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滞仏日記「西麻布パフェを菱沼シェフと考案中」 Posted on 2020/02/02 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、友人であり、西麻布のレストラン「ココノマ」の菱沼シェフから一緒にデザートコラボしてもらませんか? とお願いがあって、いくつかプランを送っておいた。今日はその試食会があったのだ。実は、彼のレストランが入っているホテルでデザインストーリーズ関連の小さなイベントをバレンタインデーにやることになっている。「だったらデザートを共同開発しましょうよ」と大胆なことを言われたのだ。まず、ぼくの頭に浮かんだのは「西麻布パフェ」というネーミングであった。西麻布パフェ、なんかいいね。

シェフはもともと有名イタリアンやホテルのレストランで修行を重ねてきた苦労人で、ぼくのようなただの料理好きな素人とはわけが違う。3年くらい前にパリに遊びに来たことがあって、夜のエッフェル塔に案内をした。いつか一緒になんかやりましょう、とその頃から話しをしていたのだ。信頼できるシェフなので、そこは安定、安心した試作品が出来上がっていた。

滞仏日記「西麻布パフェを菱沼シェフと考案中」



バレンタインデーだからチョコレートはもちろん必需品なのだけど、パリ左岸と西麻布の融合みたいなテイストを出せないかな、と二人で頭をひねった。甘いもの好きなぼくがよく食べ歩くパリの味を西麻布に持ち込んでみるという大胆な作戦である。そこで最高級のチョコレートで作るムースオショコラコラと、ぼくが得意なほうじ茶のブランマンジェを合体させてみた。すると、さすが、菱沼シェフだ。食べたことのない触感に仕上がっていて、仰天。どれも綺麗で、試作品とは思えない出来栄えだった。しかも、味が上品で、しつこさがない。すっと入ったので、ぼくは試作品を全て完食してしまった。

このパフェ、外見は全部違うけれど、中身は一緒である。ブランマンジェはプクっと丸いバニラの被膜に包まれており、口に入れるとプチっと割れてほうじ茶の香りがあふれ出す仕組み。ベース部分にムースオショコラが隠れているのだけど、上品なチョコレートの風味が混ざることでバレンタイン感をさりげなく演出している。チョコレートのエスプーマ(泡のソース)が、もしゃもしゃっふわふわっと、ちょうど西麻布の交差点のような(笑)感じで、日仏の友好感を絶妙に交差させている。

滞仏日記「西麻布パフェを菱沼シェフと考案中」

滞仏日記「西麻布パフェを菱沼シェフと考案中」

ぼくが気にいったのは大きなワイングラスに入れられた一品で、これは蓋がサブレでその下になんだか天空のラピュタみたいなものがぶら下がっており、蓋を手で開いてまずガブっと噛んだ瞬間に、カリカリ、ジュワジュワ、おお、西麻布感満載じゃないか、と嬉しくなる構造であった。きっとこの世界観で完成品が出てくるのじゃないか、と想像する。その後、いくらでお店に出すのか、で議論になった。たくさんの人に食べてもらいましょうよ、ということになり、材料費と相談しながらシェフが持ち帰ることとなった。ぼくの好きなハーブティ「ベルベンヌ」とのセットとか準備したい。ともかく、西麻布パフェは一週間くらいの限定商品で世に出ることになる。さてさて、デザインストーリーズのプティ・イベントは詳細が決まったら、またお知らせしたい。合言葉は「西麻布パフェ」である。



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