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退屈日記「伊勢丹アートギャラリーでの会期が決定! しかし、悩んで候」 Posted on 2023/10/16 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、来年、新宿・伊勢丹アートギャラリーにて開催される父ちゃんの油絵個展の会期だが、2月28日(火)~3月5日(火)18時まで、となった。
ここでしか見ることが出来ないぼくの絵であり、初個展なので、ご興味ある読者の皆さん、メモをお願いしたい。☜えらそうで、すまんです。
しかし、それにしても、作品が多すぎて、実は、いまだセレクトに難航中なのだ。
小説が書けなくなってずいぶんと経つが、絵筆だけはとまらない。これも、困った。
もともと、趣味で長年こっそりと描き続けていたが、個展が決まった途端、不意に手が止まらなくなった。あはは。小説なんか、忘れ去られている勢いなのである。
ノルマンディにアパルトマンを購入してから、そこを拠点に、描いている作品もかなりあって、古いもの、新しいもの、最終的にどれを出展するかで、悩んでいるのである。

退屈日記「伊勢丹アートギャラリーでの会期が決定! しかし、悩んで候」



伊勢丹さんから頂いた会場の図面とにらめっこしているが、美術館ではないので、そんなに多くは展示できない。(寸法が書かれているので、すべての絵のサイズをだして、綿密に計算中)
最初の個展なので、しかも、新宿の伊勢丹デパートなので、おおぜいの人たちがやって来るだろうし、ここはベストな作品で挑みたい。
伊勢丹アートギャラリーの美術部のマネージャーNさんとメールでやりとりが続いている。
売れそうなポップな絵には興味がないし、妥協したくないのですが、と訴えると、
「その通りです。妥協しないでください」
と戻って来た。
いろいろと書かれていたが、すっかり、信頼してくださっているのが分かる文面、安心をした。
サイズ感など、最終的には妥協しないでやってください、ということであった。
この絵だけは手放したくないと思っていた作品もあるが、初個展だし、別に画家になりたいわけじゃないわけだし、やるからには、自分の中での最大値を展示して、わかる人だけでいいので、ぼくの生涯をかけて取り組んで来た新たな世界に光を注いでみたい。
ただ、ぼくの時間を費やしてきた秘蔵の絵たちはぼくの元から消えてしまうことになる。
しかし、やるからには、とことんやろう。気持ちの整理もついた。
画廊の人との仕事ははじめてなので、相談をしてよかった。
このNさん、前にもちょっとここで書いたが、はじめてぼくの絵を見た時、動かなくなって、そのあと、感動しました、と言ってくださった方なのだ。
その後も、だいたい作品を見せてきたので、たぶん、画廊の世界ではこの方ともう一人、青山の新生堂のIさんのお二人だけがぼくがどういう絵を描く人間なのかをよく理解されている、と思う。
「いや、辻さんが絵を描くというので、ネットで調べたら、わんちゃん(三四郎だね、笑)のイラストみたいなものしか出てこなかったので、そういう画風なのかな、と思っていたから、こんな絵だったから、びっくりしました」
とおっしゃった。あはは。
実は、ぼくの油絵は、どこにも発表したことがない。大学時代から油絵は時々描いていたが、画家になるつもりだけはなかったので、封印していたし、昔、サーファーの友人に、「迫力はあるが、めっちゃ暗すぎて」と嫌がられた時のことばかり、思い出す。
「辻は、歌の方がいいよ」
とそのサーファー君は爽やかに言ってのけたのだった。1980年のこと。
そして、時代は流れた。

退屈日記「伊勢丹アートギャラリーでの会期が決定! しかし、悩んで候」



ぼくは絵筆をとめなかった。子供が生まれたり、離婚した時に、とくに絵を描いた。ニューヨークやパリやノルマンディなど、暮らした土地で描き続けた。
なので、ポップなものは一切ない。すべての絵に主題があり、現代詩のような絵画ばかりなのだ。
絵で生業をたてるつもりもなく、何十年と描き続けてきたものだから、それが販売される目的で画廊に展示されるということに、心がなかなか折り合ってくれなかたった。
しかし、もう、家の中に絵を置くスペースもない。足の踏み場がないので、売るしかないのだ。現実にも背中を押された格好、笑。
ぼくの絵を最初に見た日本画家の千住博さんの推薦がなければ、たぶん、画廊の方々に見てもらえなかっただろう。
写真じゃなく、実物の絵を見て、Nさんが個展開催を判断してくれた。公式会期は2月28日(火)~3月5日(火)18時まで、となった。よっしゃ、熱血だ。
決まった以上、ぼくはやはりベストを尽くす必要がある。
で、Nさんに、どうぞ、売れ絵っぽいものじゃなく、妥協しない作品を描いてください、と言われたのだ、今日。
それが嬉しかった。どんどん、暗くなるが、暗さの中に希望があるよ。

退屈日記「伊勢丹アートギャラリーでの会期が決定! しかし、悩んで候」



新宿の伊勢丹といえば日本でもっとも有名な百貨店で、そこの美術部門なのだから、多くの人に受け入れられるものじゃないといけないのかな、という、ある種の忖度もあったが、そうではなかった。
「Desert du temps~時の砂漠」というシリーズが今回の個展の中心的な作品群になる。
時間の風紋のようなものを描いており、複雑に絡み合った千夜一夜物語のような長大な人類の歴史が画布に綴られたもので、その時の風紋が、実時間と共に、移動する、ことになる。
絵が、静かに、動き続ける作品なのである。ふふふ、秘密・・・。
そのシリーズが伊勢丹アートギャラリーに、8点、並ぶ。
「ノルマンディ情景」というシリーズも好きな世界で、ノルマンディにアパルトマンを買ってからずっと描き続けている印象派の流れを組むような抽象世界なのだ。
これがやはり8点。
「Reflet~反射世界」7点となる。
その他で、ちょっと悩んでいるけれど、全体の個展タイトルは「Les Invisible~見えないものたち」となる。
英語、フランス語、日本語で、小さな物語を書かせてもらったので、それも展示したい。これらは見えているはずなのに、見えていないものたちのこの世界を主題に、様々な角度から描かせてもらっている。
戦争、愛、憎しみ、希望、織りなす千夜一夜の物語である。

つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
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