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滞仏日記「大学を受け直し合格した息子君の手作りパスタをご馳走になったぞの巻」 Posted on 2023/06/06 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、大学を受け直し、新たな志望大学に合格した息子くん。
ま、自分の意思で決めたことなので、父ちゃん的にはいろいろと思うことがあったが、大きな反対はしなかったし、見守る予定である。
ともかく、石の上にも三年、という言葉を彼に教え、あとは卒業してからの結果だと、言っておいたのだ。
ところで、今日は、そんな息子が父ちゃんにごはんを作ってくれることになった。ライブの成功を祝しての息子ランチ会なのだった。笑。
大学生になって、ほぼ一年の歳月が流れた。
どういう暮らしをしているのかも、気になった。
ガールフレンドはいないみたいで、メック(野郎)ばかりが集まる野郎たちの巣窟になっているとは、聞いていた。
いやはや、確かに、汚かった。あはは。
「それでも、片付けたんだけどね。あまりにひどかったから」
「え? これで? どこが? どんだけ散らかってたの?」
「あはは」
「あはは」
やっぱ、男の子だから、家の中がまあまあ汚れているし、掃除機もかけてない。
ま、しょうがないかな。
「で、何を食べさせてくれるの?」
「サーモンのレモン風味のクリームパスタでいい?」
「ほー、いいよ」
ということで息子くん、作りだした。
自炊しかしてないらしい。外食はしない。なんで? 自分で作る方が美味しいし、健康にいいでしょ?
ですって。あはは。やるね。

滞仏日記「大学を受け直し合格した息子君の手作りパスタをご馳走になったぞの巻」

※ この格好で、父親を出迎える息子くん。どうだけ、愛されているんだ、俺は!!!! あはは。恥ずかしいのォ。

滞仏日記「大学を受け直し合格した息子君の手作りパスタをご馳走になったぞの巻」



ぼくの料理の腕がぐんと向上したのは、やはり、子育てをするようになってから。
それまではフレンチとか手の込んだものを作るのは好きだったけれど、家庭料理の大切さに開眼したのは離婚が大きなきっかけになった。
味噌とか麹とか・・・。
父親の味で育った十斗には、ある頃から料理の「い、ろ、は」を教えてきたつもり。
一人立ちをして大学生になった途端、彼の料理の才能が驚くほどに向上した。
やはり、一人暮らしさせたのは正解であった。自立への道だ。
汚いキッチンではあるが、調味料の数が凄い。ふむふむ、ちゃんと料理をしとるな。
見渡せば、料理ばっかりやっているのが、一目でわかるキッチンであった。
味醂やダシもあるし、ベトナムのミョクナム(魚醬)やインドスパイスなどもあった。
「ほとんどが、料理につかう調味料じゃない」
「うん。家飯が最高だね」
「どこかのロン毛の父ちゃんみたいなこと言うね」
「あはは」
「あはは」
慣れた手つきで、ニンニクを砕いてみじん切りにし、油で揚げ焼きしながら香りを映していく・・・、ほー、いい香り!
サーモンは皮パリに焼いて、皮目からじっくりと火を入れている。これは、父ちゃんが教えた調理法なのだ。いいね、筋がいい。
「パパのライブ、どうだった?」
「よかった。みんな感動してたよ」
「ユゴーのご両親、チケット、買ってくれたんだよね」
「うん、聞いたことない音楽だって、興奮していた。日本人なのに、スペインやアフリカや世界中の音楽の要素を取り入れているって」
「えへへ(でへへ、に近い感じで、父ちゃん、鼻の下が伸びて、喜んでいた~)」
サーモンがいい感じで焼きあがった。
「皮パリのところが好きなんだ。中はミキュイ(半生みたいな)で、蕩けるよ」
フライパンに、ニンニク、クリーム、レモン、スパイスなどを入れて、何度も味見をしながら、丁寧に料理をしていた。そこに茹で上がったパスタをどーんと投入~!
「わお、そうなるんだ。美味そうだな」
パスタをレモン風味のクリームに絡めながら焼いている。いい感じで乳化もすすみ、いやはや、こりゃあ、めっちゃ美味そうだ。

