JINSEI STORIES

滞仏日記「恐ろしい男たちに囲まれカツアゲされた父ちゃん? 間一髪の巻!」 Posted on 2023/06/15 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、間違いなく、ぼくが知る在パリ日本人の中で一番、怖そうに見えるのはマエシン(前田しんくん45歳)であろう。
その次に怖そうに見えるのはみっちゃん(光岡力、44歳)に違いない。
この二人は北部パリを仕切る、こわもて日本人連合の重鎮なのだ。
怖い。実に怖い。
マエシンは良くこの日記にも登場する北海道でかつてヤンキーをやり、お父さんに「人生を学んで来い」と成人してからスイスのレストランに修行に出され、そこで開眼、ジビエ料理の達人を目指すべくパリにわたって、ビストロ界の大御所、ChezMitchelのティエリー・ブレトン氏に師事、今や、おしもおされぬジビエ料理の第一人者になりあがった男なのであったぁ。
みっちゃんとは、マエシンの店で知り合ったが、なんと、なんと、あの一風堂欧州の社長をやっており、ロンドン2店舗、パリ4店舗をとり仕切る凄腕ビジネス料理人なのだった。

この二人、本当は優しいのだけれど、見た目があまりに怖い。
しかも、みっちゃんは腰が低すぎて、なお怖い。
目の球が黒くて、笑っているのに、すごんでいるように見えるから、やばいのだった。
マエシンは身長が183センチもあって、元暴走族なので、普通にしていても怖いのだが、みっちゃんは横に幅広で100キロは越えている。
この二人を相手に、漫画顔で小柄な父ちゃんが酒を酌み交わすとなると、これが、毎回、なかなか度胸がいるのだ。
しかも、であーる。
今日のマエシン、ひ、額に、おお、殴られた痕があるじゃないか。しかも、くっきりと。
こわー、めっちゃ怖い、こんな日本人がパリでビストロやって客がくるのか、と思うのも当然だが、信じがたいことに連日、満席なのであーる。
「しんくん、ちょっと怖い顔やってみて」
「え? 今ですか? ええ、いいですよ。やめときます」
「いいから、お願い、怖い顔、やってよー」
とお願いしたら、おおおおお、やりやがった。
ひゃあああ、怖い。
その後ろのみっちゃん、なんだそのうすら笑い、やばすぎる。お前ら怖いわ!!!☜ 怖い顔やらせといて、この言い分は酷い。

滞仏日記「恐ろしい男たちに囲まれカツアゲされた父ちゃん? 間一髪の巻!」

※ この額の傷、ほんとうは倒れたスタッフさんを救おうとして飛び出して、閉まりかけたシャッターで頭を打ったらしい。本人はそう言ってました。でも、そうは見えない。あはは、鵜呑みにできない。笑。

滞仏日記「恐ろしい男たちに囲まれカツアゲされた父ちゃん? 間一髪の巻!」

※ あのね、怖すぎるわ!!! 癖になる怖さ。



ということで、今日は、パリで老舗の串揚げ屋「SHU」にやってきた父ちゃんたちだった。(マエシンの奥さんは離れた場所に座って、我らにかかわらないようにしていた)
このSHUはパリでは珍しい串揚げ専門店で、あの日本の串揚げが食べられる稀有な店なのであーる。
父ちゃんが20代、初渡仏した時に、入ったのが、このSHUの前に仏人がやっていたビストロであった。
そういうご縁で、久々に暖簾をくぐったのだけれど、ここも満席で、相変わらず、美味しかったぁ。
パリで「カツアゲ」が食べられるって、最高じゃん!
おっと、間違い。カツアゲじゃない、串揚げだった。
マエシンとみっちゃんの顔を見ていると、どうも、串揚げが、かつあげ、になってしまうのだった。

滞仏日記「恐ろしい男たちに囲まれカツアゲされた父ちゃん? 間一髪の巻!」

滞仏日記「恐ろしい男たちに囲まれカツアゲされた父ちゃん? 間一髪の巻!」

滞仏日記「恐ろしい男たちに囲まれカツアゲされた父ちゃん? 間一髪の巻!」



日本だとぼくは福岡、護国神社前の「花篭」に父さんとよく通っていたのだった。大将、梶原さんが揚げる串が口の中でジューシーに蕩ける感じ、あれが好きでね・・・・。
パリのSHUもあの日本の串揚げに負けない最高の串揚げなのだった。
しかし、小食のぼくはマエシンやみっちゃんのような勢いで食べることが出来ないので、自分の分を彼らにかつあげされていた。あはは。
みっちゃんは、実は痛風と糖尿っぽいんです、と言いながら、一人で数十本食べて、さらに、追加で「あるもの全部ください」と薄ら笑い浮かべながら食べつくしていった。
この二人、水でも飲むように、シャンパン2本、ワイン3本、あけた。
豪快すぎる。
ご馳走するつもりだったが、串の数とか、あいていくワインの瓶を見て、これは底なし事件だ、やっぱり、ある種のカツアゲじゃーん、と思ったか弱い父ちゃんなのだった。

滞仏日記「恐ろしい男たちに囲まれカツアゲされた父ちゃん? 間一髪の巻!」



シェフの鵜飼さんは、黙々と、串揚げを運び続けていた。真面目な料理人だった。
「辻さん、ほたて食べないんですか?」
「あ、いいよ」
「辻さん、海老いらないの?」
「え、どうぞ」
「辻さん、アスパラ食べないの?」
「あ、どうぞどうぞ」
これは串揚げじゃない、まさしく、カツアゲなのであーる。
ぼくが食べたのは、コロッケの串揚げだった。いやあ、見事に美味かった。
「辻さん、牛肉食べないの?」
「辻さん、鯛食べないんですね?」
「はー、どうぞどうぞ~」
怖すぎる。
皆さんが思うパリのイメージをこの二人がどう変えてしまうのか、ここまで書いていいのかわからないが、とにかく、豪快な串揚げパーティになったのである。
最後に、鵜飼さんが、握ってくれたまぐろの寿司がおいしかった。
「これお店からです」
「待て! それはぼくが食べる!!!」
はい、ポーズ。
ということで、マエシンの嫁さんが撮影した、仲睦まじいパリの不良中年トリオなのであった。

滞仏日記「恐ろしい男たちに囲まれカツアゲされた父ちゃん? 間一髪の巻!」



滞仏日記「恐ろしい男たちに囲まれカツアゲされた父ちゃん? 間一髪の巻!」

人生はつづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
ちょっと、怖く、書きましたが、皆さん、お気づきの通り、この二人はめちゃ心優しき男たちなのです。元暴走族と書きましたが、原付に乗って飛ばしていただけだそうです。笑。
みっちゃんと会いたい方は、一風堂がはじめた大衆居酒屋「キッチン」で、マエシンはご存じリオン駅前の「Aux 2saveurs」で会うことが出来ます。こわもての中年が好きな皆さん、ぜひ、御贔屓に!!!
ということで、ということで、6月18日、日曜日、まもなく、父ちゃんの、サンジェルマン・デ・プレ界隈を散策するオンライン・ツアーが開催されます。ご興味ある皆さん、下の地球カレッジバナーをクリックしてみてくださいね。めるしー。

滞仏日記「恐ろしい男たちに囲まれカツアゲされた父ちゃん? 間一髪の巻!」

※ わかったから、やめれ!