JINSEI STORIES

滞仏日記「泣ける。お互いの幸せのために別々に暮らすことにしました」 Posted on 2023/05/15 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、実は、昨日、三四郎がやってはいけないことをまたやらかし、こら、サンシー、と怒ったら、逃げたので、ここはちゃんと叱らないとダメだ、と思って追いかけたら、その勢いで、壁に側頭部から激突してしまい、かる~い脳震盪になった父ちゃん。あはは。相変わらず、そそっかしい。
この前は、三四郎を抱えたまま階段から落ちて足をねん挫した。ランニング中に、どうにかすると、たまに、ずきん、と痛む時がある。
屋根裏部屋なので壁がそもそも斜めっているのだ。わかってはいるのだけど、あるわけがないと思うようなところに壁があって、ごつん、とよくぶつけてしまう。
暫く、床に大の字になって、動かないようにした。
ライブ前なので、こういう事故が続くのはちょっとやばい。そこで、ドッグトレーナーのジュリアに電話をした。
「いいですよ。お預かりするのは2週間ですね。ライブが終わったら、迎えに来てください。ご心配いりません。サンシーにまた会えるのすっごく嬉しいし、うちは大歓迎です」
ということで、急遽、明日、パリに戻り、ジュリアのところに立ち寄って、三四郎を預けることになった。
どちらにしても、明後日からバンドの練習が始まるので、ちょうどいい。
ライブの翌日にイベントがあるから、お迎えに行くのは31日、ということになるのかなぁ、・・・。もしかすると片付けもあるので、6月1日とか。
ほんとうは、ずっと一緒にいたいのだけれど、ぼくは集中しないとならない。(犬を飼うのはいいのだけど、仕事との両立が難しいです)
ということで、今朝は、お別れになる寂しさを噛みしめながら、いつもの浜辺を二人で寄り添いながら散歩したのだった。

滞仏日記「泣ける。お互いの幸せのために別々に暮らすことにしました」



別れが迫っているというのに、そうとは知らず、いつものようにかわいいさんちゃんなのであった。あゝ、さんちゃ~~ん。
2週間は長いよね・・・、とほほ。
今日は生後2か月のアメリカン・コッカーの赤ちゃんと仲良くなった三四郎。
三四郎は強いものに弱く、弱いものに強い正義の敵犬なのであーる。
2か月の赤ちゃんを追いかけまわして、時々、ううう、と唸りながら甘噛みしていた。こら、さんしー、あかんやろ、小さい子をいじめたら! こんにゃろめ! 
もっとも、犬たちは甘噛みが仲良しの合図でもあるので、やり過ぎている時だけ親として介入している。
それにしても、コッカーの赤ちゃん、めっちゃ可愛かったぁ。
犬好きにはたまらないのである。
三四郎が我が家にやって来た時、怖いからか一晩中吠えていた。犬の園から来たから臭かったし、ところかまわずおしっこをしていたっけ・・・。
でも、今はいい匂いになって、物事のわかる賢い子になった。
「辻さん、人生大変そうなのに、しかも、異国で犬を飼って、へとへとになりませんか?」
とよく聞かれる。なんで、いまさら犬なんですかね、と言われる。
たしかに、大変なのだけど、犬はほんとうに心の友なのだ。無垢というか、それしかないから、ずっとぼくに寄り添ってくれる。
犬と生きる時間というのは、ほんとうに悪くない。
育てるのは大変だし、躾けるのも面倒くさいのだけれど、でも、犬は犬なりに理解しようと頑張っているし、超・甘えてくるから、あきれるほど癒されるのである。
とくにさんちゃんはもう人間のように、甘えん坊なのだ。
もともと噂で、ミニチュアダックスフントはすごく甘えん坊で、かなりストーカー気質ですよ、と言われていたけれど、まさに、その通りだった。
いないなぁ、と思うとぼくの足元にいるし、くっついて離れない。
洗濯をしていても、掃除機かけている時も後ろにぴたっとくっついている。こんなに可愛い生き物がほかにいるだろうか、と心を擽られてしまうのである。

滞仏日記「泣ける。お互いの幸せのために別々に暮らすことにしました」

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「さんちゃん、おいで」
というと飛んで来るが、呼ばなくても、ソファで本とか読んでいると、天井から落ちてくるように、どかっと飛び乗って来る。
そして、ぼくの股間の中に、潜り込むのだ。おいおい・・・。
で、ぼくの太ももの上に顎を載せて、うつろな目でうとうとしている。
とにかく、24時間、四六時中、ぼくの傍にいて、離れない小犬、たまらないのである。
たぶん、ぼくは人間に疲れているのだと思う。
人間は好きだけれど、好きとか嫌いとか、決めないとならないのも面倒だ。
ぼくのように難しい性格だと、みんな気疲れしてしまうのだろうなぁ。
でも、犬はそんなぼくであろうと許してくれるし、癒してくれる。
ぼくが頭を打って倒れていた時、心配した三四郎がぼくの傍にやって来て、ぺろぺろしてくれた。無垢な小犬なのである。
その子とまた2週間も会えなくなるね。さんちゃ~ん。ぐすん。

滞仏日記「泣ける。お互いの幸せのために別々に暮らすことにしました」



滞仏日記「泣ける。お互いの幸せのために別々に暮らすことにしました」

つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
母の日なので、弟に頼んで、ぼくと十斗から母さんに、お花を贈ったのでした。その写真が先ほど届き、「ありがとね、おにいちゃん」とメッセージが添えられていました。家族、いろいろとありますね。87歳の母さん、19歳の十斗、ぼくと恒ちゃん、そして、三四郎・・・。きっと、世界中で家族が力を合わせているのだと思います。
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