JINSEI STORIES

退屈日記「キスではなく、ハグでもなく、ビズ。でも、時々、キスのようなビズもあり」 Posted on 2023/12/03 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、パリはクリスマスムード満点になってきた。
デパート、ボンマルシェの前は物凄い人だかりだった。ぼくは午後、ママ友レテシアのお母さん、ニコールの個展を観に、人をかき分けかき分け、出向いたのであった。
小さなギャラリーでニコールの個展が開催されていた。
ママ友のレテシアがいた。オランピア劇場ライブ以来だったので、ビズ、でご挨拶。
ビズとは、頬と頬をくっつけて、チュッとする欧米型の挨拶。
チュッとしない人もいるが、ぼくはだいたい、女性とビズするときは、チュッと音をさりげなくだすことにしている。
キスするみたいに、唇をすぼめて、チュッとやる。失礼のない距離感が大切。
男性にもするが、男性はよっぽどじゃないとしないし、フランスでビズをするのはチャールズくらいかなァ。あはは。
アドリアンとか、ピエールとかは、本当に久しぶりに会った時に、嬉しくて、ビズることはある。
フランス人は、親しい人は男性同士でも、普通にビズをする。(キスはしない。あはは)
ビズというのは頬っぺたと頬っぺたをくっつけてする挨拶だが、やり方があって、地域によって、世代によってもちょっと違う場合もあるし、ぼくの場合は、まず、相手の肩に軽く片方の手を添え、相手の、向かって左側の頬に、自分の右側の頬を近づけ、チュッとする。人によってはそれを二往復する人もいた。

退屈日記「キスではなく、ハグでもなく、ビズ。でも、時々、キスのようなビズもあり」



さらに、人によっては、頬と頬をくっつけない場合も多い。(特にコロナ以降は減った)
ぼくは頬を必ずくっつける。
特に男性は女性に対してビズをしないとならない空気感があり、そういうのが苦手な日本人は、やらないので、ずっと誤解され続けることもある。
ぼくはチャラ男なので、ビズとか好きだから、渡仏後、普通にやってきた。
で、今日は、レテシアにニコールを紹介されたのだけれど、
「ああ、あなた、会ったことあるわ。ほら、オランピアの直後に」
と言って、ビズをしてきた。
そこから、アーティスト同士の会話になり、ぼくの絵を見せたりした。小一時間、・・・で、帰りがけに、もう一度、ビズをして別れたのだけれど、ニコールは、ぼくの頬にキスをしたのだ、明らかに。
唇がぼくの頬に、右も左も触れたのだった。
一回目とは違う親密さであった。ちょっと驚いたけれど、そういうマダムは多い。多く感じるのはなんか、理由があるのか、わかりません。あはは。
で、人によっては、唇に限りなく近くビズをしてくる人もいるので、驚くことがある。今のは、なんだったのかな、と思ったりする。
レテシアのご主人、ミゲルがやってきた。
男同士は、抱きあう感じになることが多い。腕を大きく開いて、抱きしめる感じ。ビズの一歩手前である。チャールズともそっちが多いかな。
男の人とビズをすると、髭がチクリと痛い。やったら、わかります。
ということで、日本人同士は滅多にしないが、在仏の日本人マダムとは、そこがフランス人の中でのことなら、ビズをするし、日本人ばかりだと、お辞儀、で終わる。
なんだろうね、この空気読んでる感、とはお互い思っているはず。
日本に行くと、ビズがないので、ちょっと楽になる。
というのは、この人とビズしていいのか、その判断がいつも「あやうい」のである。
ビズ、拒絶されたことがないけれど、明らかに、ビズしたくない人もいるだろうから、女性の中には、ビズを嫌う人も最近、少し増えたような気がする、コロナ以降、とくに。そういう話をよく聞くのだ。

退屈日記「キスではなく、ハグでもなく、ビズ。でも、時々、キスのようなビズもあり」



画廊を出ると、ペットショップがあったので、入り、三四郎のクリスマスプレゼントを買った。エッフェル塔のクッキーにした。笑。
すると、知り合いの日本人とばったり!
一時期はよく食事をしたりしていた親しい関係だったが、離婚以降、会ってなかった。
「わ、久しぶり」
これが、ぼくの第一声であった。
その人はフランス人のご主人がいたが、離婚をして、今は別のフランス人のパートナーと同棲している。これは人のうわさで聞いただけで、真実はわからなかった。
でも、聞くのは失礼だから、ぼくからは、もちろん、言わなかった。
「辻っち―。元気だったァ」
ぼくらは短いハグをしたが、ビズはしなかった。
何か、防衛線が張り巡らされているのである、日本人同士というのは・・・。
不意に離婚をしたご主人の話になった。
「元旦那と、この間、道ですれ違ったよ。パンを持っていた」
「ふーん」
「ま、いいか、別れた人の話しをしてもしょうがないね」
「うん。辻っち、また、遊ぼうね」
「おっけー。でも、なんで、ここにいるの?」
「子供は諦めたから、最近、彼と犬を飼っているのよ」
この時、彼がいることが分かった。小説みたいな感じで。
「マジか。ぼくもね、」
「知ってる。三四郎でしょ?」
あはは。笑いあって、ラインを交換しあって、またね、したのであった。
別れる時は、手を振っただけ、ビズはなかった。しとけばよかったのに・・・。
こういうところが、ザ・日本、なのである。

退屈日記「キスではなく、ハグでもなく、ビズ。でも、時々、キスのようなビズもあり」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
ビズ、ぼくは嫌いじゃないです。頬と頬がくっつくか、くっつかないか、でなんかフランス的な距離感がわかる、というか。ビズが出来るあいだは、仲がいい証拠だし。久しぶりにあった喜びが増しますね。でも、ニコールのチュッは驚きました。短い間に、ものすごく親しくなれたのでしょう。彼女の作品、ぼくは好きでしたよ。アーティスト同士ということで・・・。えへへ。
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