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滞仏日記「ついに、ストーカーになった父ちゃん。三四郎に恋について言い聞かせる」 Posted on 2023/05/03 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、昨日、日記で湿度95%の部屋でマスクをして寝ている、と書いたら、知り合いから、べちゃべちゃやん、というメールが届いたので、明け方、これはちゃんと写真を撮っておくべきだろうと思って、撮影をした父ちゃんであった。
とにかく、喉というのは、肌と一緒で、うるおいがないと、ガサガサになってしまい、声が出なくなるものなのだ。
父ちゃん、最近、顔の皮膚がガサガサになったので、生まれてはじめて、保湿クリームを塗って寝るようになったが、朝、触ると、つるんつるんになっている。えへへ。
気持ち悪いおやじの話はここまで・・・、ボーカリストにとって、喉も乾燥させてはいけないのだ。そこで、加湿器をフル稼働させている。
どういう状態かというと、目が覚めると、目の前が白くなっている。
しかも、マスクを付けて寝ているので呼吸がちょっと苦しいのだ。
人の見てないところで、こういう努力をやっている、という自慢であーる。
で、朝、寝室は靄がかかった状態の中目覚めることになる。床はびしょびしょだし、窓枠には水滴がたまっているのだ。
今朝は湿度90%であった。

滞仏日記「ついに、ストーカーになった父ちゃん。三四郎に恋について言い聞かせる」

滞仏日記「ついに、ストーカーになった父ちゃん。三四郎に恋について言い聞かせる」



さて、下の階の人が戻って来たので、ここでは練習が出来ないことになり、パリに戻らないとならないのだけれど、いろいろとやることがあって、「はい、そうですか、すぐにパリに戻りましょう」とはならない。
三四郎という可愛い生き物が一緒なので、彼の人生もあまり翻弄させるわけにはいかない。そこで、まずは、海で運動をさせることにした。
英仏海峡は今日も眼前に美しい金波銀波を拵えていた。
すると、どこからともなく、カップルが大型犬を連れてきて、ぼくの目の前に座ったのだった。
実に微笑ましいカップルだった。
作家的観察眼からすると、まもなく、結婚を控えたカップルじゃないか、と察した。(もしかしたら、結婚したばかりかもしれない。とにかく、いちゃいちゃに初々しさがある)
その大型犬は三四郎が気になって仕方がないし、三四郎も大型犬が気になって仕方がないのだけれど、父ちゃんは、そのカップルが気になって仕方がないのであった。
というのも、今、新しい小説を書こうと思っている。思い切って、若い恋の話がいいのじゃないか、と思っていた矢先、の犬ずれカップルの出現、・・・。
父ちゃんは二人のやり取りを眺めながら、小説のイメージを膨らませていくのだった。
っていうか、もう、ストーカーみたいなおじさんになっていた。

滞仏日記「ついに、ストーカーになった父ちゃん。三四郎に恋について言い聞かせる」

滞仏日記「ついに、ストーカーになった父ちゃん。三四郎に恋について言い聞かせる」



ぼくにも、こういう時期があったっけなァ、と初老に差し掛かった父ちゃんは微笑みを浮かべながら、思うのだった。
「今はこんなに仲がいいけれど、そのうち、人生というのは厄介なもので、言い合いとかがはじまって、だんだん、2人の中に溝が生まれてくるもんなんだよ、サンシー」
と、ぼくは小犬の三四郎に語ってきかせた。
昨日、何かの記事で読んだのだけど、人間が早死にする一番の要因は「孤独」なのだそうだ。話し相手がいないことが人間の死を早めさせるという科学的データがある、とその記事は偉そうに結んでいた。
ま、別に、一人でいたい時はいるし、父ちゃんだって、いつか、話し相手ぐらい見つけてやるわい、とその記事を読みながら、ふん、とか思ったのだった。
今は、なので、三四郎と話をしているのであーる。
「だいたい、最初はみんないちゃいちゃするんだよ、人間ってのは・・・。そのうち、ぼろが出てきて、だんだん、心が離れたりするんだよ。で、別の誰かにその思いが移動して、結局、いろんなことがあっ後に、別離というものが訪れる。で、人間というのはそういうミーハーな世界が好きだから、小説とかにするとこれが読まれるんだよなァ。わからないだろ、犬のお前には」
こういうことを小犬に言い聞かせて、自分の孤独や過去を慰めているのだった。
父ちゃんは、実に、つまらない男なのであーる。あはは。
大型犬は一度だけ、三四郎めがけて走って来た。すると、カップルがこちらを振り返ったので、父ちゃんは、笑顔で、犬たちが幸せそうでいいですな、みたいなシグナルを送ってやったのだった。
ひゃああ、孤独~。
早く、長谷っちや、スタッフさんの待つパリに帰ろうっと・・・。

滞仏日記「ついに、ストーカーになった父ちゃん。三四郎に恋について言い聞かせる」



ということで、父ちゃんの前で抱きしめあう二人の存在にいたたまれなくなって、そこを三四郎と離れた父ちゃん、63歳であった。ショック~。
「三四郎、けれども、今の父ちゃんにはお前がいるから、お前は父ちゃんがいないと生きていけないし、父ちゃんから去ることはないし、一生、めんどうはみてやるから、安心して、長生きしてくれよ。たのむぞ~」
ううう、熱血~。

つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
いやはや、このあと、大掃除をして、今夜か明日の朝にはパリに戻るのですが、その前に、下の階のカイザー髭ご夫婦にご挨拶をしてから戻る予定です。明日から、パリのスタジオを予約したので、個人練習もオランピア劇場に向けて、スタジオで再開となります。はい。
さて、今週末、5月7日の日曜日、父ちゃん主宰の「敷居のめっちゃ低い小説教室」があります。小説を書くことにおいての基本について講義したいと思いますので、ご興味ある皆さん、下の地球カレッジのバナーをクリックしてみてください。

地球カレッジ

滞仏日記「ついに、ストーカーになった父ちゃん。三四郎に恋について言い聞かせる」

5月29日、フランスは連休中ですけど、祭日の月曜日、オランピアのライブです。ぜひ、お時間のある皆さん、お越しください。
フランス国内、もしくは周辺国にお住まいの皆さん、ぜひ、遊びに来てください。日本からは遠いですから、来ていただきたいですが、時間がせまってきましたから、ご無理はさせられません・・・。無理のない範囲でお願いします。あ、席は絶対売り切れませんので、当日券山ほどあり、ご心配なく・・・。
席のご予約はオランピア劇場のサイトから、どうぞ。

https://www.olympiahall.com/evenements/tsuji/

もしも、日本から行きたいけど、不安という皆さんには、JALパック・パリさんが協力いたしますので、こちらをクリックください。現在、日本から50名くらいの方が来るだろうという予測です。本当に、大変なところありがとう。必ず、いいステージにしますね。約束!!!

5月29日 辻仁成 パリ・オランピア劇場 ライブコンサ-ト!


ついでに、父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」、お好きな音楽プラットホームから選ぶことが出来ますので、聞いてみてくださいね。

https://linkco.re/2beHy0ru



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