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滞仏日記「ぼくが寝泊まりをするパリ事務所のすぐ近くでテロがあった。見えないものたち」 Posted on 2023/12/04 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、昨日の夜、寝ようとしていたら、マノンちゃんから連絡があり、「エッフェル塔のそばでドイツ人観光客(フィリピン生まれ)が刺殺されました、どうやらテロのようだから、ムッシュ、家から出ないように」と警告のSMSがあった。
急いで、ニュースをつけたら、コンサートもやった日本文化会館とエッフェル塔のちょうど中間地点の映像が映っていて、びっくりした。
今、滞在しているパリ事務所から歩こうと思えば歩ける場所である。
警察にマークされていたフランス人青年が、犯行におよんだテロであった。
この26歳の若者は、ほかの事件で警察に逮捕されたこともある。
たまたまパリに観光にやってきたドイツ人が巻き込まれ、ほかに二人、襲撃されている。(犯人は、ナイフと金づちで犯行に及んだ)
その一人は、犯行に気が付き、止めるために飛び込んだタクシーの運転手さん。
犯人はぼくの家のそば(左岸)で犯行に及び、ビルハケム橋を走ってわたり、右岸側でもう一人の観光客を襲撃した。
明らかに、エッフェル塔を見に来た観光客が狙われたのである。

滞仏日記「ぼくが寝泊まりをするパリ事務所のすぐ近くでテロがあった。見えないものたち」



イルミネーションのひかり輝くシャンゼリゼ大通りや、シャンパンフラッシュのエッフェル塔は、ある種の平和の象徴でもある。
そこには裕福なイメージもつきまとう。
実際、シャンゼリゼ大通りにはルイヴィトンをはじめ様々な高級ブランドのブティックがひしめく。
観光客も集まってくるが、泥棒も、テロリストもやってくる。

来年は、パリ・オリンピックの年だけれど、パリから離れ、ノルマンディにこもるか、日本(もしくは海外)に行くのがいいかもしれない。
戦争はまだまだ終わりそうもない。
この戦争は、もはや限定的なものではないので、終わりが想像できない。
ウクライナからガザへ、そして、あらゆる対立が、アジア周辺や南米やアフリカに拡大していくかもしれない。
人類が何をもって平和とするのか、今、試されているところなのであろう。
実に難しいかじ取りを要求されているのだが、回答は、ひとつではない。

滞仏日記「ぼくが寝泊まりをするパリ事務所のすぐ近くでテロがあった。見えないものたち」



昨日のテロは21時半ごろに、起きた。殺されたドイツ人は、ただ、エッフェル塔の真下に立ち、22時ちょうどに輝くエッフェル塔のシャンパンフラッシュを眺めようとしていたのかもしれない。
この世界が不条理なのは、一切彼のせいではないし、殺される理由など何もない。
まさか、自分がそんな事件に巻き込まれるとはまったく思わず、携帯でエッフェル塔を撮影していたのだろう。心が痛む。
もう一人の襲撃された観光客も、ショックを受けて入院をしている。その人も、なぜ、自分がそんな目にあったのか、理解ができないはずだ。
これが、今の世界で起こっている一連の不条理な事態の余波なのである。
思えば、911からはじまり、パリのライブハウス、バタクランで大勢の若者が犠牲になり、その後も、ずっと、繰り返されている殺戮の流れの一部なのである。
しかし、ガザでは、子供や戦争を特に支持していない市民まで、命を奪われている。それはイスラエル側でも起こったことだ。憎しみに終わりがないかのように。
ドイツ人観光客の死は、平和な西側の世界だからこそ、世界中の人々の目や心にとまり、悲しみを募らせているが、実際に砲弾が飛び交う戦地では、本当に幼い子供も、報道されることもなく死んでいく人も夥しいほどにいるのだ。
ぼくはアトリエにこもり、耳栓をして、絵に向かっている。
今日も一日、白いカンバスに、この世界への祈りを塗りたくった。

滞仏日記「ぼくが寝泊まりをするパリ事務所のすぐ近くでテロがあった。見えないものたち」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
21時半にこのテロが起こったのですが、その時、ぼくは三四郎とその近く、夜の路地を散歩していました。テロ現場から、そう遠くはない場所です。ぼくが巻き込まれない可能性はゼロじゃなかったし、今後も、そういうことが続くでしょう。これはパリだけじゃなく、世界各地で起こりうることだということです。そういう時代にぼくらは生きています。この世界の各地であらゆる暴力によって、無残に殺された人々のことを思い、祈りたいと思います。

滞仏日記「ぼくが寝泊まりをするパリ事務所のすぐ近くでテロがあった。見えないものたち」



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