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甘党パリ団日記「父ちゃんがパリで一番好きなケーキ。マレ地区の片隅で食べつくせ」 Posted on 2023/06/03 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、オランピア劇場ライブ、最前列でぼくをじっと見上げる美男美女のカップル・・・。
歌いながら、思わず、わ、えみこさんと翔くんじゃん! と思って、思わず笑顔になった父ちゃんシンガーであった。
なんと、最前列かぁ、と驚いたが、こちらはぼくの行きつけのチョコレート&ケーキ屋のレトロワショコラのお二人。
パティシエールの佐野恵美子さんとケーキ職人の翔君なのだった。
佐野さんのチョコについては何度もここで紹介してきたが、この翔君という東北出身の若者が作るケーキ、とくに、フォレノワールは、ぼくがパリで一番好きなケーキと断言して間違いないだろう。
ともかく、ぼくは通い詰めてこのケーキを堪能した。
フランス人が作る王道、フォレノワールをやすやすと凌駕してしまう、マジで、蕩けるようなうまさなのだ。
無骨なこの青年が、作っているのか、と紹介された時に、思わず、苦笑してしまった、でも、だからこそ、うまいのかもしれない。
マジで、傑作なのであーる。

甘党パリ団日記「父ちゃんがパリで一番好きなケーキ。マレ地区の片隅で食べつくせ」

※翔君のフォレノワールって、ハーモニーが抜群なのである。甘味、クリーム感、チョコの奥行、そして、チェリーの酸味、どれも完璧なくちどけをしてみせるのだった。

甘党パリ団日記「父ちゃんがパリで一番好きなケーキ。マレ地区の片隅で食べつくせ」



甘党パリ団日記「父ちゃんがパリで一番好きなケーキ。マレ地区の片隅で食べつくせ」

※ こちらが翔君だが、実物はここまでヒップホップ系ではない。笑。東北の青年が無理してパリにやってきたみたいな、あ、でもマッチョかな。やさしさも滲みだす、素朴感満載な青年なのだけど、一口、彼のケーキを口にいれると、おおおお、げげげげ、むむむ、ひゃあああああ、となる。マジです。
でも、それも佐野恵美子さんのチョコレートとの相性があってこそ、なんだろうな。
つまり、この二人のハーモニーなんだと思う。
ぼくはオランピア劇場で歌いながら、最前列でぼくを見上げる2人を誇らしく思ったものだ。
なんか、初々しく、綺麗なオーラが漂っているのだ。純粋なのだ。
この二人のチョコとケーキをパリで食べることが出来る幸せ、それは何物にもかえられないのであーる・・・。
ふふふ。

甘党パリ団日記「父ちゃんがパリで一番好きなケーキ。マレ地区の片隅で食べつくせ」



はじめてここを訪れた時、店があくのを待っている近所のマダムたちが数人いたのだ。
その中の一人が僕に話しかけてきた。
「ここのチョコ、本当においしいのよ。でも、昼過ぎにはケーキもぜんぶ売り切れちゃうんだから」
とあるマダムが言った。
「そんなに人気なんですか? ぼくは今日がはじめてなんです」
「モンブランと抹茶のケーキが群を抜いてるわよ。どれもおいしいけど、わたしはここのモンブランがパリで一番好き」
別のマダムが言うのだった。
自分のことのように、嬉しくなった。
抹茶のケーキは口に入れた瞬間、すべてがジュースのように混ざって雪のように溶けた。一瞬、何が起こったのかわからなくなるくらい、軽やかで、夢見ごこちの味であった。
モンブランは濃厚な栗のクリームなのだけどメレンゲやチョコやカスタードクリームなどとの複雑な重厚感がたまらなかった。すべてが口の中で見事なバランスをもたらし、食べるものを驚きの中へと誘ってくる。

甘党パリ団日記「父ちゃんがパリで一番好きなケーキ。マレ地区の片隅で食べつくせ」

※ セレモニーという名のケーキ。

甘党パリ団日記「父ちゃんがパリで一番好きなケーキ。マレ地区の片隅で食べつくせ」



チョコレートはオーナーでもあるパティシエールの佐野恵美子さんの真骨頂であり、どれもが個性的で、美術館に陳列された絵画のような額縁に収まり切れない不思議な味わいを醸し出している。三世代続く祖父から受け継がれた伝統的なチョコレートの王道的味わいにバリエーションの広い斬新なスパイスが絡まってくる。

マレ地区、ボージュ広場からそれほど遠くない路地に、ぽつんと、あります。ぜひ、御贔屓に。

甘党パリ団日記「父ちゃんがパリで一番好きなケーキ。マレ地区の片隅で食べつくせ」





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