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滞仏日記「息子と大ゲンカ。でも、ぼくが言いたかったこと」 Posted on 2020/02/23 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、夕飯を作っていたらキッチンに息子がやって来て、高校生ブランドの試着Tシャツを見せられた。ぼくが細かい点について意見を浴びせたら、カチンときたのか激論になってしまった。
「でも、パパ、そんなこと言ったら、何にもできないし」「いや、パパはそんなことそもそも言ってねーし」「言ってるじゃん。それじゃ、ダメだとか、やってみないとわからないでしょ」「ダメとかいってねーし。やってみればいいじゃんって言った」「やってるよ」「ただ、それで大丈夫なのかって話しをしただけだよ、心配して。それさえ聞く耳持たないなら、聞きに来るなよ」「@&%$%###$$&!!!」「&&%%$#‘‘‘@@??」とわけわからない激論になってしまった。

滞仏日記「息子と大ゲンカ。でも、ぼくが言いたかったこと」



あの、誤解のないように言っておくけど、ぼくは彼らのやってることを否定したり反対しているわけではない。ぼくが言いたかったことは、やりたいことがあるってこと自体が凄い才能なんだよって、ことだ。それを最初から喧嘩腰に訊いてくるところが若いと批判したに過ぎない。ろくに日本語喋れないくせに、と言ったのがいけなかったのだろう。その後はフランス語でまくしたてられ、今度はこっちが理解できないので、頭にきてしまった。「だから、家の中では日本語を話すルール忘れたのか!」と怒鳴ったので、息子はむすっとしてしまった。

「誰だって、好きなことを生業にして生きていきたいんだよ。でも、世の中はそんな甘いもんじゃないだろ」
「分かってるよ。別にだから、これで食っていこうって思ってるわけじゃないし。ぼくらは試したいんだ。自分たちの能力を」
「だから、ぜんぜん、反対してるわけじゃないじゃん。ちゃんとパパの話しを聞けよ。好きなことをやることが大事だって、パパはさっきからずっと言ってるんだよ。好きなことだと時間も忘れてどんどんやれる。それが大事なんだよ。それを日本語で『得意』というんだ。得意なものには輝く未来しかないんだから、どんどん好きを追求しろよ、と言ってるんだ。裏返せば、好きじゃないことを仕事にしてしまうと伸びる才能も伸びなくなる。だから、好きなことを持っているということはその時点で才能があるってことなんだよ。わかるか?」
「だから、好きなことやってるんじゃん。何が悪いの? いちいち文句言わないでよ」
「あのな、お前が一人で熱くなって文句言って来たんだろがぁ。パパはお前たちのこと評価しているし、心配しているだけだよ。まったく」

ということで意見が噛み合わないまま、息子は試着品のTシャツを持って怒って部屋に戻ってしまったのだけど、そのくらいのエネルギーがあった方がいいとぼくは思う。自分たちを正当化できるということも才能だし、親であろうと何を言われても自分たちの思ったことを最後までやり通せないのであれば、そもそも、ものにはならない。僅か数日で試着品まで出来てきて、彼らの高校生ブランドがちゃんと動き出しているのが伝わってくる。シャイで大人しい青年が奮起しているのがよく伝わってくる。
「いいか、よく覚えとけ。好きなことを仕事に出来たら、それが才能なんだよ!」
ドアの向こうから、大きな声で、わかってるよ、ほっといてくれ、と戻って来た。やれやれ。この熱さがたまらないね。がんばれ。



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