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滞仏日記「パリの空港がいつもと全然違う、職員までがマスク!」 Posted on 2020/01/31 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、今、この記事をシャルル・ド・ゴール空港で書いているのだけれど、いつもとぜんぜん雰囲気が違う。そもそもマスクをしないフランス人がマスクをしている。空港職員たちの半分くらいの人がマスクをしている印象だ。装着している人の数は羽田空港よりも多い気がする。中国の団体客がチェックインを待っているその横を、駆け足で抜けていく世界各航空会社のCAさんたち。中にはスカーフで口と鼻を塞いでダッシュするCAさんも数人いた。コロナウイルスの脅威が世界的に報道されるようになって、人々の意識が変わった。息子の親友のアレクサンドル君も親に言われて登下校時マスクを着用するようになった。中心観光地シャンゼリゼに住んでいるので、買い物にやって来た中国の方々の中を登校しなければならんず、親がマスクを義務付けた。フランスの子供たちも自衛のためにマスクをするこんな光景を目撃するようになるとは思っていなかった。ぼくのフランス人の友人たち、ピエール、エリック、ロマン、ロブソン、ジャンジャック、実はみんなに頼まれた。
「辻、日本に行くのなら、一番凄いマスクを大量に買ってきてくれ」
マスクがこんなに喜ばれるお土産になる時代が来るとは思ってもいなかった。

滞仏日記「パリの空港がいつもと全然違う、職員までがマスク!」

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それほどの恐怖心がフランス国内でも広がり、これが思わぬ差別行動を助長させているようにもうかがえる。中国の観光客が言葉を理解しないと思って、アジア系の観光客に「来るな」とヤジを飛ばしている子供もいたし、レストランやカフェによっては接客の遅い、というのか近づこうとしないギャルソンなどもいる。知り合いのフランスの免疫学者が興味深いことを言った「今、個人的に一番恐れているのは、コロナとエボラのような強力なウイルス同士が合体することなのです。アフリカには大勢の中国人労働者がいる。中国はアフリカに莫大な投資をしている。労働者らはみんな中央アフリカなどで仕事に従事している。中国から持ちこまれたコロナウイルスと、発症したら致死率は50~80%と言われるエボラウイルスが合体し、もしも、世界最強のウイルスが登場するようなことがあれば…」とのことであった。あまりに恐ろしすぎるじゃないか。この世界はいったいどうなってしまうのだ。武漢から届く、ゴーストタウンのような廃墟の写真、あれが未来の、東京や、ロンドンや、パリだったらと思ったらぞっとする。

息子は風邪を引き、まだ咳込んでいるので、今日も、クラスメイトたちは息子に近づこうとしななかった。フランス人にしてみると、中国人、日本人、韓国人の見分けはつかない。いつも一緒にいるクラスメイトでさえ、そういう行動をとってしまうのだ。パリ市内の通りでマスクをした中国人団体とすれ違う時に、通行人たちが慌てて逃げだしたとしてもしょうがない、単純な、批判はできない。怖いのだから仕方がない。未だそれが原因で事件は起きていないが、この先、何か月もこのような状態が続くと、パリ市内にも「中国人、アジア人出入り禁止」のような店が出てくるかもしれない。

新型肺炎のピークが4月5月くらいだともささやかれている。オリンピック直前にいったいどのような影響が出ているのか想像するのが怖い。世界崩壊のはじまりではないことを祈りたい。何より、WHOがいつもよりバタバタしているのが気になる。恐ろしい宣言が飛び出し、世界を打ちのめさないか、心配だ。ぼくのように日仏を頻繁に移動していると、自分のことは自分で守るしかない「コロナウイルスなんかに俺の体は触れさせないぞ」くらいの意気込みで、情報を集め、ぼくは自衛し続けている。そろそろ、機内への搭乗時間が迫った。マスクを新しいのに変えておこう。

※ 最新情報ですが、エールフランスは今日から2月9日まで、フランスと中国との運行を一時停止しているということです。

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自分流×帝京大学

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