滞仏日記「大学を受け直し合格した息子君の手作りパスタをご馳走になったぞの巻」

※ 料理をする息子の背中、ほほー、頑張っておる。日常生活がちらっと見えるね・・・。母親の気持ちで眺めている父ちゃんなのであった~。

滞仏日記「大学を受け直し合格した息子君の手作りパスタをご馳走になったぞの巻」

滞仏日記「大学を受け直し合格した息子君の手作りパスタをご馳走になったぞの巻」



小さなテーブルにお皿を置いて、パスタとサーモンを盛りつけた。
「なんか、足りないから、トマトでも載せるかな」
そう言いだすと、冷蔵庫の中からミニ・トマトを取り出し、包丁でカットして、載せた。
洗ってない。
神経質な父ちゃん的には、そこが気になったけれど、若者は気にしないのだろう。ま、いいか。笑。
「トマト、ちゃんと洗えよ」
「え、あ、うん。パパは洗った方がよかったね」
「あはは」
ともかく、味見をしよう。フォークでパスタをくるくる巻いて、口に運んだ。
「うわ、やばいな」
「サーモンと食べてよ」
サーモンを崩すと、火が絶妙の感じで入って、サーモンの身をピンク色に染めあげていた。
ちゃんとミキュイになっている。蕩けた~。
「美味し!」
「うん、美味しく出来た」
「こんなの自分で作れたら、たしかに、外食できないね」
「うん。学食にはぜったい行けない。パパ、責任とらないと」
「あはは」
「あはは」
ということで、合格祝いをしないとならないのに、逆に美味しいパスタを作ってもらった幸せな父ちゃんなのであった。これ以上の幸せはないね。
夏が終わり、9月から彼は新しい大学に通うことになる。(新しい大学は今のアパルトマンの方が前の大学よりも近いというので、つまり、引っ越す必要もないのだとか・・・)
「十斗、おめでとう」
「ありがとう」
その後、ぼくらは一緒にスーパーに食材を買いに行ったのであった。
めんつゆとか、ダシとか、肉とか、日常の必需品をいろいろ買ってあげた。
ここでもまた、新しい人生がスタートしているのであった。

滞仏日記「大学を受け直し合格した息子君の手作りパスタをご馳走になったぞの巻」

※ 息子のパスタ、完成であーる!!!! 美味い!!!!

滞仏日記「大学を受け直し合格した息子君の手作りパスタをご馳走になったぞの巻」

※ この照り感は、刷毛で、ソースをかけて塗りこんでいくという、手の込んだ、料理方法なのでありました。これは、教えてないです。



人生はつづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
心配なことはたくさんありますけれど、でも、自分でなんでもできるようになったので、まず、大丈夫でしょう。進路についても自分で決断し、大学を再度受け直し、合格し、軌道修正も出来るので、その点は心配していません。どういう結果になっても、自己責任でやっていく、と言っていますから、うるさく言うのもね、ともかく、頼もしいですからね、じっと、応援団長を続ける父ちゃんなのでした。
あはは。
さて、6月18日は地球カレッジ、サンジェルマン・デ・プレ界隈を散策するオンライン・ツアーが開催されます。ご興味ある皆さん、下の地球カレッジバナーをクリックください。それから、日本公演のお知らせです。

「辻󠄀仁成 アコースティック セレナーデ フロム パリ 2023」
Tsuji Acoustic Serenade From Paris 2023
現時点で決定している出演アーティスト:
辻仁成(Vo・Ag)/Dr.kyOn(Piano・Chorus)/ユン ファソン(Flugelhorn・Trumpet・Chorus)
各会場:
8/29(火)愛知・名古屋DIAMOND HALL
open18:00/19:00
8/30(水)東京・EX THEATER ROPPONGI
open18:00/19:00
9/3(日)京都・京都劇場
open17:30/18:00
さて、ただいま、オフィシャル最速先行中です。「ぴあ」内に、このミニツアーの先行窓口が6月11日まで設置されています。
チケット購入を希望される皆さんは、下のURLをクリックお願いいたします。

https://w.pia.jp/t/tsujihitonari-k/

最速先行発売期間、5/30(火)09:00~6/11(日)23:59/日本時間

地球カレッジ

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※ おお、あの夜、神が降臨していたのか!!!

自分流×帝京大学