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滞仏日記「今日からまた新しい父ちゃんのパリごはんがスタートするのだ」 Posted on 2023/09/18 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ということで、三四郎と父ちゃんは再び、パリを目指した。
じゃじゃーん。
神出鬼没な二人組はノルマンディからパリへ向かう途中の草原にあるカー洗車場へと立ち寄ったのだった。
これ、三四郎にとっては浅草花やしきの「お化け屋敷」にも負けない、恐ろしい体験場なのであった。
「ぎゃああわあああん、わんわん、ぎゃあああああ、わん!」
今まで聞いたことのない犬の悲鳴! 
車がお化け屋敷のような洗車場の中へと飲み込まれ、まもなく、左右にあるぞうきんの化け物が動きだし、高圧洗浄機の暴風が車を揺さぶると、愛犬三四郎の目が丸くなり、大騒ぎとなるのだった。おもろい。
(実は、もう3度目なのだけれど、毎回、リアクションが様々で、いとおかし)
彼は漫画トムとジェリーのごとく、一目散で、逃げ場所を探すがどこへ逃げてもお化けぞうきんが追いかけてきて、窓ガラスを叩く!!!
結局、ハンドルの下、ぼくの足の下へと逃げ込んで、ぶるぶると震えているのであった。
「三四郎、大丈夫だよ、車だって、お風呂に入らないとならないんだ。お風呂!」
震える三四郎にわかるわけもない。
ぞうきんのお化けが遠ざかり、青空のもとに車が出ると、三四郎がぼくの股から顔を出し、
パパしゃん、もう大丈夫? という目をした。
あはは、可愛い。

滞仏日記「今日からまた新しい父ちゃんのパリごはんがスタートするのだ」

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パリは秋の気配に包み込まれていた。
「ボンジュール、辻仁成のパリごはん」が終わり、ぼくの人生は新しい幕開けとなった。息子も今週から新しい大学に通いだしている。
スタッフさんたちもご家族とバカンスを満喫されたようで、皆さん、パリに戻って来られたぁ。(DSライターズの一部ライターさんがまだ旅行中)
ということで仕事始め、フィリピン人の中島君(エリック)がやって来て、ぼくと一緒に、事務所の大掃除をやってくれたのだった。(ぼくは自分の部屋のみ、片付けた)
エリックに三四郎を見て貰っている隙に、ぼくは近所のスーパーへ買い出しに行った。さんちゃん、スーパーには入れない。
新しい日常生活のために、必要な食材を一通り買った。
そして、料理を作った。
「エリック?」
「イエッサー、ムッシュ」
「この後、仕事あるの?」
「いいえ、ありません」
「家に帰るのかい?」
「イエッサー」
「じゃあ、奥さんと君の分のパスタ持って帰るかい?」
エリック、きょとん。
「いや、これから自分のために暗殺者のパスタ(Spaghetti all’ assasina 」を作るんだけど。一人分って、作りづらいから、どう? 美味しいよ。知らない? ティックトックで観たことない? ワンパンで作るスパゲッティ)
「あ、はい、知ってます」
「食べる? (ニヤッ)」
「サンキューサー、(`・ω・´)ゞ」
エリックの言葉遣いはまるでアメリカ兵みたいなのだ。小さい頃からベースキャンプで働いていたようで、この喋り方がぬけないんだ、とか・・・。笑。
ということで、父ちゃん、エリックご夫妻のために、ちょっと作っちゃった。えへへ。

滞仏日記「今日からまた新しい父ちゃんのパリごはんがスタートするのだ」

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今回は、ひき肉、プティトマトの缶詰め、トマトピューレ、にんにく、鷹の爪、チーズ各種、トマトペースト、あ、玉ねぎのみじん切りも少々、加えて、シリチリアン・ボロネーズにしたのであったぁ。☜いつもじゃん。えへへ。
コツは、麺を揚げ焼きにし、超バリカタにね・・・、そこにトマト系のスープストックを入れて緩めていくのだけれど、ま、凄い乳化になるし、美味いねー、この手法。
タッパーに詰めて、バゲット添えて、紙袋に入れ、玄関の彼のヘルメットの横に置いといた。
時間が経っても美味しいように、工夫もしておいた。任せとけ。
ということでエリックが仕事をしている間、ぼくはキッチンで、ボロネーゼを食べたのだった。え? いますよ、当然、足元にはさんちゃんが・・・。
「ボンジュール、辻仁成のパリごはん」が終わっても、ぼくらの人生は続くのであーる。
「さんちゃん、これ、めっちゃ美味いけど、君の身体にはよくないからね」
といつもの言い訳をする父ちゃん。
でも、ポケットには犬用の砂肝とか牛タンのおやつケースを忍ばせている。
そこから、こっそり、たとえば、牛タンを取り出し、マジックみたいに、それをぼくの口から取り出したように見せかけて、
「食べる?」
と訊くのだった。
「じゃあ、お座り」
といつもの教育。
「ぽん」
くるんとさんちゃん一回転、はい、よくできました。
さんちゃんに、
「イタリアの暗殺者の牛タンって知ってる? ティックトックでやってるやつ。殺されそうになるくらい美味いんだぞ」
などと独り言をいいながら、(寂しい男である)、与えるのだった。
さんちゃん、要は、一緒に食べられればなんでもいいのである。
一緒がいいのだ。
美味しい暗殺者のボロネーゼを食べ終わるころ、
「サンキューサー」
と玄関の方で、エリックの声が弾けた。
ぼくと三四郎で彼を送り出すのだった。
「また、来週ね」
「イエッサー」
満面の笑顔でエリックは弁当を抱え出て行くのだった。
これが、ぼくらの日常なのである。
さてと、三四郎はお留守番、パパしゃんはアトリエに絵を描きに行くのであーる。
「さんちゃん、あとでね」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
父ちゃんがアトリエに行っている間、三四郎は、玄関のドア前にある自分のソファの上から動きません。忠犬なのであります。二時間後、戻って来ると、そこに三四郎が。かわいいですね。(アトリエに連れて行くと、油絵具がね・・・、やばいです)
さて、父ちゃんの脳内はすでに夜ごはんのことで一杯なのであります。これが、日常というものです。冷麺にするか、肉吸いうどんにするか、鮭定食にするか、で悩んでいるところであります。皆さんは、美味しい生活、続けておられますか?
「ボンジュール、辻仁成のパリごはん」ロスに見舞われている皆さん、この「滞仏日記」でなるべく、ごはんのことを書いていきますから、ご安心くださいね。じゃあ、また、あとで!!! ぜひ、暗殺者のスパゲッティ、やってみてね。
あ、毎週、生放送ラジオやっています。ラジオ・ツジビル。ご視聴されたい皆さまは、オンライン村へ、どうぞ!!!

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