひ、お時間のある皆さん、お越しください。
フランス国内、もしくは周辺国にお住まいの皆さん、ぜひ、遊びに来てください。日本からは遠いですから、来ていただきたいですが、時間がせまってきましたから、ご無理はさせられません・・・。無理のない範囲でお願いします。あ、席は絶対売り切れませんので、当日券山ほどあり、ご心配なく・・・。
席のご予約はオランピア劇場のサイトから、どうぞ。
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https://www.olympiahall.com/evenements/tsuji/
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もしも、日本から行きたいけど、不安という皆さんには、JALパック・パリさんが協力いたしますので、こちらをクリックください。現在、日本から50名くらいの方が来るだろうという予測です。本当に、大変なところありがとう。必ず、いいステージにしますね。約束！！！
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5月29日 辻仁成　パリ・オランピア劇場 ライブコンサ－ト！

ついでに、父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」、お好きな音楽プラットホームから選ぶことが出来ますので、聞いてみてくださいね。
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https://linkco.re/2beHy0ru

それから、５月７日は、敷居のめっちゃ低い小説教室、もあります。詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックしてみてください。