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退屈日記「三四郎とお散歩からの久しぶりのカフェ飯、あゝ、パリ生活を楽しむ俺たち」 Posted on 2023/09/09 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、つくづく、思ったことがある。
日本とフランスの何が違うのか、というこの根本的な問題なのだが、今回、パリに戻ってやはり気が付いてしまったことがある。
もっとも大きな違いは、カフェ文化があるかないか、ではないか。
もちろん、日本にも素晴らしいカフェがいくつもあった。しかし、そうじゃない。
パリにおける、カフェ文化なのだ、大切なものは・・・。
シャルルドゴール空港からパリ市内に入ると、父ちゃんの目をくぎ付けにしたものは、街角のそこかしこに開いているカフェだった。
椅子が歩道まで出ていて、みんながそこで寛いでおり、びしっと決めたギャルソンたちが丸いトレーの上にビールやワインやおつまみを載せて、きびきびと運んでいる。
くだらない冗談を常連客とかまし、手早く飲み物をテーブルに置いて、再び、踊るようにテーブルをめぐるあのパリならではの姿、・・・。
常連たちは新聞や本を開いて、友だちや家族とワインなんかを飲んで、しかも、老若男女問わず、あらゆる世代が同じカフェのテラス席に一同に介し、パリの風物を奏でている。
長い歴史の中でぐつぐつと煮込まれてきたパリのカフェ飯の味わいなんかもたまらない。
早く、あのテラス席に座って、ビールを片手に、通りを眺めたい、と思った父ちゃんなのであった。

退屈日記「三四郎とお散歩からの久しぶりのカフェ飯、あゝ、パリ生活を楽しむ俺たち」

退屈日記「三四郎とお散歩からの久しぶりのカフェ飯、あゝ、パリ生活を楽しむ俺たち」

※ 白ワインに最高、南仏生まれのタプナード。



さっそく、三四郎と散歩に出たその足で、カフェに飛び込んだ父ちゃん。
父ちゃんの帰仏にあわせるかのように、再び熱波に見舞われた暑いパリなのである。
来年夏のオリンピックを控え、何か、やたら元気なパリなのであった。
冷え冷えのビールを注文し、ぐびぐび、とあおった父ちゃん。
ビールと一緒に出てきたのは、タプナード!
オリーブ、ケッパー、アンチョビ、にんにくを潰してペースト状にしたタプナードは、焼いたパンなんかに塗って、バクッとするのが最高。
白ワインにあうので、ビールを飲み干したら、ワインへと移るのが父ちゃんのスタイル。
ひゃあ、美味い!
足元で、三四郎が、くゥ~ん、とねだるので、バケットの切れ端を、与えるが、
「いらないよ、バケットばかり」
という顔して、食べにゃーい。あはは。
顔なじみのギャルソンがやって来て、夏はどこに?
「日本でツアーだったの」
「おお、いいね。行きたいなぁ、日本」
ギャルソンが、知っている日本についての蘊蓄を一通り聞くのも楽しい。
この、なんでもないような日々のやり取りが、カフェにはくっついてくる。
彼らに会うためにカフェをはしごするのである。
カフェの魅力は、そこのワインのセレクト、料理の味、雰囲気、そしてギャルソンのキャラクターなのであった。
みんな個性的で、面白い。でも、歴史ある仕事なので、プライドがある。
給料もかなりいいのだ。今はギャルソンが人手不足で、女性給仕が働く店も増えた。
最近流行りの新しいタイプのファッション・カフェ(特にコストグループ系)では、経験のない可愛い子が、選ばれ、給仕をしている。
若くてぴちぴちでいい子たちなのだけど、何かが、違う。やっぱ、経験かなぁ。
シャンパンの開け方がわからず、ロンドンから来た友だちが買ったばかりのジャケットにぶちまけた若い女の子もいた。
「ごめんなさい、わたし、人生で生まれてはじめてシャンパンを開けたので」
生まれて初めて!!!!! そんな未経験者を雇う新しいパリのカフェ!!!!

退屈日記「三四郎とお散歩からの久しぶりのカフェ飯、あゝ、パリ生活を楽しむ俺たち」

退屈日記「三四郎とお散歩からの久しぶりのカフェ飯、あゝ、パリ生活を楽しむ俺たち」



これが最近のパリのカフェ事情の根本にある問題なのだ。
濡れたジャケット、店側は責任を負わず、女の子が謝るだけだった!!!! 
ぼくは女の子のギャルソンもいいと思うのだけれど、歴史的なギャルソン文化を継承していないので、つまり、経験不足で、やっぱね、物足りなさを感じてしまう。
パリのカフェ文化に新しい風が吹き注ぎこまれているので、それはそれで大歓迎なのだけれど、ギャルソン一筋、うん十年の猛者たちがきびきびを動き回るカフェがやっぱ、好きかな。
お洒落な若い子たちはだいたい学生さんなので、そこは、仕方がない。うちの息子のような子たちなのだから・・・。
しかし、パリに行くなら、老舗のカフェに行き、経験豊かなギャルソンたちの皮肉とか、饒舌な会話とか、人の間を抜けてサーブするあのダンスのような機敏さを観て頂きたい。いや、さすがに、パリの風物詩である。
ということで、父ちゃんは、長いリードを身体に巻いて、三四郎と公園を歩いた。
暑いからね(34度)、さんちゃん、ヘタって歩かないので、困った困った。
もう一軒、カフェに行くか?
三四郎はカフェを見つけると、自らスタスタ、中へ入っていくのだった。
ふふふ、パリ犬、サンシー、だね。

退屈日記「三四郎とお散歩からの久しぶりのカフェ飯、あゝ、パリ生活を楽しむ俺たち」

退屈日記「三四郎とお散歩からの久しぶりのカフェ飯、あゝ、パリ生活を楽しむ俺たち」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
ところで、父ちゃんの2024年度版のアー写が決まりました。この二枚になります。夏仕様ですが、真冬にも対応させていきますね、えへへ。よろしくお願いいたします。

退屈日記「三四郎とお散歩からの久しぶりのカフェ飯、あゝ、パリ生活を楽しむ俺たち」

※ 🄫 ysuke okada

待機画面に、どうぞー。あはは。

退屈日記「三四郎とお散歩からの久しぶりのカフェ飯、あゝ、パリ生活を楽しむ俺たち」

ということで、もろもろ、お知らせがいつもごとくございます。

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●「ボンジュール!辻仁成の秋のパリごはん」
【BSP】9月12日(火)午前6:15~7:14
※初回放送 2021年10月30日

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【BSP】9月13日(水)午前6:15~7:14
※初回放送 2022年2月23日

●「ボンジュール!辻仁成のパリごはん 2022春」
【BSP】9月14日(木)午前6:15~7:14
※初回放送 2022年6月17日

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【BSP】9月15日(金)午前6:15~7:14
※初回放送 2022年9月23日

●「ボンジュール!辻仁成のパリごはん 2022秋冬」
【BSP】9月16日(土)午後1:00~1:59
※初回放送 2023年2月17日

●「ボンジュール!辻仁成のパリごはん 2023春」
【BSP/BS4K】 「パリごはん2023SP」(9/16土曜20:00~21:29)
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